傾奇者の短刀 02


 朝早くに、彼はやって来た。
 政府職員に連れられた彼は小さい身なりでありながらも、凛とした佇まいをしており傾いた格好ではあるものの気品の良さがにじみ出ている。まさしく、一振りの刀のごとく美しい立ち姿。
 彼に目を惹かれながらもどういったことかと問えば、連戦隊報酬新刀剣男士の試験実装場所として選ばれた、のだと言う。
 審神者は快く受け入れ、近侍に彼を紹介する。美しい薄緑の髪が揺れ、吊り上がった目を丸くさせておもわず、声を震わせた。

「君は、あのときの」
「おう、長いこって(久しぶり)やなァ」

「うらん(私の)名は好文丸 正紀。分家(あじち)の刀故うまそいこと(立派なこと)はやっとらんが、どうぞよしなに」




刀剣男士に成り代わり in前田藤四郎





 前田藤四郎改め、好文丸正紀です。どうも。
 本日、連戦隊報酬予定刀剣の試験実装と偽りこの本丸を潜入捜査しております、はい。
 髪型やら化粧は以前膝丸に会ったのと同じであるが、さすがにあの恰好では内番でしか使えないだろうとのことで、衣装を一新しております。
 梅の大輪咲き誇る羽織は相も変わらず。だが帯ではなく真っ黒の生地と刺繍で彩られたコルセットを代わりに使い、それに合わせたデザインの革のブーツを着用。
 コンセプトは現代版伊達男、テーマは耽美な傾奇男、だそうです。
 ・・・・・・オタクが本気を出すと末恐ろしい。

「案内役は近侍の俺が務めさせて頂こう」
「おう、よしなにな坊ちゃん」
「ぼっ・・・・・・俺は膝丸だ!」
「ほう、そんな名前やったのけ」

 そして、はて、と不思議そうな顔をする膝丸。

「いやすまない、自己紹介すらしていなかったな。俺は源氏の重宝膝丸だ」
「左様か。何分、そちらさんは兄者だの審神者だのとしか喋らんもんやからの。ようやく名を聞けた」

 なんとも言えない顔で目線を逸す、俺よりも長生きで体格も良い太刀。これではどちらが大人なのかわからん。前田藤四郎と俺を合わせても随分と年上だろうに。
 彼に案内されて本丸を歩くが、やけに静かだ。
 いや、静かと言うよりは。

「本丸はもっとせわしない(騒がしい)もんやと思ってたんだがね、静かだ」
「ここは既存刀剣の強化を中心に運営しているからな、その分刀剣の数は少ないんだ」
「ほう、じゃあいる分は出陣か遠征け」
「そうだな」

 他にどんな刀剣がいるのか聞いてみたが、進軍を中心にやっていたために打刀が多く短刀が少ない。また、脇差は一振もいない。最近実装されたという刀剣は進んで探したりなどしていないためにいないほうが多いとのこと。極短刀に関しては連度がカンストしてから行うのでまだ誰も行っていないらしい。
 まあ、これだけ見れば行軍中心の本丸にありきたりな構成だ。ごくごく普通の本丸である。

「丸よ」
「うっ……まるで子供を呼ぶように言うのはやめてくれないか」
「よさり(夜)に泣きながら家飛び出すんは童じゃろ。んなことより、ここさ審神者の新人さんが来るって聞いたんだが、どこけ?」
「それについては反省しているから口外しないでくれ……。新人だが、研修を終えてもう帰ったぞ」
「ほう、左様け」
「どうして研修に来ている者がいるとわかったんだ?」
「いや、本部の者によろしく言われただけさかい」

 ここに来る直前。事情を知っている職員から先に新人審神者が向かっているとのことだから様子を伺ってくれとのことだが、どういうことだろうか。一か月はかかる研修がこんなにも短く終えられるわけがない。
 あー、面倒くさい。


