今日は特にすることがないから楽チンだなー。暇だしドクタケ教室のほうちょっとだけ覗いてみよっかなー。でも私が顔出したら何かとアイツら突っかかってくるからなー。……やめたお茶でも飲もう。
折角だし殿のとこにでもいって一緒に3時のおやつにお誘いしよう、というのは建て前で本音は殿の持ってる高級茶菓子を貪りたい。今は甘いものが食べたい気分だからお饅頭があったらいいなと淡い期待を抱き作業机の上を片づける。
よっこらせと立ち上がり事務室を出ようとした瞬間、黒い影がものすごい速さで天井から降りてき、いつの間にか私はその影に担がれていた。

いや、何事ですか。

状況を把握できるはずもなく、気づけば城外へ連れ出されていた。

「助け―…ムグッ!」

助けて、と叫ぼうとしたが口を塞がれくぐもった声しかでなかった。これは本格的にやばい。

「大丈夫、なまえちゃんに危害を加えるつもりは毛頭もないよ」

どこかで聞いたことのある声は優しくそう語りかける。いや、危害は加えないってもう十分被害にあってるんですけど。

「よっと。ここまで来たら平気かな」

草むらに降ろされ、ようやく黒い影の正体がわかると思い真っ先に声の主に目をむけた。

すると、そこにいたのは

「やあ、久しぶりだね」

「げげ!雑渡昆奈門さん!」

包帯から覗く目は相変わらず楽しそうに歪められている。いったい何の用があってこんなところに私を連れ出してきたのだろう。まさか、またまたタソガレドキへのスカウトだろうか。それならこの前きちんとお断りしたはずだけどな。

「言っときますけど、タソガレドキには行きませんよ」

「違う違う。今日はなまえちゃんに会わせたい人物がいてね」

「へ?」

「組頭!こんなとこにいらっしゃったのですか!探しましたよ」

突如木の上から現れた男は、雑渡さんよりかなり若々しく、どこかまだ幼さの残る容貌だ。
覆面をしてはいるものの、その表情はハッキリと読み取れる。目をきっとつり上げて、雑渡さんを睨んでいるが、くりくりした目のせいで全く凄みがない。あれじゃあまだ私が睨んだほうが恐いぞ。

「尊奈門、これがなまえちゃんだよ」

「あなたという人は……忍たまの次はドクタケの事務員にまで世話を焼くというのですか」

「あの、雑渡昆奈門さん状況が把握できません」

「二人の仲人、それが今日の私の立場さ」

「ますます不可解です」

「そうですよ組頭。ドクタケの事務員なんか放っといてさっさと仕事に戻ってください」

「ちょっとあなた、ドクタケの事務員なんかってなんですかなんかって」

「ドクタケの評判が悪いのは知ってるだろう」

「むきー!あくまでもドクタケの、評判がよろしくないだけで私には関係ありません!」

「まあまあ、二人とも。喧嘩しないの。将来夫婦になるのかもしれないんだから」



「「………………は?」」



そんなもん、と呼ばれた男の発言が気に食わなくてつっかかっていたら、雑渡さんがさらりと爆弾を投下してきて思わずそんなもんとハモってしまった。
今なんつったこの人。



「組頭、どういうことですか?!」

「そうですよ!わたしとそんなもんさんが夫婦って!」

「そんなもんじゃない!尊奈門だ!尊いに奈良の奈に門!」

「同じじゃないですか!」

「発音が違う!」

「喧嘩するほどなんとやら」

「雑渡さんは黙っててください!そもそも、本当に意味がわかりません!」

「だから、二人をお見合いさせようと思って」

「ふざけないでください組頭!なんで私がこんなちんちくりんと見合いしなきゃいけないんですか!」

「童顔な人にちんちくりんなんて言われたくありません!私こそお断りです!」

「まあまあ」

まあまあじゃねえよ!
そう怒鳴り散らしたい気持ちは山々だがそろそろ叫び疲れた。
第一、なんで雑渡さんはいきなり私と尊奈門さんに見合いをさせようだなんて思ったんだろう。そこの理由が一番わからない。

「なまえちゃんももう15歳だろう?いい加減結婚しないといき遅れるよ」

「余計なお世話です。それにもしも私が結婚するとしてもなんで初対面の尊奈門さんなんですか可笑しいでしょう」

「尊奈門はいい奴だよ。年齢的にみても君たち二人ならお似合いだ」

「尊奈門さんを結婚させたいなら、私じゃなくても他にいっぱいいるでしょう」

「なまえちゃん、私が結婚させたいのは君だよ」

「え?」

ますますわからない。そこは普通尊奈門さんだろう。なんで部下でもないましてやとりわけ親しい仲でもない私を結婚させたがる?

