降谷さん育成キット編 01


 降谷さん育成キットと書かれていた荷物がポストに投函されてきた。

「……んん?」

 私はこんなもの買った覚えはないし送ってくる人に心当たりもない。いやそもそも名探偵コナンという漫画は好きだが私の押しは降谷零でもなければ安室透でもないしバーボンでもない。
 マンション一階に設置されたポストのなかから荷物「降谷さん育成キット」と書かれた、小学生が夏休み前に興味持ちそうな書体でデザインされたそれを持ち部屋に向かいつつ、箱を眺めた。
 宛名は間違いなく私の名前になっている。ならば私がいつのまにか頼んでしまったのだろうかと悩みながら云々考えていたら部屋につき、仕事で使ったカバンやらをソファに放り出して箱の開封を試みた。

「税込みで19800円とか育成キットのクセに高いな」

 中に入っていたのは説明書というには本屋で売られている飼育指南書並に分厚い本一冊、プラスチック製の虫かご、エサ(固形と液状と半液状の三種)、プラスチック製のエサ皿と哺乳瓶、ウズラサイズな卵。

「いやいやいや」

 やけに完成度高ェなオイ。アームストロング砲かよ。というか降谷さん育てるのに虫かごってのはどうなのよコレ。おかしい。いやタマゴだってこれどっかから拾ってきたんじゃないのかなってぐらいおかしい。降谷さんは胎生でなく卵生だったのか……?
 ジョークグッズにしては完成度高い。安室の女の犯行か? 「安室さんを飼ってみたかった」と供述しており。何のためらいもなく開封している私と同じくらいどうかしているぜ。
 まあ私のようなボッチにこんなことする友達はいないのでその線はないのだが。

「ぴ」
「うん?」

 文鳥みたいに高い鳴き声が聞こえた。空気の入れ替えにと窓を開けっぱなしにしていたからかとそちらへ顔を向けるが別に野鳥なんか見当たらない。当たり前だその声はテーブルの上から聞こえているのだから。

「ぴ」
「ウヒィエ」

 指に変な感触がした。具体的に言うなら金魚の入った水槽に指つっこんでエサだと間違われてはむはむされるあんな感じ。こそばゆいというか妙に小指が生暖かい。

「むぅ」

 そこにはすっぱだかの降谷さん(ねんどろいどぷちサイズ)がいた。

「えっえっ待ってナニコレ本物というかやめなさい小指しゃぶんのやめなこそばゆいっっ」
 え、あ、お、お客様!! 困ります!! おしゃぶりされては!! あーっ!!! お客様!! 困ります!!あーっ!!! 母性が!!!あーっ!!!! 困ります! お客様!! 困ります!! そんなにおしゃぶりしてはあーっ!!! あーっおお客様!! 困ります!! お客様!!!母性がうまれてしまいますッッ!! ごめんこれ言いたかっただけ。
 このあと説明書見ながらめちゃくちゃミルクあげた。

「待って待って落ち着こうぜこいつァ一体どういうことだ」

 降谷さん育成キットの説明書よ孵るのがすぐならそう言ってくれ。
 キットに同封されていたやけにファンシーなデザインの哺乳瓶を右手に構え左手で体をささえ、やけにとろけた目で幸せそうにミルクを飲む降谷さん(ベビー)を眺める。離しはしないゼと言わんばかりに捕まれた左手の親指が少々痛いのだが、これが現実だ認知しろマザーと訴えている。
かわいい。天使はここにいた。母性は出産されてしまったのだ。

「ん」
「なにこの生き物かわいい」

 すまない一時間前まで私の押しだったウォッカさん。今日から私は降谷さん(ベビー)のママになります。

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