「ええ、なんとかね」
「疲れたぁ…」
「今、治療するね」
激戦区と言われているだけあって、西の戦場での戦いは壮絶なものだった。戦場を嘗めていたわけではないが、これはあまりにも…。
肉体的な疲労もそうだが、一番は精神的疲労によるもの。生きるためとはいえ、人の命を奪う事への疲労感は相当なもので。しかもその上…、
「アスラァァッ!!」
彼らは前世に引っ張られる傾向にある。“ルカ”を“アスラ”と認識した時、そして“シノ”を“スカアハ”として認識した時、彼らは覚醒してしまう。そして覚醒してしまえば、
「構えろ!」
戦うしかないのだ。スパーダとルカが前線で道を切り開き、イリアが銃で応戦し、シノが術で援護する。幾度となく戦ってきたシノ達は、ようやく戦闘での動き方を掴めてきた。だから今回も負傷する事なく勝利する事ができた……の、だが。
「我らをお見捨てなられるのか、か……そんなこと、あたしに言われたって……」
迷子の子供のように震えた声が耳に届き、シノは足を止める。
先程の転生者の彼は、異常なまでにイナンナを敬愛していた。そして、スカアハによって自分は救われるのだと最期まで信じていた。スカアハはいつだって自分のために戦っていた。彼らのために戦うだなんて、一度だってないのに。それでも彼らは、スカアハを。
そんな彼らに、それは美化された思い出だと一蹴する事などシノには出来なかった。
スパーダくんとルカくんは前世について考察していて、彼らから少し離れているイリアの異常には気付けていない。
シノはイリアに近付き、そっとイリアの手を握る。その手は緊張していたのか氷のように冷たかった。イリアの揺れた瞳がシノを捉え、ぎゅっと握られた手に力が篭る。
「シノ……記憶を取り戻した転生者は、みんな前世に捕らわれてしまうの……?」
シノは何も言わず、ただただ彼女の手を握るだけ。…何も言わないのではない、言えなかったんだ。イリアの問いの答えを、シノは持ち合わせていなかった。
「あっ、あたしってば何言ってんだろ!そんな事、起きるはずも…」
「イリア」
彼女は優しい子だ。言葉を失くした私に気をきかせ、いつものように振る舞ってくれる。でも、そんな空元気な様子のイリアを放ってなんておけなかった。今 放置してしまえば、その傷はずっとイリアを蝕み続けるのだから。遮るようにイリアの名を口にすれば、彼女の表情から笑顔が消えた。
「シノ…あたし…」
「これから先、どうなるかなんて私には分からない……けどね、もし、イリアが前世に捕らわれてしまったら、私はあなたの名前を呼ぶよ。あなたが思い出すまで、ずっと」
イリアの手を両手でしっかりと握りしめ、イリアの瞳を見つめる。人の為に怒れる優しいあなただから、“自分”をしっかりと持っていれば大丈夫だ。
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