ドクタケ城まで帰る道中、(自称)武闘派の食満留三郎はいろいろなことを話してくれた。というよりは、一方的に向こうから喋ってきたのだ。名字のことも、彼がわざわざ「食べるに満たされるで食満だ」と説明してくれたので「へー。いい名前だね」と適当に返事をしておいた。本当は変な名前だと思ったけど、そう言うと無駄につっかかってきそうだからやめておいた。これはかなり賢い選択だったと思う。まだ出会って少ししか経っていないが、食満留三郎という人間は私の中で面倒くさい人番付でそこそこ上の方に格付けされた。
ちなみに、敬語からタメ口になったのはよくよく考えてみたら食満留三郎は忍たまの六年生、つまり私と同い年だからである。
そんなこんなで食満がいかにモンジロウ?とかいう奴が憎たらしいかを熱弁しているうちに城についた。
さて、まずは殿に報告をしなきゃいけない。それまで食満は事務室ででも待たせておけばいっか。
「さ、入って入って」
「入門票はないのか?」
「あー、今回は特別にナシの方向で。ヤッタネ!」
「……適当だな。小松田さんならありえないぞ。あの人はサインをもらうまで追いかけるからな」
「まじで」
事務職はからっきしダメなのに、意外だ。
「じゃあ、ちょっと殿に報告してくるからここで待ってて」
「……いいのか?」
「なにが?」
「俺は、忍術学園の生徒なんだぞ?」
「そうだね。それが?」
「お前の城の門外不出ともいえる極秘の資料を盗み出す、ってことがあるかもしれないのにか」
「……盗むの!?」
「誰もそうは言ってない」
「なんだ。じゃあいいよ。適当にくつろいでて。あ、そこに(雑渡さんから勝手に送りつけられてきた)煎餅あるから食べていいよ」
「お前……もっと慎重に生きた方がいいぞ」
「失敬な。こう見えて石橋は叩いて渡る派だし。とにかく、ここで待っててね」
「……わかった」
私が差し出した煎餅をまじまじと見て「……ん?これ、確か伊作も持ってたような……」とブツブツ呟いている食満をおいて、私は事務室をでた。
確かに食満の言うとおり、初対面の相手を、しかもうちの城とはあまり友好的ではない忍術学園の六年生を城内に一人にしておくのはかなり危険なことかもしれない。
しかし、ちょっと自意識過剰というか、自信家で少し鬱陶しい奴ではあるけど、私には食満はそんなに悪そうな奴には見えなかったのだ。
「殿、なまえです。只今戻って参りました」
「うむ、入るがいい」
「失礼します」
「早かったな」
「それが、まあいろいろありまして」
「なんじゃ。見つからなかったのか」
「いや、武術が得意な忍者は見つかりはしたんですが、その……忍たまなんですよね。ハハッ」
「なに!?」
……やっぱ駄目だったか。
「……まあよい!」
「って、いいのかよ!」
思わずタメ口でツッコミを入れてしまったが殿は気にしていないらしく、「優秀な忍たまなら問題はない」と優雅に扇子を仰ぎながらそう言った。相変わらず緩いなこの人。
しかし、思いのほか簡単に事が運んで安心した。後は食満の実力が本物かどうかを確かめるだけだ。
「では、後のことは任せたぞ」
「えっと……特別手当ての方は?」
「後々渡そう」
「エヘヘ。わかりました。では、失礼します」
部屋を出て小さくガッツポーズをし、スキップしながら事務室へ帰る。ムフフ……どれくらいもらえるかな?
