東京呪術高等専門学校

車は、都心を抜けてなお走り続けた。

ビル群が消え、住宅地が減り、やがて――

緑が増える。

山道に入る。

道は細くなり、人気もなくなる。

「……なあ」

悠仁が、窓の外を見ながら呟いた。

「これ、本当に東京か?」

率直な疑問だった。

「東京だよ」

運転席で、五条悟が軽く答える。

「一応ね」

その“”がつく感じが、すべてを物語っていた。

(……山奥じゃねぇか)

オビトは、心の中で突っ込む。

どう見ても秘境だ。

文明が後退している。

いや、むしろ隠しているのか。

そんな空気すらある。

やがて、車が止まる。

門。

古びたが、どこか重厚な雰囲気。

その先に広がる敷地。

「着いたよ」

五条が、軽く言う。

「ここが」

一拍。

「東京呪術高等専門学校」

通称――

高専。

「……」

悠仁とオビトは、無言で見上げた。

(……思ってたのと違う)

もっとこう、学校っぽいものを想像していた。

だが実際は。

寺か何かに近い。

静かすぎる。

人の気配が薄い。

「とりあえず」

五条が、車から降りる。

「面接ね」

さらっと言う。

「面接?」

悠仁が振り返る。

「うん」

軽く頷く。

「不合格なら――」

一拍。

「即死刑」

「は?」

空気が凍る。

「いやいやいや」

悠仁が思わずツッコむ。

「それ面接じゃねぇだろ!」

「命かかってるやつだろ!」

正論だ。

だが。

「まあまあ」

五条は気にしない。

「大丈夫でしょ」

軽い。

軽すぎる。

「たぶんね」

(たぶんってなんだよ)

オビトは、内心で呟いた。

だが、顔には出さない。

出しても無駄だと分かっている。

三人は、校内へ入る。

静かな廊下。

足音だけが響く。

やがて、一つの部屋の前で止まる。

「ここ」

五条が扉を開ける。

「失礼しまーす」

中に入る。

そこにいたのは――

大きな体の男。

鋭い目。

無骨な雰囲気。

だが。

その手には――

ぬいぐるみ。

針と糸。

そして、何かを“作っている”。

「……」

悠仁が、固まる。

「……」

オビトも、固まる。

(……おっさんが)

(可愛いの作ってる)

思考が一致する。

完全に。

そのギャップが、あまりにも強すぎた。

「……来たか」

低い声。

その男が、顔を上げる。

夜蛾正道

東京呪術高専の学長。

その圧は、確かに本物だ。

だが。

どうしても。

視線は、手元に行く。

可愛い。

普通に可愛い。

(……なんだこれ)

混乱する。

だが。

「座れ」

短く言われる。

空気が、引き締まる。

悠仁とオビトは、席に着いた。

五条は、後ろに立つ。

「……」

静寂。

夜蛾が、二人を見る。

じっと。

値踏みするように。

「虎杖悠仁」

名前を呼ばれる。

「はい」

悠仁が、少しだけ姿勢を正す。

「お前は」

一拍。

「なぜ、ここに来た」

単純な問い。

だが。

重い。

答え次第で、全てが決まる。

悠仁は、一瞬だけ言葉に詰まる。

だが。

すぐに、顔を上げた。

「……人を助けるためです」

真っ直ぐに。

迷いなく。

倭助の言葉が、背中にある。

夜蛾は、何も言わない。

ただ、見ている。

そのまま。

次の瞬間。

ぬいぐるみが、動いた。

「うわっ!?」

悠仁が、思わず声を上げる。

それが、襲いかかる。

容赦なく。

「――っ!」

反応が遅れる。

体が吹き飛ばされる。

「痛っ!」

床に転がる。

だが。

終わらない。

次が来る。

「答えろ」

夜蛾の声が、響く。

「その理由で」

ぬいぐるみが、再び迫る。

「何人救える」

問いと同時に、攻撃。

悠仁は、必死に立ち上がる。

受ける。

避ける。

だが、追いつかない。

「……っ!」

言葉が出ない。

理由はある。

だが。

それを、どう言葉にするか。

迷いが、一瞬生まれる。

その隙。

「甘い」

ぬいぐるみが、叩きつける。

「ぐっ!」

床に押し付けられる。

呼吸が詰まる。

「……理由が曖昧なまま」

夜蛾の声。

重い。

「死ぬ覚悟はあるのか」

問い。

核心。

悠仁の目が、揺れる。

だが。

次の瞬間。

「……ある」

絞り出す。

「俺は」

息を吸う。

「俺の都合で助ける」

はっきりと。

「後悔したくないから」

それが、本音だった。

誰かに言われたからじゃない。

自分で決めた。

その言葉に。

ぬいぐるみの動きが、止まる。

静寂。

夜蛾が、ゆっくりと目を閉じる。

そして。

「……次」

視線が、オビトへ向く。

「裏葉オビト」

名前を呼ばれる。

その瞬間。

空気が、また変わった。

試される。

次は――

オビトの番だった。


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