今日も今日とてお金のために事務職に勤しんでいる私。働くこと、というよりお金を稼いでいることに対しての喜びを噛み締めながら書類の整理をする。ああ、いまこうしている間にも一銭一銭確実に稼いでいる……なんて幸せ。
「パカラッパカラッパカラッ」
何やら廊下の方から阿呆丸出しの間抜けな声が聞こえるけど問題ない。声の主はわかりきっているので敢えてスルーし、黙々と作業を続ける。
「パカラッパカラッパカラッパカラッ、ヒヒーン!」
……止まった?しかも、事務室の前で?いや、気のせいだ。うん、気のせい。さあ仕事仕事…「なまえ!ここを開けんかー!」…。
殿の命令では仕方ない。渋々、戸を開けるとそこにはやはり、我らが殿、木野小次郎竹高が張り子の馬に乗って立っていた。いつ見てもダサいと思う。けどそんなこと言って減給なんかされたらたまったもんじゃないから口には出さない。
「はかどっておるか」
「ああ、まあ、はい」
……あんたが来るまではな!思わず心の中でそう付け加えてしまった。
「うむ、そうかそうか。ところでなまえよ、」
「戦、ダメ、絶対」
「まだ何も言っておらぬ!」
「じゃあなんですか」
「今すぐ武道に長けた優秀な忍者を見つけてこい!」
「……意味がわかりません」
「だから、武術が得意な忍者を捜せと言っておる!」
「いやそうじゃなくて、なんでですか。分かり易くかつ簡潔に説明してください」
「新しくドクタケ忍術教室に講師を迎えるのじゃ」
「それなら別に達魔鬼さんでよろしいのでは?」
「キャプテン達魔鬼は水軍の設立に専念してもらいたい!」
……まだ水軍のこと諦めてなかったんだ。殿のあきらめの悪さに呆れながらも「なるほど」と適当に相槌をうつ。
「そういうことだから、さあ、ゆけ!」
「ゆけ!って言われましてもちょっと色々無理があるんですが」
「スカウトしてきた人材が優れていたら特別手当てをうんと出そう」
「わかりましたタソガレドキの雑渡昆奈門さんより素晴らしい忍術をつれて参ります」
「うむ、頼んだぞ。パカラッパカラッパカラッパカラッ」
張り子の馬に乗っているつもりで廊下を軽快に走り去っていく殿を見送り、早速出発の準備にとりかかる。早くしなきゃ。なんといっても、特別手当てが私を待っているからね。ふふっ、いくらくらいもらえるかな……。
緩みまくる顔を出来るだけ引き締め、私は城を出た。
しかし、忍者を捜せと言われたものの、どこにいけば忍者に会えるのかとか知らないし何より優秀な忍者ってものがそこら辺にいるのかさえもわからない。勢いで了承したが、案外難しいミッションだ。
しかし、知らぬ存ぜぬは通用しないそれが職場だ。必ずやこの任務、遂行してみせよう。
**********
とりあえず、いくあてもない私は山の中をうろついてみることにした。ひょっとしたら、この辺で修行をしている忍者とかがいるかもしれないし。
そんな淡い期待を抱きながら鬱蒼と生い茂る草木を掻き分け歩くが、なかなかいない。……そりゃあそうか。
諦めて後日町で求人票でも張りだそうかな、そう考えているとふいに道が開け景色が広がった。いつの間にそんなに歩いていたのだろう。
……面倒だけど、引き返すか。そう思い歩いてきた道なき道へ戻ろうとしたその時、
「誰だ!?」
「ぎゃっ!?」
いきなり頭上から人が降ってきたではないか。よく見ると、手には棒状の鉄が三つ連なったなにやら物騒な武器を持ってる。
「あ、怪しいものでは御座いません……!」
「そういう奴が一番怪しい!そもそも、お前のような女一人でここまで来れるはずがない!」
そう言われましても……来れたものは来れたわけだし……。てか、そんなに山の中険しくなかったし。
「と、とりあえずその右手のものをお収めください」
「……」
怪訝そうな表情ではあるものの、男は私の言葉を聞き入れ武器をおろしてくれた。危ない。なかなかクレイジーな野郎だ。あんなんで殴られたらひとたまりもない。
「……あれ?」
よくよく男の顔を見てみると、なにやら見覚えがあるような気がしなくもない。ほぼ毎日顔を合わせているような、いないような、そんな人の顔に似ている。
「……あーっ!」
「な、なんだ!?」
そうだ!男の顔はサングラスを外した時のしぶ鬼に似ているのだ。しぶ鬼も大きくなったらこんな風になるのかな。まったく想像出来ない。私の中でドクタマたちは一生あの姿のままだろうというイメージがある。あいつ等が成長し、私の背を追い越すとか、有り得ない。ドクタマたちを見上げなきゃいけないとか屈辱的すぎる。
「おい……黙ってないで何か言ったらどうだ」
「すみません……ちょっと嫌なこと考えたら気分が悪くなって」
「な、大丈夫か?」
さっきまで敵意を剥き出しにしていたとは思えない表情で男は私を心配してくれる。
「大丈夫です。あ、私仕事中なんで失礼します」
「仕事中?なんの仕事だ?」
「人を捜しているんです。武術が得意で優秀な忍者を」
「ほう……」
「まあ、そんな人滅多にいませんよね」
アハハハと笑いながら同意を求めると男は「いや、」と、少し自信に満ちた顔、いわゆるどや顔で否定した。
「いるぞ、ここに」
「え!どこですか!?どこにいるんですか!?」
まさか、「この俺だ!」とか言わないよね〜。だったら笑える。流石に自分のことを自分で武術が出来るすごい忍者なんて言う、そんな自信満々の人いるわけない。いたら腹抱えて笑う。
「この俺だ!」
「ブフォッ!」
ババーン!と効果音が聞こえてきそうなくらいの勢いで自分を指し胸を張る男に思わず小さく吹き出してしまった。幸い、男には気づかれなかったらしい。よかったよかった。
よし、他を捜そう。
「そうなんですかすごいですねではさようなら」
「なんでそうなる」
「ちょ、離してくださいお願いします」
「捜していたやつが見つかったんだ。そこは喜んでおくべきだろう」
「自分で自分を優秀とかいう人はちょっと信用なりません」
「安心しろ。これでも忍術学園一の武道派だ」
「あー、私ドクタケ忍術教室の講師を捜しているんで。忍術学園とうちのお城って仲がよろしくないのでしょう?じゃあ駄目ですね。非常に残念です」
「なに、講師ぐらい構わんさ」
「いや、本当に結構ですから」
「俺に任せろ」
そ、そんなキメ顔で言われてもなあ……。どうしよう。かなり面倒くさい人に関わってしまった。
しかし、見たところ素人の私でもわかるくらい男の体はかなり鍛えられている。忍術学園一の武闘派か……それがこの男が自分で言っていることなのかはたまたそう言われているのかは、この際気にしないでおこう。もう色々と面倒だし、この人を連れて行っとけばいいか。本当に武術が得意だったらそれはそれで万々歳だし。
「……じゃあ、お願いします」
「なんだ、その気になったか」
「まあ、はい。あ、よろしければお名前を」
「食満留三郎だ」
「わかりました。ケマさんですね。私はみょうじなまえです。今から城にいくんで、ついてきてください」
ケマ……けま、毛魔?家麻?珍妙な名字すぎてどんな字かさっぱりわからない。
とまあ、ひとまずケマという(自称)武闘派の男をスカウト、というより、向こうが勝手に自分を推薦してきた形ではあるが、どうにか私はミッションを遂行することが出来た。
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