昨晩、恋人に別れを告げられた。なんでも、私のことは好きだけど結婚はできないと感じてしまったらしい。何だそれ。好きなら別れなくていいじゃん。ていうか、結婚とか、私たちまだ22歳だし。そんな真面目に考えなくってもいいじゃん。なんて思ってしまったがそれを口に出すことはできず「そっか、仕方ないね」って、全然納得なんかしてないのに私は彼の言葉を受け入れた。この人と結婚できたらいいなあ、と少なからず思っていただけに、結婚対象として見れないという言葉を突きつけられたことは中々にショックがデカかった。
彼が私の家で使っていた歯ブラシも髭剃りも着替え類も、何もかも不要なものになる。取りに来てもらってもいいが、それを会う理由にしていると思われるのも何だかシャクだし、捨ててしまうことにした。しかし、今私の手には1つだけ彼が好んで喫っていた煙草が握られている。ヘビースモーカーというわけではなかったが、寝起きや食後、情事後に決まって喫っていたマルボロだ。
見慣れてはいるものの触るのはほぼ初めてのソレをマジマジと見ていると、「よお」と聞き覚えのある声がした。



「珍しいな、手前がこんな場所にいるなんて」


「お疲れ様です、中原さん」


「いい加減その呼び方と敬語やめろよ」


「いやーいくら同い年でもキャリアが違いますもん」


戯けたようにそう言えば、中原さんは「敬意なんか一ミリも払ってねえだろうが」と吐き捨てるように言った。そんなことはないんだけどなあ。
喫煙所には、私たち以外の姿は見当たらない。
意外に思われるかもしれないがポートマフィアは、分煙が徹底されている。理由は一つ、エリス様に副流煙を吸わせないためだ。愛煙家の構成員達からすれば迷惑極まりないかもしれないが、首領命令だから従うしかない。それは幹部である中原さんも同じだった。慣れた手つきで煙草に火をつけ嗜む中原さんに見習い、私も彼奴が残していったそれに着火してみる。大丈夫、昨日ネットで吸い方についてはきっちり調べた。何だか中原さんの視線が気になるけど、ここまで来たからには吸ってみるしかない。
と、意気込んだはいいものの、



「ッ、ゲホッ!ヴッエ、まっず!!!!」



口に含みひと吸いした途端、こみ上げる咳に思わず涙が出た。なんだこれ、不味すぎ。何を好き好んで愛煙家の皆様は自分の健康も顧みずにこんなものを吸うのだろう。こんなものに400円以上払うだなんて、馬鹿げている。


「、、、女は煙草なんか吸うもんじゃねえ、とは言わねえがみょうじには向いてねえよ」


涙目で口を押さえる私の手から、中原さんは煙を上げるソレをスルリと奪い取り咥えだす。先ほどまで彼が吸っていた煙草はまだ十分な長さがあったのに、既に灰皿の中でゆらゆらと紫煙をあげていた。もったいないなあなんて思っている貧乏性の私をよそに、不機嫌そうに眉根を寄せ中原さんは煙を燻らせた。



「チッ、相変わらず俺の口には合わねえなあ」


「ハハッ、煙草にも合う合わないがあるんですね」


「まあな。みょうじにもこんなもんは合わねえよ」


だからとっとと捨てろ、

グシャリとマルボロの火を消し、立ち去っていく中原さんを見て、私は妙に納得してしまっていた。そうか、合わなかったのか。私とマルボロ、そして私と彼は。そりゃ別れても仕方ない。
喫煙所の隅っこに置かれたゴミ箱に白と赤のパッケージを押し込む。

煙草なんて包装も入れても重さは数グラムしかないはずなのに、やけに身体が軽く感じた。






ゆらゆらと、煙に巻かれて



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