異界の門前


死ぬ時というのは、案外あっけないものらしい。

そう思ったのは、三度目だった。



最初の人生。

それは忍の世界だった。

戦いと憎しみが当たり前の、血塗られた世界。

俺の名前は――うちはオビト。

夢はただ一つ。

火影になること。

馬鹿みたいな夢だった。
落ちこぼれの俺が、天才だらけのうちはの中で、火影になるなんて。

それでも。

仲間がいて。

先生がいて。

そして――好きな人がいた。

野原リン。

彼女が死んだ日、俺の世界は壊れた。

そこから先は、誰もが知る通りだろう。
俺は闇に落ち、世界を壊そうとした。

第四次忍界大戦。

仮面の男。
暁の黒幕。
無限月読の計画者。

すべて俺だった。

だが最後に。

俺は――もう一度だけ、忍びになれた。

カカシの隣で。

ナルトの前で。



最終決戦。

大筒木カグヤが放った術。

共殺しの灰骨。

ナルトとサスケを貫くはずだった、必殺の一撃。

その瞬間。

「……!」

俺とカカシは、同時に飛び出していた。

長年の相棒らしい、ぴったりのタイミングだった。

(ったく……)

俺は内心苦笑した。

カカシの奴、相変わらずだ。

俺はすぐに判断した。

神威。

空間を捻じ曲げ、カカシへ向かう灰骨だけを飛ばす。

その代わり――

残りを全部、俺が受ける。

胸を貫く骨。

体が崩れていく感覚。

塵になる。

六道の力を得た俺でも、これは防げない。

「オビト!!」

カカシの声が遠くなる。

その時。

ナルトが駆け寄ってきた。

あいつは、昔の俺によく似ていた。

まっすぐで。

馬鹿で。

誰よりも優しい。

俺は笑った。

「ナルト……」

火影の夢。

かつて俺が追いかけた夢。

「お前は……火影になれ」

ナルトの目が揺れる。

ああ。

これでいい。

俺はもう、火影にはなれない。

でも――

夢は、繋がる。

視界が白く染まる。

そして俺は。

三十一年の人生を終えた。



……終えた。

はずだった。



次に目を開けた時。

俺は赤ん坊だった。

「……は?」

いや、正確には。

(……え?)

声が出ない。

体も動かない。

目に映るのは知らない天井。

聞こえるのは知らない言語。

だが――

記憶は全部あった。

忍として生きた三十一年。

戦争。

仲間。

罪。

そして最後の戦い。

全部覚えている。

「元気な男の子ですよ」

そんな声が聞こえた。

俺は理解するのに、数分かかった。

(……転生?)

冗談だろ。

しかし現実だった。



さらに問題があった。

俺の両親。

父親――禪院家
母親――加茂家

……聞いた瞬間、周囲がざわついた。

この世界には忍はいない。

代わりに存在するのは。

呪術師。

呪いを祓う者たち。

そして禪院と加茂は、その中でも有名な名家らしい。

だが二人は。

名家を捨てて駆け落ちしていた。

大恋愛。

その末に生まれた子供。

それが俺。

名前は――

裏葉 オビト

裏葉と書いて。

うちは。

(いや待て)

偶然にしては出来すぎてないか?



それから数年。

俺は普通の子供として育った。

いや、普通じゃないか。

前世の記憶があるし。

呪力も見える。

さらに。

写輪眼。

これが普通に使えた。

(……なんでだ?)

転生特典ってやつか?

しかも。

忍術が呪力で使える。

火遁。

風遁。

雷遁。

水遁。

土遁。

さらには――

木遁。

陰陽遁。

(俺、こんな万能だったっけ?)

本人が一番驚いた。

そしてある日。

小学生の俺は。

人生最大級の不審者に出会った。

白髪。

黒いアイマスク。

長身の男。

「ねえ君」

声をかけられた。

「呪術師にならない?」

(ナンパ?)

いや違う。

勧誘らしい。

だが。

知らない人に付いていっちゃダメ。

これは常識だ。

俺は即答した。

「無理です」

「えー」

男は困った顔をした。

「君、禪院と加茂の子供でしょ?」

「……」

やばい。

なんで知ってる。

その瞬間。

男の顔が驚愕に変わった。

「え、マジ?」

そして。

次の瞬間。

俺は拉致された。

白昼堂々。

小学生誘拐事件である。

犯人の名前。

五条悟。

後に世界最強と呼ばれる呪術師。

そして俺の教師になる男だった。



そこからの人生は、嵐だった。

東京呪術高等専門学校。

通称――高専。

同期は三人。

虎杖悠仁。
伏黒恵。
釘崎野薔薇。

賑やかな連中だった。

虎杖はバカみたいに強くて。

伏黒は苦労人で。

釘崎は怖かった。

「オビト、割とイケメンよね」

釘崎の評価である。

「顔はいいよね」

五条の評価でもある。

(顔評価ばっかだな)

だが戦いは激しかった。

呪霊。

呪詛師。

死。

何度も仲間を失いかけた。

そして。

渋谷事変。

世界が変わった日。

さらに。

死滅回游。

地獄のゲーム。

そして最後。

人外魔境新宿決戦。

最強呪術師。

五条悟。

対するは呪いの王。

両面宿儺。

結果は――

五条の死。

世界は震えた。

だが戦いは終わらない。

俺たちは戦い続けた。

そして最終局面。

宿儺との戦闘中。

呪力が衝突した。

魂が引き合う。

その瞬間。

俺は無理やり掴み取った。

御厨子。

宿儺の術式。

(……取れた)

宿儺が宇宙猫みたいな顔をしていた。

まあいい。

結果として。

俺は生き残った。

特級呪術師として。

十八歳。

忙しい日々だった。

そして。

その日。

俺は単独任務に出ていた。

追い詰めた呪詛師。

逃げ場はない。

だがそいつは笑った。

「巻き添えだ」

術式が発動する。

自爆。

俺は反射的に神威を使った。

だが。

間に合わない。

空間が歪む。

「――次元の狭間に落ちろ」

その言葉が最後だった。

呪詛師は死んだ。

俺も。

……そう思った。



気付いたら。

俺は立っていた。

巨大な門の前。

見覚えのある場所。

木造の大門。

その上の文字。

木ノ葉隠れの里

風が吹く。

懐かしい匂い。

俺は呆然と呟いた。

「……嘘だろ」

視線を落とす。

黒い制服。

高専の制服。

どう見ても場違いだ。

その時。

背後から声がした。

「……誰だ」

振り返る。

そこには。

砂色の装束の集団。

そして。

赤い髪の少年。

額の愛の字。

(いや待て)

まさか。

風影の護衛団。

つまり。

我愛羅。

俺は思った。

(詰んだ)

よりによって。

正式訪問のタイミングで木ノ葉の門前に不審者出現。

しかも。

高専制服。

忍びでもない。

完全に怪しい。

砂忍たちが構える。

我愛羅の砂が浮く。

「侵入者か」

(いや違う)

違うけど。

説明できない。

俺は空を見上げた。

三度目の人生。

しかも。

想定外の世界移動。

帰還じゃない。

完全に事故だ。

俺は頭を抱えた。

「……マジかよ」

そして。

三度目の物語が始まった。


〆栞
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