いつものように祖父と朝餉をすませ、そして仕事着に着替えた後、王墓にて祈りを捧げる。それは生まれてから欠かせない日課だった。なんせこの国は水没の危険にさらされているので。
 東の国 アシハラ。「人は死ぬと神になる」──そんな、独特な価値観をもった国の名前。
 元首ジロチョウが治めるその国は、海に囲まれた島国である。かつては大きな力を持った大国であったが、無恵の影響で海の水位が上がって領地の大半を失い、現在では小さな小さな島国へと成り果ててしまった。
 今もなお 水位は上がり続けており、転生者であるシノが祈り続ける事で何とか水位の上昇スピードを落としている……というのがアシハラの現状だ。それも長くは保たないだろうが。

「スカアハが水神だったら解決出来たんだろうけど…」

 シノは薄暗い王墓内部の壁画に触れながら独りごちる。壁画に描かれているのはスカアハへの祈りの文。文字を指でなぞりながらシノは思いに耽る。

 ──この国は近い内に終わりを迎えるだろう。
 誰もその事を口にしたりしない、それでも誰もが感じているであろう想像を、シノは強く感じていた。瞳を閉じれば、鮮明に浮かぶ最後の日にシノは眉を寄せる。

「何もしないまま過ごせば、日常は簡単に壊れる……“あの日”みたいに」

 鮮烈な赤と鉄錆びた臭いが脳裏にこびりついて離れない。そのイメージは年々酷くなっている。まるで終わりが来る事から逃げるなと言っているみたいに。

──あなたは、アシハラの存続を願っているのね」

 スカアハは影の国の女王様。そしてその来世であるシノはアシハラの巫女であり、元首ジロチョウの孫娘。似た境遇であるからこそ、彼女は視せるのだろう。災厄が訪れる前に。

──アシハラの民よ、私が不在の間…アシハラを御護りください」

 シノは目を閉じ祈りを捧げた後、ゆっくりと目を開ける。

もう、迷いはない。





「シノ、レグヌム王の許可が降りたぞ」
「ありがとう、お祖父様」

 ジロチョウの手にあるのはレグヌムの王直々の文書だ。