 幾日か経ち、本丸の刀剣全員にも会うことができた。進軍中心なだけあって太刀を中心にみんな連度が高い。
 日課となりつつある、ふらふらと本丸を散歩して過ごす。膝丸は畑当番でいないので、いつもは遠征部隊に入っている短刀たちがあひるの雛のようについてまわっている。いや、この言い方だと膝丸がいつもついてまわっているようだが、なぜだが暇さえあればついて回るのでそのままの意味で結構である。そしてそれに乗じて膝丸の兄髭切までもが付いてくる。短刀ならばわかるが、解せぬ。
 ……兄弟とは似るものか。いや、違うか。

「好文丸さーん!」
「おう、秋田らやないの」
「僕もお散歩ご一緒して良いですか?」
「構わんぞ」

 あー、めんこいわぁ。女がいないなかでこういったちっさいのは癒される。
 前田藤四郎として兄弟や目上にこういう対応は至極微妙であるが、俺としてはこの好文丸の変装が比較的俺として行動できるためか、すごく精神的に楽になれる。
 ああまってそんなに集まんないで兄弟たちよ遠征終わって暇だからってそんなになったら団子になっちゃう俺。

「せや、最近新人さんがまた来たやろ、どうなったんけ」
「え、もう帰っちゃったよ」
「はあ?」
「いつもこのくらいで帰ってしまわれますよね」
「ねー」

 以前から来ていた者とは違い、潜入捜査用の新人を装った俺の主がつい数日前にやって来ていた。だがその新人もほんの数日で見かけないと思ったら研修終えて帰ったそうだ。
 俺は今まで、新入りとして本丸に慣れるために近侍をこなしつつ連度上げをしたり雑用もこなしていた。研修終了の日にはこんのすけがその旨を審神者及び近侍に伝えてから終了するはずだ。なのに、ずっと近侍をしていた俺になぜ連絡が来ない?
 新人の研修制度に関しては、刀剣たちにも詳細が伝えられるはずである。なぜ、彼らは異常と見ないのだろうか。

「ほー……左様であるか」

 なんでだろうなぁ。

「ねえ、好文丸さんはいつの時代の刀なの?」
「んー?」
「それ、僕も知りたいです」
「いっつも散歩だ近侍だのっていなくなったり忙しそうだから聞く暇なかったんだよねー」
「そんなあせなかったんけか」
「あせないって?」
「忙しい、もしくは騒がしいって意味」

 そういえば、刀剣の数が比較的少ないせいか忙しかった気がするなぁ。
 こういった大人数で動くことに慣れていないせいもあるかもしれないけれど。

「ねえねえいつ? 鎌倉? それとも安土?」
「いや、飛鳥」
「飛鳥!!?」

 おっと、やばい。
 一際大きく、だが短刀たちよりも低い声で復唱されてその声の主を見てみれば、畑当番からの帰りだろう膝丸と今剣がいた。

「何なん、いじくらしい(うるさい)」
「好文丸って、ぼくよりもずーっと年上だったんですね」
「それにしては作風が新しいような」
「飛鳥とは言っても奈良の境目故、殆ど奈良の刀やけどな。……まあ、作風が新しいのは鎌倉辺りで焼けたのが原因さかい」
「なんと」

 やばい、好文丸の設定ちゃんと作っておいて良かった。
 いつの時代の誰に作られたのか、どんな活躍をしていたのか。自分は飛鳥どころか平安にすら生まれてないから、前田藤四郎の作られた鎌倉時代周辺に火災で修繕されたっていう設定しておけば大丈夫ってうちの審神者が……。さすがである、オタク。
 刀身でバレるだろってのもあるが、拵にまったく別の作に見えるように怪しげなお札が貼ってあるので心配はない。

