第4話 斧と槍


―とある空きビル―


「ウマル、選別の準備はちゃんと進んでいるんだろうな。」

「わかってるって。カリームあんた『斧』だなんだ言われてるくせにびびりなんだな。」

「ウマル様、カリームさんもあなたが心配だからこうおっしゃってるんですよ。」

「はあ。ラシードまでそんなこと言うなよな。」

カリームはどうしてこうなってしまったのかと頭を抱えた。10歳の頃から組織に身を置
き幾多もの選別を行い組織に貢献してきた自分がこんな奴の初選別の見届け人なんかに選
ばれてしまったのかと。しかもこいつ24歳にもなって初選別だと?自分がこの年の頃に
は研ぎ澄まされた聖戦士になっていた。幹部の息子だからといって泥水もすすらず生きて
きたガキが共に聖戦を行う同志とは何たることだ。あのラシードとかいう従者のほうは相
当出来るようだがもう一人の従者も奴と同じく使えないな。導師様ももっとまともな戦士
を選んでくれればよいのに。そんな様子を察したのかラシードが声を掛ける。     

「カリームさん。食料のストックが無くなりそうなので共に買いに行きませんか。丁度監
 視カメラの少ない通りに店を見つけたので。」

「ふむ。しばらくこの辺りを拠点にする予定だし悪くはないな。いいだろう。」

「ラシード俺の酒も買ってきてくれよ。」

「分かりました。ただし1杯だけですよ。選別の準備を怠られては困りますので。」


空きビルを出て周りに人がいないことを確認するとラシードが口を開いた。      

「カリームさん申し訳ありません。組織の英雄であるあなたにあのような態度を。ウマル
様に代わって謝罪いたします。」

「はあ。なぜお前が謝る。それにお前は俺を英雄だと言うがお前の方こそ俺より若いのに
素晴らしい活躍じゃないか。それこそ『槍』と言われるほどにはな。」

「ウマル様はきっと初選別とのことあって気が立っておられると思いますので代わりに謝
罪をと思いまして。それに私なんかカリームさんの数多の功績と比べれば霞んでしまいま
す。」

「まあ年齢は違うが俺も初選別の時は緊張して周りのすべてが敵に見えた。」

「私も手が震えましたよ。」

「皆同じなんだな。それにしてもここは溶け込みやすいな。」

そう言ってカリームが目を向けた先には多くの国籍不明の外国人が屋台の出店のような店
を出し商売しており群がるように外国人の客が料理を買っていた。          

「そうですね。どうやらもともと外国人が多く住む地域に不法滞在者や家を失った移民が
住み着いてこんなことになっているみたいですね。」

「なるほどな。俺達には助かる隠れ家だがこの国の連中は困り果てているだろうな。」

「確かにそれはそうですがまあ所詮は神の選別を受け死にゆく者たちですからね。」

カリームは静かにうなづいた。                          


そんな移民街に目をつけている執行官もいた。特務部に所属することとなった大神の部下
である痣城八雲あざしろやくも劉燕幽リュウ・イェンユゥである。二人とも裏社会出身のため悪事を企む外国
人がどういった所に身を隠すかと考え国籍不明の外国人が紛れ込んでも誰も気づかないこ
こに目を付けたのである。燕幽が口を開いた。                   

「ふむ。ここは匂うな。」

「わかるぜ。燕幽くん。ぷんぷんだわ。」

「木を隠すなら森の中。この辺りで潜伏していそうだな。」

「ほんじゃまあいっちょ探しますか。」

八雲がそう言うと彼の身体から触手状の影が伸びた。『影這』、八雲の契約している上位
妖精『隠形鬼』の力によって使うことのできる魔術の一つで触手状に伸ばした影で索敵す
ることができる。                                

「多分見っけた。」

「どのあたりにいる?」

「ここをまっすぐ行って右に曲がったあたりかな多分。二人だけしかいないけど。姉ちゃ
 んならもっと正確なんだけどな。」

「まあ『百々目鬼』ほどの精度をもつ探知系魔術は世界を探してもあまり見ない。」

「そりゃそうなんだけどさ。じゃあ一応職質ってやつやっとくか。」

「そうだな。」

そう言って進んだ道を右に曲がったがそこには該当する外国人は誰もいなかった。   

「どういうことだ?お前の探知した奴らはどこ行った?」

「分かんねえ。俺戦闘系メインだしなあ。」


―移民街近くの廃墟前―


「あぶないところだった。助かった。」

「いえいえ。こちらこそカリームさんが異変を感じ取らなければ危なかったです。」

「にしても地中に痕跡を残さず潜って進めるとは面白い魔術だな。『ノーム』か?」

「ええその類です。敵地の潜入に使えるので便利ですよ。まあ正面から堂々と選別を
はじめて殲滅するカリームさんには必要ない魔術ですが・・・。」

「あのときは民間人ばかりだったからな。さっきみたいな化物ども相手では通用せんよ。」

「やはりカリームさんもそう思いましたか?」

「ああ。あんな奴らがいるとは聞いてない。選別を急ぐべきだな。」

「では戻ってお二人にもそう伝えましょう。」


―特務部ミーティングルーム―


「へえそんなことがあったんだ。感知系の得意な魔術師を同行させるべきだったね。でも
あのあたりに潜伏してることが分かったんだ。二人ともお手柄だよ。」


京介がそう言って二人の労をねぎらうが二人の顔は悔しい表情でいっぱいだった。   

「ちくしょう。まともにやりあってれば余裕で勝てたのによお。逃げやがって。」

「まあ逃げるだけの理由があったんだろうね。何かやらなきゃいけないことが。」

少し考えこんだあと、燕幽が発言する。

「やはりこの国で奴らでいうところの選別ってやつをするつもりでしょうか?」

「ただ観光に来ただけだったらよかったんだけどそうみたいだね。第五を中心にあのあた
りを念入りに探してもらうことにしよっか。」

「うへえ。姉ちゃんとこに尻拭いしてもらうのきちぃ。」

「おい。俺なんか自分の所属する小隊に尻拭いしてもらうんだぞ。しばらくネタにされる。」


『銀狼』第五小隊。八雲の姉である痣城零亜あざしろれいあが小隊長を務める。隠密・追跡・潜入・工
作に長けた魔術師を揃えた小隊で幻覚を得意とする燕幽も副官として所属している。  

「じゃあ少しの間報告待ちかな。」

「他の調査本部の執行官には伝えますか?」

エマがそう言って京介に尋ねる。                         

「うーん。下手に探索されて感づかれて潜伏先変えられるのもやだし内緒で。」

「了解しました。」

できることは今日は何もないということでこの場はいったんお開きとなった。     


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