圧と歪み

 朝。

 空気が、少しだけ違っていた。

 「……見られてるな」

 オビトは、欠伸を噛み殺しながら呟く。

 (気配、増えてる)

 露骨ではない。

 だが確実に。

 (暗部か)

 視線を動かさず、周囲を読む。

 (……まぁ、そりゃ来るよな)

 やってることがやってる。

 気づかれない方がおかしい。

 「……はぁ」

 軽く息を吐く。

 (やりづれぇなこれ)

 だが。

 止める気はない。

 ――――

 放課後。

 「うちはオビト」

 呼び止められる。

 振り向く。

 根の忍。

 感情のない目。

 (あー……そっちか)

 「来い」

 短く。

 拒否権はない。

 (まぁ、そうなるよな)

 オビトは肩をすくめる。

 「分かったよ」

 ――――

 地下。

 暗い。

 湿った空気。

 (趣味悪ぃな相変わらず)

 奥。

 立っている。

 志村ダンゾウ。

 (うわ出た)

 「……うちはの小僧か」

 低い声。

 値踏みする視線。

 オビトは、軽く頭を傾ける。

 「何すか」

 無礼。

 だが怯まない。

 「最近」

 ダンゾウが言う。

 「妙な現象が起きている」

 「そうなんすか」

 とぼける。

 「結果だけが変わる」

 「……」

 「過程が存在しない」

 「……」

 「そして」

 わずかに間。

 「お前がいる」

 断定ではない。

 だが、近い。

 (めんどくせぇな)

 内心でぼやく。

 「何をしている」

 「散歩」

 即答。

 「……」

 沈黙。

 (まぁ通らねぇよな)

 ダンゾウの目が、細くなる。

 「力は管理されるべきだ」

 冷たい声。

 「暴走は、排除される」

 (あーはいはい)

 (その理屈な)

 「お前の力」

 「里のために使え」

 命令。

 選択ではない。

 「断ったら?」

 軽く返す。

 一瞬。

 空気が冷える。

 「……理解していないな」

 「してるよ」

 被せる。

 「でも」

 視線を合わせる。

 「やり方が気に入らねぇ」

 沈黙。

 張り詰める。

 だが。

 オビトは崩さない。

 「俺は俺のやり方でやる」

 はっきりと。

 「助けるだけだ」

 それだけ。

 ダンゾウの目が、細くなる。

 (……危ういな)

 だが。

 「……いいだろう」

 意外にも、引く。

 「監視は続ける」

 「好きにしろよ」

 「だが」

 声が低くなる。

 「逸脱すれば、排除する」

 (物騒だなほんと)

 「そん時はそん時だ」

 軽く返す。

 ――睨み合い。

 だが。

 どちらも引かない。

 ――――

 外。

 空気が軽くなる。

 「……はぁ」

 肩を回す。

 (疲れるな、ああいうの)

 だが。

 「まぁいいか」

 空を見上げる。

 (やること変わんねぇし)

 ――――

 その頃。

 うちはの集会所。

 「……あいつだ」

 「間違いない」

 「最近の変化、全部あいつが絡んでる」

 声が上がる。

 疑念。

 警戒。

 興味。

 全部混ざる。

 「力があるのは確かだ」

 「だが」

 「制御できるのか?」

 ざわめき。

 分裂しかける空気。

 その時。

 「静まれ」

 一言。

 場が止まる。

 うちはフガク。

 「騒ぐな」

 低く、言う。

 「現時点で問題は起きていない」

 「だが隊長――」

 「“結果”を見ろ」

 遮る。

 「悪化しているか?」

 「……」

 誰も答えない。

 「していない」

 断言。

 「ならば、それが全てだ」

 沈黙。

 「だが」

 わずかに、間。

 「監視は続ける」

 完全な肯定ではない。

 だが否定でもない。

 (……ズレたな)

 空気が変わる。

 敵視でも、盲信でもない。

 ――評価。

 それが生まれる。

 ――――

 屋根の上。

 オビトは寝転がっていた。

 「……」

 空を見る。

 (外も内も、めんどくせぇな)

 苦笑する。

 だが。

 「まぁいいか」

 軽く言う。

 「全部まとめて面倒見りゃいいだけだろ」

 無茶な理屈。

 でも。

 それをやる男だ。

 (手の届く範囲でいい)

 あの言葉が浮かぶ。

 (救えるやつは、全部救う)

 目を閉じる。

 静かな夜。

 だが。

 その裏で。

 圧と歪みは、確実に広がっていた。



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