「いや、振る舞いなどからてっきりずっと年下かと思っていたのだが」
「文献にあるのみでそこらの記憶は無いからの。しゃあなし」

 年上に対して云々いやでも云々言ってる膝丸はおいといて。
 正直、ここの審神者や刀剣は俺がスパイだって知られないようにこうして行動してるが、俺自身としては架空刀剣男士の好文丸の設定にボロが出ないかすっごく怖い。
 表情だってなんとか取り繕っているが、内心ビクビクしていますええ本当に。
 俺昔演劇部入っててよかったわー。幽霊部員だったけど。


 夜中に、政府への経過報告と称して電話を借りて連絡する。
 主ではなく加州が出たが、ちゃんと戻って来たものの慣れないことで風邪をひいてしまい寝込んでいるようだ。へえ。


「好文丸、今いいか」
「おう、どした」
「主より話があるそうだ」
「左様か」

 報告はとっくに済んでいて、さてこれからどうするかと悩んでいたところで丁度よかった。
 膝丸についていき、ゆったりと審神者の部屋へ向かう。

「もうそろそろで、君が来てから一週間になるか」
「そうやの」
「試験実装、だったか。その期間が終わってもずっとここにいるのか?」
「さてね。全てはお上の判断次第さかい。このまま残るかそれとも去るかなんてのは」
「……そうか」

 審神者部屋についた。
 膝丸が声をかけて入り、俺も続く。

「一週間お疲れ様でした。もうこの本丸にはなれましたか?」
「そうやの、皆が良くしてくれるさかい」
「それは良かった」

 一つ二つ、政府へ報告する用の質問をして話はすぐさま終わった。

「じゃああとは、次の近侍に引継ぎして出陣とかのほうを頼もうかな。最後に何か、質問はありますか?」
「……そうやね」

 恰好良いからと持たされていた煙管をくわえて問う。

「なあ、この本丸では刀剣少ないよなぁ。とりわけ偵察の能力が高いのは軒並みおらんのは、偶然なのけ?」
「え、ああ、そうだね。顕現してくれた子を優先に育てていたからきっと偶然です」
「左様か」
「……」
「もうちっと質問良いけ? 最近歴史修正主義者からの襲撃が頻繁しているっていうのは本当け?」
「ええ、残念なことに。好文丸が来る前であれば一か月前に来ましたね」
「にしては敵を寄せ付けない結界は強化されとらんし、本丸は手薄なままやの」
「それは、忙しくて手が回らないの」
「いくら手が回らんくとも、政府に報告するなり人手を増やすってマニュアルにあったのはどうなんけ?」

 審神者の目が細められる。
 答えられないか。

「……ま、この質問はどうでも良いんやけど。質問を変えようか」

 ここの本丸はよそと比べて襲撃が多い。ならば偵察値の大きい刀剣を本丸の配置して警戒するのが普通だ。だがここではあえてせず、幾度も襲撃されている。そのわりには本丸はさほど荒れた様子もなく被害が異様に少なすぎる。刀剣はほとんどいないというのに。

「なあ、研修に来ていた新人。どこけ?」
「……」

 話の途中から違和感を感じていた膝丸がこちらの様子を伺う。
 さて、彼はどちら側なのか。

「新人さんはちゃんと研修を終えて、自分の本丸に行ったはずですよ」
「それはおかしいねや。過去ここに来た新人は最低限一か月研修のはずがほんの数日で終わらせて、それぞれの本丸に就任するまでに皆行方不明になっておるけの」
 ああもう、そんなに動揺すんなよ。こんな敵地の真っただ中にいるくらいだからさぞ腕の良い奴かと思ったんだけどねえ。いや、こんな敵地にいるんだから使い捨ての駒か?


