燦々と降り注ぐ太陽の光が鬱陶しく感じるというのも魔界之小路先生にお使いという名のパシリをさせられているからだ。
これも仕事の一環でちゃんと給料はいただけるんだけど、どうにも徒歩で忍術学園までたった数枚の書簡を届けにいくのは、ダルすぎる。
大体、こんなの飛脚や馬借に頼めばいいものを。だが、費用削減のためにはそういった運送業者に頼むよりこうしたほうがいいのは確かだ。
でも、ぶっちゃけドクタマたちにいかせとけばよかったんじゃね?とも思う。でもあいつらも一応学費を払って勉強してるんだもんな……パシリなんかしてる場合じゃないよね。
こうなったら、頻繁に茶屋によって八方斎さまにあとで移動経費としてお茶代をせびろう。
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「つ、ついた……」
ようやく忍術学園にたどり着いたのはいいけど、半ばヤケになりつつ団子を至る所で食べたせいでお腹が苦しい。
「あれ?なまえちゃん?」
ギィ、と軋みながら開いた扉から顔を覗かせるのは、先日、1日だけドクタケ城で事務員として働いていた小松田さんだった。思わぬ人物との再会に沈んでいた心が少なからず弾んだ。
「お久しぶりです小松田さん」
「今日はどうしたの?」
「これを学園長先生に届けに来ました」
魔界之小路先生に渡された封筒を小松田さんに見せたところで私はハッとあることに気づいてしまった。
本当なら、ここで小松田さんにこの封筒を渡しさよならといきたいところだが、相手はあの小松田さんだ。共に過ごしたのは半日足らずだったけど、小松田さんはメガトン級のドジっ子である。この重要っぽい封筒をその神様のイタズラによって生まれた今世紀最大のドジっ子の小松田さんに託してしまったら、確実に何かしらのトラブルが起こる。それこそ、風に飛ばされたりだとかうっかり池に落としたりだとか、とにかく予想はつかないが絶対なんかある。
もしも無事に書類が届けれなかったら……それは減給につながるかもしれない。
なんとしても、それだけは阻止しなくては……!
「小松田さん、学園長先生のところへ案内してくれませんか?」
「へ?僕が渡しておくよ?」
「いえいえ!そんな小松田さんの手を煩わせるようなことできません!それに、もしもなにか書類で不明な点があったとき、私がいたほうが何かと便利でしょう?」
「なるほど!わかった。とりあえず、入門票にサインしてね」
「はいはい!さらさらさら…っと」
手渡された筆と入門票に署名し、いざ忍術学園の内部へ!
と思ったら
ズボッ!
「ぎやああああ!」
地面が姿を消しました、否突如穴が空きました。なにこれ、罠?罠なの?それともあれか、私がドクタケの人間だからか。招かざる客ってか。
「大丈夫?学園の中には落とし穴がいっぱいあるから気をつけてね、って言おうと思ったんだけど……遅かったね」
えへ、と可愛らしく笑う小松田さんは可愛さ余って憎さ百倍だっけ?ん?まあとにかくかなり憎たらしい。そもそもなんで敷地内に落とし穴がいっぱいあるだって聞きたい。
「それは落とし穴ではありません。蛸壺です」
いやいやどーでもいいからてか蛸壺と落とし穴って何が違うんだよと突っ込む前に、誰だこの少年は。
私の言いたいことを察したのか小松田さんは「あ、彼は綾部喜八郎くんといって天才トラパーの異名を持つんだよ」と説明してくれた。へー。天才トラパーねー。ということは、彼がこの穴の制作者?
