第2話 一族
―魔術法執行局内局長執務室―
「大神、よく来てくれた。空港では手違いがあって悪かったな。」
「どーも花宮さん。まあ僕も花宮という一族の特殊性は理解してるからね。」
花宮家は『五大家』と呼ばれる日本の魔術師界の中枢にいる五つの名家の一つであり魔術
法執行局の局長職は代々花宮家当主が務めている。現当主である花宮正守は大神の元上司
で旧知の仲にある。
「では花宮局長。今回は新部署結成にあたりその業務を我々に委託するという契約でよろ
しかったでしょうか。」
「グリフィンくんだったかな?まさにそのとおりだよ。」
「でも花宮さん。どうしてわざわざ俺たちなのさ。優秀な魔術師は日本にだってたくさん
いるでしょうよ。それこそ花宮家にだって。」
「この国の魔術師は『五大家』が幅を利かせすぎている。有事の際にいがみ合っていては
守る民のためにならない。ゆえに『五大家』ではないが世界的評価のある外部のお前た
ちに委託したいんだよ。特にお前さんは円満退役した元自衛官。国からの一定の評価も
あるしな。」
「なるほどね。でもうちには『十師族』出身は何人かいるけどそこは大丈夫?」
「ああ。『十師族』なら問題はないだろう。もともとは地方守護を任せられた士族だから
な。まあ今や『五大家』に次ぐ地位を持つのは間違いないが。」
「ま、花宮さんがいいならいいや。じゃあ僕ら『銀狼』は魔術法執行局と契約を結び『特
務部』の一員としてこの地で活動するよ。」
大神がそう言うとエマが契約書にサインをし花宮に渡した。
「よし。これで大丈夫だ。ところで大神よ。あれは持ってきたのか?」
「もちろん!僕の大事な相棒だからね。じゃ、そろそろ行くよ。数年ぶりのこの国をみて
おきたいからね。行こうエマちゃん。」
そう言って大神とエマは局長執務室をあとにした。一人になった花宮正守は静かに考え込
む。現場主義の大神を実戦部隊の長にすることは確定したが特務部長の席に誰を座らせる
べきかと。
―大神本家邸宅―
大神の実家は田園の広がる郊外にある広い屋敷だった。大神家は『五大家』や『十師族』
には及ばないものの、明治期の戦時中に保有魔力が少なくとも使用でき高い制圧力も持つ
帝式戦闘魔術の体系を考案し魔術法執行局の前身となるS機関創設にも関わったため、今
もな おこの国の魔術師界に高い影響力を持っていた。
「お帰りなさいませ。京介坊ちゃん。」
「ただいまー爺や。父さんいる?」
「はい。旦那様は書斎にてお待ちです。お連れの方もとのことです。」
京介はエマに目配せをしながら父の居る書斎へと向かった。
「父さんただいまー。今帰ったよ。」
「おお京介か。よく帰ったな。何年も帰ってこないもんだから後継者に静希を指名しよう
かと思っていたぞ。」
「ごめんごめん。向こうは結構忙しくてさ。ところで静希は?」
「今日は学院で講義を受けてそのあと玄峰先生の稽古がある予定だから帰りは遅いはずだ
ぞ。」
京介の妹である静希は日本魔術科学院の大学教育課程に在籍しながら大神家の武道指南役
である玄峰鷹山に師事している。
「そっかー。かわいい妹にお土産買ってきたのになー。」
「まあそのうち帰ってくるだろ。夕飯の用意をしているから先に食べておきなさい。もち
ろんエマさんの分も用意しているから遠慮なく食べてやってくれ。」
「お気遣いいただきありがとうございます。」
―大神家本邸食卓―
「え、お兄ちゃんもう帰ってきてたの!?」
「ただいま!しーちゃん!元気してた?ちゃんとご飯食べてる?学校で困ったことない?
てか帰り少し遅すぎじゃない?」
「ちょっ、わたしもう子供じゃないから!別に帰りだって大学生ならこんなもんだから。」
「ごめんごめん。僕が家出たときはまだちっちゃかったからなあ。」
そう言ってしょぼくれてる京介にエマが助け舟を出す。
「そういえば静希様にお土産を買われたのでは?」
「あ、そうだった!」
そう言うと京介はスーツケースから小さな箱を取り出す。静希が箱を開けるとそこには美
しい意匠を凝らした銀の指輪が姿を現した。
「うわ!すごいきれい!」
「静希のために魔銀を扱う職人に作ってもらったんだ。中心の青い宝石は静青石といって
荒れ狂う妖精を鎮める逸話があるから魔除けとして向こうじゃ大切な人に贈る贈り物と
して人気なんだ。」
「そうなんだ。ありがとうお兄ちゃんエマさん大事にするね。」
静希のそんな言葉ににやけ顔が抑えきれない京介をみてエマが安心していると京介のスマ
ホが鳴った。
「もしもし。どうしたのこんな時間に。」
「夜遅くにすまん。俺だ。花宮だ。情報部と外務省からの通達でテロ組織『神の遣兵』の
メンバーが来日していると判明した。国家保安部の管轄ではあるが奴らとの戦闘経験も
あるお前たちの意見も聞きたい。捜査に加わってくれ。」
「『神の遣兵』か。あいつら戦りづらいんだよな。結構練度も高いしさ。」
「まあまだ直接戦闘を行うかはわからん。とりあえず明日捜査会議を行う予定だ。」
「了解。じゃあまた明日。」
そう言って京介は電話を切った。
「てなわけで今日は遅いし休みますか。」
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