第3話 大神の魔術師


―翌日、魔術法執行局第三会議室内―


「局長。どうして特務部も一緒なんです?国内テロの可能性があるということならどう考え
 たってうちのヤマでしょう。それをなんだって外人だってたくさんいる特務部も同席なん
 ですか!どちらかといえばあいつらもテロリストみたいなもんですよ!」


朝っぱらから国家保安部部長である九鬼甚一くきじんいちが花宮に向かってまくしたてていた。


「おい!口を慎まんか。それが『五大家』の家長たる者の物言いか!」


花宮はそう言って九鬼を諌めた。当然である。花宮は各部の部長の上に立つ局長であるし学
院時代の二つ先輩。更にこの場には魔術法執行局の上部組織である魔術省のナンバー3とも
いえる魔術省防衛統括審議官の大神忠義おおがみただよしが居る。さすがに父親の前でその息子をテロリ
スト呼ばわりするわけにはいかない。九鬼もその場に誰がいるのか思い出し青ざめた顔をし
て黙りこくった。忠義は彼らのほうに見向きもせず資料をパラパラとめくり眺めていた。 


「遅くなって申し訳ありません。」


会議室の扉が開きエマがそう言って京介と共に入ってきた。更に京介の後ろには朝一番の便
で来日した部下の東堂國親とアレクセイ・ドラグノフ、ヘンドリック・リヒターがいた。彼
らは元々対テロ特殊部隊出身で『神の遣兵』との戦闘経験もあった。国家保安部の執行官た
ちがざわざわと騒ぎ出したところで九鬼が全体に声を掛ける。             


「静粛に。では魔術師テロ組織『神の遣兵』構成員対策会議を始める。なお本件は国家保安
 部、取締部国際捜査課、情報部国際情報課、そして特務部との合同調査とする。また調査
   監督者として魔術省より大神忠義防衛統括審議官にお越しいただいている。では一同礼。」 


九鬼の発言に対し全員が礼をする。


「本件は情報部、外務省より世界各国でテロ行為を行っている組織『神の遣兵』の構成員4
 名が来日したという情報が通達されたことを発端とする。本日朝7時、警視庁よりも同様
 の報告がきている。では概要については情報部国際情報課高城くん頼む。」

「はい。国際情報課管理官の高城です。中東に派遣している執行官によると、今回来日した
 メンバーは先ほどの九鬼部長のおっしゃる通り4名。組織のナンバー4の甥であるウマル
 とその部下と思われる3名です。中にはアラビア語で斧を意味する『ファアス』の異名を
 持つ男もいます。なお一体どんな目的で来日したかは不明です。以上です。」

「ありがとう高城くん。では続いて『神の遣兵』という組織について彼らとの実戦経験もあ
 るという....特務部頼む。」

「どうも特務部の東堂です。自分は4度ほど彼らとの実戦経験があります。相手して思った
 ことは面倒くさい相手ということです。彼らは死への恐怖というものがなく自分たちの神
 の代弁者である妖精の権能ということで魔術に関してもかなりの練度と自信があります。
 そして何よりまだ年端もいかない頃から戦闘を強いられていた者も多く戦闘経験・技術・
 勘は相当なものです。正直先進国で育った人間には分からない地獄を味わったのだろうと
 感じました。以上です。」


東堂の発言にその場にいる執行官たちが固唾をのむ。無理もない。彼らは対魔術師の経験は
ある優秀な魔術師だが海外で幼い頃より生き抜くために兵士として戦ってきた相手との戦闘
経験など一度もない。テロ等の国を揺るがす事案を担当する国家保安部の面々さえそんな輩
とは相対したことはない。そんな様子を気にも留めず大神は欠伸をしながら資料をパラパラ
と読んでいる。そんなところは少し父親の忠義に似ているのかもしれない。       


「大神執行官何か意見はないか。」


九鬼が念のため現状特務部の指揮官である京介に確認をとる。するとこれまで沈黙を保って
いた京介が発言する。                               


「んーと僕も何度か戦ったことあるけど東堂とおんなじでめんどくさい相手だなって思った
 よ。だから皆さんがあいつらとかち合ったら戦うなんて考えずにさっさと逃げてね。んで
 僕らを呼んでね。」


人をコケにするような京介の不遜な言葉に多くの執行官が怒声を上げる。九鬼も怒りでプル
プルと震えている。花宮は頭を抱えてため息をついている。特務部の他の面々はほとんどが
そんな様子でも顔色一つ変えないがアレクセイだけはニヤニヤと笑っている。そして怒りに
耐えきれなくなったのか国家保安部即応制圧部隊長である原田が大きな声で声を上げる。 


「では大神執行官に確認したい。あなた方ならば対応可能だということか。」

「わたしも同じことを聞きたい。どうなんだ大神執行官。」


九鬼も好機とばかりに大神に問う。大神は即答した。


「そりゃあもちろん。僕らは世界最強の魔術師だからね。逃げられることはあっても負ける
 ことはないね。てか力量の差を理解できてないのが謎なんだけど。こっちとしては。」


ここらが潮時かと怒る九鬼と原田達を制し花宮が京介に対し冷静に問う。


「では大神。その根拠は?根拠がなければ我々としては許可はできん。」


「そうだそうだ」とほかの執行官たちからも声が上がる。九鬼もうんうんとうなずく。


「うーんまあ俺がここに連れてきたやつらの経歴見てもらえば分かると思うしここに連れて
 きてない待機させてる優秀なやつも結構いるよ。それに俺にはこれ・・がある。」


そう言うと大神が長机の横に立て掛けていたケースから刀を取り出す。それだけでその場に
いた執行官たちには説明がついた。神器『荒噛あらがみ』。神器とは魔術師の戦闘補助具である
魔具の中でも小国であれば一国の戦力に相当する殺傷力を持った兵器である。国内に有る1
8の神器は国によって『五大家』と『十師族』各家に一つずつ配備され残りの三つは魔術省
によって厳重に管理されている。その三つを例外的に行使可能なのが平安時代より鬼狩とし
て悪意ある妖精や魔術師を征伐し明治時代にはS機関創設に貢献した国家の番犬たる大神家
である。そして京介は中でも歴史上はじめて個人での国内外における神器の所持および使用
を皇室と内閣総理大臣、魔術大臣により内密に許可されているのである。この事実を知って
いるのはこの場では局長の花宮と父である忠義、そして特務部の面々のみである。他の執行
官はおそらく大神家次期当主の権限を行使し魔術省より神器を持ち出したと思っているだろ
う。                                       


「ふむ。神器を持ち出しているのか。」

「まあ大神の次期当主だから。しっかりテロリストに対するやむを得ない武力行使のためっ
 て魔術大臣にも承認もらったし。」

「持ち出しに問題がないならそれでいい。異論があるものはいるか?」


会議室内は先ほどまでの怒声が噓のようにシーンとしていた。


「よし。では本件はまず目的や拠点等の調査を四部合同で行う。奴らとの接触は絶対に行う
 な。調査の結果制圧を行う際は特務部を中心としたタスクフォースを編成し制圧するもの
 とする。」


花宮のその言葉ののち調査チームの組み分けやタスクフォースの編成等が話し合われてその
後執行官たちは聞き込み調査等へと向かった。                    


- 3 -

*前次#


ページ:



コメント
名前:

コメント:


編集・削除用パス:

管理人だけに表示する


表示された数字:



狼煙