「うおおお!」
「ど、どうしたのなまえちゃん!」
穴から飛び出し綾部喜八郎につかみかかろうとする私を慌てて小松田さんが取り押さえた。
「離してください小松田さん!」
「おおお落ち着いて!」
「この野郎を一発殴ったら落ち着きます!」
「おやまあ、足から血がでてますよ」
「キエエエッ!誰のせいだと思ってんだこのすっとこどっこい!やめた!やっぱり二発殴る!」
「落ち着いてええ!」
「そうですよ。何をそんなにカリカリしてるんですか」
「うるせー!今日の私は虫の居所が最高に悪いんだよ!」
「おやまあ」
「と、とりあえず保健室にいこう!ね!」
この鬱憤をはらすために最低一発は綾部なんたらに拳をお見舞いしたかったがこのままじゃ埒があかない。そもそも、向こうに悪気が全くないのだからいくら怒っても無駄だ。そうだよ、こんなところでなにエネルギー消費してるんだ私は。
何だかさっきまで怒ってたのが馬鹿らしく思えてきた。いかんいかん。短気は損気。
さっさと保健室とやらで手当てしてもらって書類渡して帰ろう。
私は小松田さんの言葉に従い、綾部なんたらのことは許すとして保健室に案内してもらうことにした。
「失礼しまーす」
間延びた声でそう小松田さんが問いかけると中から「どうぞ」と男の人の声が返ってきた。
「あ!そういえば吉野先生に呼ばれてるんだった!」
用事を思い出したのか、小松田さんは「あとは保健委員の人にみてもらってね!」と早口にいって何処かへ消えてしまった。おい、ちょっと無責任じゃないのか。見知らぬ土地で独りきりほど心細いものはない。
小松田さんがいなくなったせいで妙な緊張感がわいてきて手が湿ってきた。恐る恐る失礼しますと断りを入れて部屋の中へ入ると私と同じくらいの年齢の男の子がいた。なんだろう、どこか既視感のある男の子だ。
「……あれ?君はたしか……」
「……あ」
思い出した!この前のバーベキュー大会で私が吐きそうになったとき薬草をくれた男の子だ!たしか、善法寺伊作?くんだったような。まさかこんなとこで再会するなんて……菓子折りの一つ買ってくればよかった。
「みょうじなまえさん、だよね?」
「はい。あの時は大変お世話になりました」
感謝の意をこめて深々と床に三つ指ついてお辞儀をする。しかし、それも束の間、膝にじんとした痛みが走り思わず「うっ!」と声を上げてしまった。驚きの再会に足のけがのことをすっかり忘れてしまっていた。
「どうしたんですか!?」
せっかくのよそ行きの服が血がついたせいで汚れてしまったなと落胆していたら、肩をぐわしいっ!とつかまれた。ち、近い。
「情けない話なんですが、落とし穴に落ちてそのとき足を擦りむいたんです……」
みっともないでしょう?と笑ってみると善法寺くんはそんなことないです!と強く反論してくれた。
「僕も、よく落ちますから」
「え、そうなんですか?」
「はい。周りから不運って呼ばれるくらい」
それはそれはなんとも気の毒な……。どこか諦めたように話す善法寺くんはあの天才トラパーにかなり被害にあっているとみた
「あ、いま手当てしますね」
肩を掴んでいた手を離し、善法寺くんは救急箱から包帯やら脱脂綿やらを取り出し始めた。
着物の裾をまくり手当てし易いよう患部をだすと善法寺くんは慣れた手付きで手当てを始める。
「そういえば、どうしてなまえさんは忍術学園に?」
「実は、上司に命令されて学園長先生にお手紙を届けにきたんです」
「上司?」
「あ、私、ドクタケの事務員なんです」
「そうだったんですか!てっきり僕と同い年くらいだとばかり……」
「善法寺くんはいくつなんですか?」
「僕は15歳です」
「15?!私もですよ!」
まじでー!善法寺くん同い年なの!すごいしっかりしてる!向こうも私と同い年としってびっくりしているようだ。
「偉いですね。もう働いているだなんて」
感心したようにそう呟く善法寺くんに同い年なんだから敬語じゃなくていいですよと言えば「じゃあ、なまえも敬語はやめてね」と返された。いきなり呼び捨てされたことに若干戸惑いつつも一応「わかった」と返事をしておいた。
「はい、これでよし」
「ありがとう」
「学園長先生のとこまで送ろうか?」
「え、そこまで世話になるわけには!」
「いいからいいから」
こうして私は善法寺くんに案内され無事学園長先生のもとへ手紙を届けることができた。正直善法寺くんは将来忍者になるには優しすぎやしないかと思ったけど、うちの城の愉快な首領やその仲間たちに比べたらそうでもないかという結論に至った。
もしもまた忍術学園にくる機会があったら、今回と前回のお礼もかねて善法寺くんに何か美味しいもので買ってこよう。
そしてあわよくば綾部なんたらの顔に拳をお見舞いしよう。
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