山菜が食べたい、急にそんな衝動にかられた私は久しぶりに仕事が休みの日にバイトを入れず、山に出向くことにした。とにかく山菜が食べたい。天ぷらにしてもいいし、お芋と煮物にしてもいい。山菜そばも捨てがたい。何でもいいから山菜食べたい。
「山菜ちゃんはどっこかなー」
ルンルン気分で山道の中を歩き回る。あ、こんなとこにぜんまい発見!
にやりと口角をあげ、背中の竹かごにそれを放り込む。ようしこの調子でどんどん収穫してやんよ!
ぜんまいが見つかったことで俄然やる気がわいてきたそのとき、どこからか子供の声が聞こえた。
こんな山の中に子供……?
声のするほうへそっと近づいて見ると、どうやら子供は二人いるらしい。にしても、一人の声はやたら聞き覚えがあるな……。てか、この声いぶ鬼じゃね?じゃあもう一人もドクタマ?でもドクタマにこんな声のやついないし……。
もう少し近づいて様子を窺いたい。しかし、何となく気づかれてはいけない気がして私は抜き足差し足忍び足で二人に悟られないよう歩いた。よし、あの岩まで近づいてみよう。
……なんだか私忍者みたい。
そんなことを考えていると、小さな声で「……なまえ?!」と呼ばれた。ん?誰だ?
声の出所がわからずキョロキョロしていたら「下だよ下!」と言われたので下を見てみればなんと、しぶ鬼がいるではないか。
「何してるんだよ」
「それはこっちの台詞。しぶ鬼こそ、こんなとこになんで隠れてんのさ」
「……昨日、いぶ鬼の様子がおかしかったから後をつけてみたんだ。そしたら、いぶ鬼のやつ、忍者学園の金吾といたんだよ」
「金吾?誰それ」
「ほら、あそこでいぶ鬼と話してるやつ」
「へえ。あの子忍術学園の忍たまなんだ」
「僕たち、学園長先生に忍たまとは遊んじゃいけないって言われてるんだ。いぶ鬼のやつ、先生に僕たちはまだ子供だから密会はだめって言われてるのに」
へ〜。ドクタマと忍たまもなかなか大変なんだ。別に子供なんだから仲良くすればいいのに。あ、でも一応敵同士だからそうもいかないのか。
それにしても、いぶ鬼楽しそうだなあ。そもそも、あんなに可愛い顔して話すんだ。普段私と話すときはテンション低いのに。なんなんだこの温度差は。
「それは違うよ」
「庄左ヱ門!」
「庄左ヱ門!って誰」
「忍たまの黒木庄左ヱ門」
「初めまして。忍術学園一年は組黒木庄左ヱ門です」
「あ、ドクタケ城事務員みょうじなまえです」
いきなり現れた庄左ヱ門くんに大人顔負けの丁寧な挨拶をされ少したじろぐ。できた子とはこういう子のことを言うのだろう。
「で、違うってどういうこと?」
「それが、僕も金吾の様子が変だと思って悪いとは思いながらも後をつけてみたんだ。そしたら、あの二人はただ一緒に遊んでるだけだってわかったよ」
「そうなんだ」
どこか安心したように庄左ヱ門くんの言葉に頷くしぶ鬼をみて、いぶ鬼のことを心配していたんだということに気づいた。仲間思い、それもしぶ鬼の美点だろう。年上に対して、というより私に対しての態度はまっったくなってないけど。
そんなことを考えている私をよそにしぶ鬼は庄左ヱ門くんにリーダーの秘訣とやらを熱心に訊きだしている。
庄左ヱ門くんはそれに対し困ったように笑った。やだなにその控えめな笑顔可愛い。いちいち謙虚な庄左ヱ門くんの態度に内心悶えつつ私は二人の会話に耳を傾けた。
「冷静さかあ、強いて言うなら、お茶だね」
しぶ鬼になぜいつも冷静でいられるのか訊かれた庄左ヱ門くんのだした答えはとても子供とは思えないものだった。しぶ鬼にいたっては意味を理解していないらしい、「お、お茶?」と目を丸くしている。馬鹿丸出しだ。
「今日は天気がいいから外で茶を点てようと思うんだけど、どう?よろしかったら、なまえさんも」
「いいの?」
「しぶ鬼はともかく、私までお邪魔して大丈夫?」
「はい。人数が多い方が楽しいですし」
「庄左ヱ門、いっとくけどなまえはすっごい五月蝿いよ」
「違いますー。正しくいえばあんたたちドクタマが生意気だから自然と声を荒げちゃうだけですー」
「そういうのを大人気ないっていうんだよ」
「しぶ鬼みたいなのを可愛げがないっていうんだよ」
「アハハ!2人は仲良しなんですね」
『断じて違う』
声を揃えて否定する私たちをみて庄左ヱ門くんはますます笑った。
**********
小高い丘の上に敷布をひろげ、正座をして茶をたてる庄左ヱ門くんの手つきは慣れたもので、私もしぶ鬼も口を開け、感心しっぱなしだった。
「どうぞ」
差し出されたお茶は普段湯呑みで飲むそれとはやはり違う。
口に含んだ瞬間広がる茶独特の渋みと香りは急須のお茶を何倍も濃くしたようなものだ。団子屋のお茶も、餡の甘味を際だたせるために少し濃いめのお茶にしているが、それとは比べものにならない。これのよさがこの年でわかるとは、庄左ヱ門くんは言動の端々からも見受けられるが、なかなか教養のある子供のようだ。
「苦ぁ!」
どうやら、顔を青くして舌をだすしぶ鬼の口には合わなかったらしい。
「その苦いのがいいんだよ」
「ふっ、まだまだ子供ねしぶ鬼は」
「なんだとー!なまえだって苦そうに飲んでただろ!」
「そんなことありませーん」
「あ、お茶菓子にお饅頭があるんですけど」
『是非ください』
お饅頭という言葉に即座にくらいついた私をみて「やっぱり苦かったんじゃないか!」というしぶ鬼にデコピンをくらわす。
おでこを抑え文句を言ってるしぶ鬼は無視して、私はお茶と饅頭に舌鼓をうった。
→
ALICE+