って、いけないいけない。こんなに緩みきった顔で歩いてたらまたドクタマたちに「どうせ金のこと考えてるんだろ」と馬鹿にされてしまう。
きゅっと口元を引き締め事務室の戸に手をかける。
「お待たせ」
「……何かいいことでもあったのか?」
「え!な、なんでわかる?」
しかし、事務室に入るなり食満にそう指摘されてしまった。おかしい。私はポーカーフェイスをしていたはずだ。
「ひ、ひょっとして食満って、読心術の使い手……?」
「んなわけあるか!顔にかいてあるんだよ!」
「まじかよ。まあいいや。あ、採用だって。よかったね」
「軽いな!」
「そろそろドクタマたちの授業が終わるころだから、早速いくよ」
「……」
何故か呆れたような目で私を見る食満に「何?」と聞いたら「なんでもない」と返ってきたのでじゃあそんな目で見るなよと思ってしまった。
「あそこがドクタケ忍術教室だから」
「ほう、あれがか」
ちょうど授業が終わったのか、教室から「ありがとうございましたー」とドクタマたちの声が聞こえる。
すると、出席簿と教科書を脇に抱えた魔界之小路先生が出てきた。相変わらず奇抜な袴だ。
「こんにちは魔界之小路先生」
「なまえじゃないか。ん?君は?」
「忍術学園六年は組食満留三郎です」
「今日から彼にはドクタマたちの武術の講師になってもらいます」
「そうだったのか。ドクタマたちはみんないい子だからね。食満くん、よろしく頼むよ」
食満の肩を叩きながらとんでもない嘘をつき、魔界之小路先生は職員室に去っていった。
「あれ、嘘だからね」
「何のことだ?」
「ドクタマたちがいい子っていうの。あいつらとんでもないクソガキだから」
「もしかして、なまえに対してだけ生意気なんじゃないのか?」
「だからクソガキなんだよ」
「誰がクソガキだ!」
一体いつから聞いていたのか、勢いよく引き戸をあけてしぶ鬼がそう言ってきたので「これ、ダントツで生意気なしぶ鬼」としぶ鬼を親指でさし、食満にわかりやすく紹介してあげた。
「講師として武術を教えることになった食満留三郎だ。よろしく」
「いぶ鬼です。よろしくお願いします」
サングラスをかけているため、目は見えていないが似たような髪型と顔をした二人が握手を交わす姿は何だか見ていて不思議なものだ。
将来、しぶ鬼もキャプテン達魔鬼みたいな感じになるのかな(というよりむしろそうなって顎が割れたらいい)と思っていたけど、この感じだと血縁関係者じゃない食満に似そうだ。今はまだ生意気なとこだけが癪だけど、将来顔だけでなく自信家なとこまで食満に似たら最悪じゃないか。しぶ鬼が「座学忍術ともにドクタマでナンバーワンのしぶ鬼だ」とかどや顔で言うようになったら……、いや、案外それはそれでウケるな。
そんなことを考えていると、他の三人のドクタマ達もこちらの様子が気になったのか、教室から出てきたので、食満を講師として招くことになった経緯を簡単に説明し、適当に自己紹介をすませた。私としては今日は顔合わせ程度でいいだろうと思っていたのに、
「よし、では早速始めるぞ!」
「え、いきなりやるの?」
私の問いかけに「当たり前だろう!」と拳を握って応える食満はドクタマたちが微妙な顔をしているのに気づいていないようだ。山ぶ鬼に至っては、「今時熱血って古くない?」とふぶ鬼に耳打ちしているし。
そんなドクタマたちにはお構いなく食満は講義を始めた。
しかし、最初は温度差を感じずにはいられなかったが、食満の実戦と練習では全く違うことや、ではどうすれば日々の練習で実戦に近い動きが出来るかという話を聞いてるうちに、ドクタマたちの表情は真剣なものに変わっていた。
かく言う私も、感心しながら食満の話に耳を傾けている。本当に武闘派だったんだ。これはなかなかいい人材を捕まえたかもしれない。殿はスカウトしたのが優秀な忍だった場合、そのぶんボーナスを上げるって言ってたから……
「……ムフッ」
「な、なんだ?」
「気にしない方がいいですよ。あの笑いは金のことを考えたときのものですから」
呆れながらそう説明するいぶ鬼の言葉に食満も「きり丸みたいな奴だな……」と呆れたように呟いていたが、私の頭の中はすでに今月の給料のことでいっぱいいっぱいだった。
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