02
それから半年が経った頃だった。いつも意地悪をしてくるコラソンと一緒に、ローくんが居なくなってしまったのは。
さすがに兄貴分を突然奪われたようで気に食わなかったおれは癇癪を起こして、ドフィに泣きついたのを覚えている。はやくローくんを連れ戻して、って。だけどドフィは宥めるように頭を撫でて「ローはコラソンと病気を治してくるんだ」って言い聞かせた。
「ローは居ねえが、おれの仕事が終われば、お前はおれを一人占めできるぞ」
「…………ドフィのおしごとについてく」
「そいつはダメだ」
危ないからな、と抱き上げられては逆らえない。分かってたけど、とブーたれる。
「じゃあ、植物ずかんがほしいな。それをいっしょに読んで?」
「お安い御用だ。ローもあれで勉強熱心だったが、お前もなかなかだな」
どうやらドフィはおれのことを気に入ったらしく、追い出すようなことはしなかった。半年間でドフィはファミリーのみんなと、おれに教育を施してくれたっけ。
勉強するのは楽しいし、身になるのが面白かった。できることが増えれば周りの誰かが褒めてくれる。難しい本も頑張って読んだ。戦い方も少しずつ覚える。そうやってたくさんのことを学んで、いつかファミリーに恩返しがしたかった。
そばにローくんが居ないことが、どうにもやっぱり寂しかったけど。
みんなと過ごす初めての誕生日が過ぎてしばらく経っても、ローくんは帰ってこなかった。
病気治ったかなあ。苦しくないかなあ。おれはローくんの部下なのに、たいへんなときにそばに居てやれないんだ。
そんなことを考えながら日々の戦闘訓練に励んでいたある日、ドフィがやってきていつもみたくおれを抱きかかえて言った。
「ローが帰ってくるぞ」
「……ほんと? ほんと?」
「ああ、ローの病気にぴったりの悪魔の実が見つかってなァ。これをコラソンに食わせてローを治療させればいい」
「ローは治るんだね、ドフィ! ありがとう!」
それなのに、結局ローくんは帰ってこなかった。
◆
ローくんとコラソンが見つかったらしい。だけど、ふたりが居た島への上陸許可が、おれにだけ降りなかった。
幼過ぎたのも理由だったが、「裏切り者」となった二人と接触した際に正しい判断が難しいだろうと言われたからだ。
ニアはローが好きだからなあ。
そう言ったドフィの顔がとっても切なくて、辛かった。二人はどうしてドフィにこんな顔をさせるんだろうと、おれまで悲しくなった。
二人はドフィのこと、好きじゃなかったのかなあ。こんなに優しくて、頑張り屋さんで、いいお兄ちゃんなのに。
口にはしなかったが、船を降りるドフィを見送るときに普段よりながく抱きついていた。
「……ちゃんと言うこと聞くから、おれも連れてって」
「外は寒いぞ」
「みんな寒いでしょ」
「でもお前はローが」
先に下船した仲間たちがドフィを急かすように呼んでいる。ほらはやく行かなくちゃ。
「ローくんが、なあに?」
「なにって」
「おれたちのボスはドフィでしょ」
そのとき、ドフィはちいさく笑った。こんな状況なのに。
悪いことを企むときの笑い方だったのを覚えている。後から考えるに、おれからの忠誠心に満足したのだろうと思う。よかった。返事の仕方は間違ってなかった。
「そこまで言うなら、一緒に来な」
勿論おれのボスはドフィだけど、おれのたいせつなひとに順番をつけるならローくんがいちばんなんだ。これは絶対ドフィには言っちゃいけないけど。
正直、その日のことはよく覚えていない。
頭が追いつかなかったからだ。ただドフィやみんなはそれからずっと怖い顔をしていて、気がついたらコラソンだけがおれたちの目の前にいた。
ローくんはもう逃げただとか、あとはコラソンがドフィのことを悪く言って。コラソンの言葉をぼんやり聞いているとローくんのことが大事なんだなってふんわり感じ取れる。
ドフィとコラソンを眺めてたら、どうしても辛かった。
せっかくの兄弟なのに、と思った。
どうして兄弟同士なのにこうやって銃口を向けあわなきゃならないんだ。
頭が痛い。よく分からないが、ひどく悲しい。ドフィがすこし辛そうだからだろうか。
気がついたらコラソンは血だらけで倒れていて、おれは呆然と立ち尽くしていた。誰かに手を引かれ、船まで戻る。それからは海軍の追っ手から逃れるために海を走り続けた。
船内のソファに腰掛けていたドフィの脚に乗り上がる。なんとも言えない視線を寄越したドフィは、しばしあってちいさく笑んだ。
なんの企みもない、ちいさな笑みだった。
「お前はどこにも行くなよ、ニア」
肩を抱かれ、腰を抱き込まれ。身動きが取れない。苦しいながらにおれは「うん」と囁いた。こんな寂しいひと、一人にしたくないなあ。そう強く感じてしまったのだった。