「それは……」
「なあ、質問に答えてくれんのけ? 俺は、新人をどこにやったと聞いておるんやけど」


 目の前の審神者、もとい歴史修正主義者の手の者は図星を突かれたからなのか。立ち上がりこの部屋から駆けて行こうとする。逃げるつもりか。


「お覚悟!!」





 あれからどうなったかというと。
 逃げ出そうとした審神者モドキは真後ろにいた膝丸が確保し、俺がお縄にしたことであっけなく捕まった。彼は審神者をかばうか、そんなことをするわけがないと困惑するかとでも俺は考えていたが、曰くずっと不思議に思っていたが、普通を知らないから行動に移せなかったんだそうだ。
 あの夜、おれに連れられて刀剣と一緒に酒をカッ喰らってた審神者を見て自分の本丸は何かおかしいんじゃあないかと悩んだんだそうだ。あの主を普通と思ってもらっても困るんだが。

 行方不明となっていた新人は見つかった。
 審神者部屋の押し入れから縛られた状態で。どうやら、ここで将来有望そうな者を捕まえて、歴史修正主義者の襲撃に乗じてあちら側へ連れて行っていたらしい。
 どうして行方不明になったのかというと、最初から帰すつもりはなく偽物を送っていたそうだ。偽物を送って、途中で行方をくらませて。本物はどこか遠くへ。
 数時間後にうちの加州の所へ電話したら、大層ブチ切れた様子で「主がいない」とだけ囁いたので、本物はこっちにいいると言えばいつものテンションで良かったと連呼していた。
 話聞く気ないっぽいんでガチャ切りしたけども。

「さぁて、どうしたもんか」
「……」
「何なん」
「……いや、もしや何も計画せずに行ったのではあるまいな」
「何も計画していなかったから悩んどる」
「年上だというのに、いや、年上だからなのか」

 身近で思い当たる人物でもいるのか、浅く溜息を吐いたところでこちらに向き直る。

「正直、政府側の者として他の意見を聞かずに行動したのがなあ……膝丸でなければ不届き者として切られてもおかしくないさかいに」
「いや、おそらくだが他の者も俺と同じ考えだろう。普通を知らない上、疑わしいとは思ってもそれが普通なのだろうかと考えてしまうからな」
「左様か」
「……そういえば、好文丸の主はなぜあのように小さな家屋にいたんだ? 審神者ではないのか」
「あー、審神者ではあるけんども、空いた本丸がないってのが一番の理由かや」
「……」

 いやん、なんか企んでますわこの人。いや人じゃねえわ刀だわ。

「ここの審神者は捕まってしまったわけで、もういないわけだ」
「せやな」
「故にここの本丸は新しい審神者募集中となるわけだ
「せやな」
「君の主は本丸の空きがないから、あの小さな家屋にいたわけだ」
「せやな」
「……」
「……」


「君の主をここに着任させたら万事解決だというわけだ!」
「せやなとでも言うかアホ!!」
「駄目なのか」
「だちゃかん(駄目)決まってるやろこんな訳有り物件!」
「別に反抗心があるとかじゃないんだから別に構わないだろう!」
「構うわだらが(ボケが)こんないつ敵が大群で攻めてきそうなたいそい(疲れる)本丸誰が主君を就かせるか!」
「敵襲撃に関しては何度もされているから大丈夫だ守って見せるしそれにせっかくできた友人を離したくない!!」
「てめえそれが本音やか。解った普段兄者兄者言うのは人見知りでろくに友達作りできないからやろ」
「うぐ」
「だらくさ(バカらしい)。帰るわ」

 起きているもののぐったりしている(別に何か変な薬かがされたとかじゃんなくて生理)を担いで門へと向かう。
 後ろでなんか喚いているけど知―らない。自分でなんとかせえ。









 とは、言ったものの。
 目の前には喜びに満ち満ちた刀剣こと、薄緑の太刀。
 なんでこうなったの。
 ……ああ、うん。次どういう審神者が良いかって聞かれてうちの審神者を指定したの。
そしたら兄者が、それに便乗して、他の刀剣も、知らないのよりいくばくか知っているののほうが良いしどうだっていいっていうのもいたから便乗してもらって?
 ……ええ……。まだこの二重変装生活続けなくちゃなんないの? うそん。


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