「君のお父さんに頼まれててね」

「お父さん……?」

どういうこと?雑渡さんは父のことを知っている?でも、父上は一般人で、しかも働いてなくて、数年前に死んでいる。

「私が死んだら娘のことを気にかけてやってくれ、そう言われてたんだよ」

「どういうことですか……?」

「君の父上は、元々は私たちと同じだったんだよ。業界でもかなり名の知れた忍だった」

「……う、嘘」

「信じれないのも無理はない。だけど、これは事実だ」

父上が忍、しかも遣り手の……信じがたい衝撃の事実だ。母上は知っているのだろうか。知っていた上で、父上と結婚したのだろうか。
色々な疑問がわいてくる中、一つ大きな謎が浮上した。
どうして父上は、忍を辞めたのだろう。
私の考えていることを察してか、雑渡さんは言葉を続けた。



「フリーの忍である君の父上は、ある日突然、忍の世界から姿を消した」

「ど、どうして」

「一番有望な説は、忍務中にどこかに致命的な怪我を負った、だけど実際のところは謎に包まれたままさ」

「……」

父のことだ。どうせ「なんとなく」でやめたのだろう。ひょっとしたら何かしら理由があったのかもしれないが、根本的にあの人は特にこれといった理由もなしに行動を起こす人間だった。

「引退する数日前、君の父上は冗談めいたようにさっきの言葉を私に残した。まさか、本当に死ぬとは思っていなかったけどね」

「一ついいですか?父上が亡くなったのは数年前の話ですよね。どうして今になって私のことを気にかけるんですか?」

「なまえちゃんは知らないだろうけど、これでも結構気にしてたんだよ。たまに天井裏から見守ってたし」

それは単なるストーカーじゃ……と思ったけどまあいい。
尊奈門さんは「たまにいなくなると思ったらそんなことしてたんですか!」と目くじらをたてている。

「まあ、そういうわけだから尊奈門となまえちゃんをくっつけようと思ったわけ」

「いや、そういうわけってどういうわけですか!」

「やっぱ後見人を任された身としては早くなまえちゃんに嫁いで貰いたいんだよね。加えて相手が尊奈門だと私の目の届く範囲だし。ほら、一石二鳥」

「……お気持ちだけは有り難く頂戴します。でも、結婚はしません。尊奈門さんにも私にも、選ぶ権利はあるわけですし」

「そうですよ組頭。第一、私はこれから先結婚するつもりなんて毛頭もありません」

「ええー」

ええーって子供かよ!
まあでも、これで雑渡さんも諦めてくれるだろう。
折角の休憩時間がつぶれてしまったがしょうがない。さっさと城に帰っておやつでも食べよう。

「じゃあ、今日は帰るとするよ」

「その口振り、まるでまた来るよって感じで嫌です……」

「え?当然またくるよ?」

「組頭、駄目ですからね」

「今度来るときは美味しい茶菓子でも持ってくるよ」

尊奈門さんの言葉をきれいに受け流した雑渡さんは何かを思い出したかのように「あ、それから」と言葉を付け加える。

「もしも結婚するとしても、山田利吉はやめておいたほうがいいよ」

「な!なんで」

「いっただろう?見守ってるって」

やっぱストーカーだこの人!
いろいろ問いただしたいことがあるのに雑渡さんはあっという間に姿を消してしまった。それに続いて尊奈門さんも消えた。
さすが忍者……って感心してる場合じゃない。
一気にいろいろありすぎて頭が混乱している。
そもそも、雑渡さんが言ってたことは事実なのだろうか。仮にもしも事実だったとして、何故父上は忍を辞めたのだろう。
しかし、答えがでない物事を考えるほど無駄なことはない。
気持ちを切り替えていこう。
城に戻るまでの道のりで私はどうにかそれまでの思考を振り払い、今日せずともよい仕事に没頭した。


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