「この辺か」


目の前にある洞窟を見遣り、スカアハはぎゅっと相棒である長槍を握り締める。この奥に、“アレ”が…。先程教わった情報を思い返し、そして目を細めたスカアハは、躊躇う事なく中に入った。
入り口付近には何もなかったが、奥へと進むにつれ、石像のようなものが乱雑に転がっているのが目についた。──神の亡骸だ。
ああ、間違いない。“アレ”はこの場所にある。スカアハは表情を変える事なく亡骸を一瞥すると、また歩き出した。

奥へ辿り着くと、そこには神の亡骸の山が出来ていた。しかしそんなものなど気にも止めず、スカアハは口角を上げた。
やっと見つけた。スカアハは自身より大きな亡骸の山を見上げる。その山の頂点に深々と突き刺さっているものこそ、スカアハが求めていたものだった。


──貴様がそうか。魔槍ゲイボルグ」

「あ?」


いつもより声色が高くなったスカアハの表情は、歓喜に満ちていた。そんなスカアハとは対称に、魔槍ゲイボルグは不機嫌そうに声をもらす。
スカアハが求めていたもの──それは魔槍ゲイボルグと呼ばれる武具であった。

「相手を倒すことが武器として優秀なら、簡単に相手を殺せる武器は優秀だ」──鍛冶の神が込めたその念は呪詛となり、武器を呪具へと変えてしまった。魔槍ゲイボルグとは、所持者の精神を支配し、殺戮のかぎりをつくす呪いの槍である。


「ヒャハハハハッ!俺様の操り人形所有者にでもなりにきたのかあ?」

──ふむ。バルカンの言っていた通りだな」


かなりの暴れ馬らしい…スカアハは目を細め、静かに呟いた。

スカアハがこの場所へとやって来たのは鍛治の神直々の願いであったからだ。魔術呪術に秀でているスカアハなら、精神を喰われる事なく正しく扱えるだろう、と。
本来なら人の頼みなど跳ね除けるのだが、“あの”魔槍ゲイボルグが手に入るなら話は別だ。スカアハは嬉々としてその話を受けた。──それが、この場へと足を運んだ経緯。

スカアハは何事もなさそうに亡骸を踏み締め、魔槍の元まで辿り着き、そして深々と突き刺さっている魔槍に手を触れる。刹那──


──…っ!」


スカアハは触れていた手を離し、眉を顰め、頭を押さえる。ゲイボルグを手に取った瞬間、ばちりと静電気のようなものがスカアハを襲った。そして頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。呪いには耐性があったはずなのに。


「触れるだけでも駄目なのか。どれだけ喰らえばそこまで…」

「なっ!かかってねェだと!?」


驚きの声を上げるゲイボルグを他所に、スカアハは淡々と言葉を紡いでいく。


──我を・・傷つける・・・・罷り・・ 成らぬ・・・


彼女は静かに言葉を放つと、そっとゲイボルグに触れる。すると今度は何事もなく触れる事ができた。


「これで所有者は私だ。私が貴様を満足させてやろう」

「チッ」


不服そうなゲイボルグを手に、スカアハは自国へと戻っていく。それがいずれ相棒となるスカアハと魔槍ゲイボルグの出会いだった。



──とまあ、出逢いはこんなもんだ」

「その話は何度も聞いた。スカアハからも、ゲイボルグからも」


どこか疲れた声の持ち主は、バルカンの手によって作られた聖剣デュランダル。
デュランダルとは、ゲイボルグの手入れのため、鍛治の神バルカンの元へ向かったのが始まり。それからは、暇さえあればデュランダルの元へ向かい、ゲイボルグとの話を聞かせるのがスカアハの楽しみであった。


「おや、そうだったか?では初めての戦について─…」

「─初めての戦であったが、そうとは思えぬ程に息が合った、だろう?それも何度も聞いた」


ふむ…そうだったか。デュランダルとも付き合いは長くなる。何を話していて、何を話していないのか分からなくなってしまった。普段のスカアハからは考えられないくらい、穏やかな表情を浮かべ、そう告げた。
何度も同じ事を告げられ、疲れ果てていたデュランダルも、スカアハのこの言葉には弱いようで、構わぬ と小さく呟いた。

それからスカアハの口から紡がれる、相棒との冒険譚。聞いた話もあれば、初めて聞いた話もあり。様々なエピソードが語られる中、一貫しているものがある。
──それは、それを語るスカアハの表情が、幸せそうだということ。


──ゲイボルグは、幸せなのだろうな」


ふと、デュランダルの口からこぼれた羨望混じりの言葉。それは無意識だったのだろう。武器デュランダルらしからぬ言葉に、スカアハは口元に手を当て、目を瞬かせる。そんな彼女らしくないその姿に、デュランダルは自分の失言を察した。


「…そう、か。君は私のものになりたかったか。それはすまない事をしたな」

「……いや、そうではなく──

「いやあ、そこまで私を気に入ってくれてるとは!察しが悪くてすまないな。しかし私にはゲイボルグがいる。彼以外の武器を使う気にはなれなくてな。気持ちは嬉しいのだが」


スカアハはにやにやと揶揄うように笑う。そんなスカアハの反応で拗ねたのかデュランダルは何も語らない。


「おいスカアハ!手入れは終わりだ!早く帰んぞ!」


奥から、ゲイボルグのスカアハを呼ぶ声がする。分かった、と返事をしたスカアハは、デュランダルをからかうのをやめ、立ち上がった。


──なあ、デュランダル」


彼女はゲイボルグの元へ向かう途中に足を止め、デュランダルの方へ振り返る。ふわりと微笑む彼女は、いつものような自信のあふれた表情ではなく。つい先程の揶揄うあの笑みでもなく。─慈愛の眼差しを向けて、笑ってみせた。


「訪れるさ。君が最高の相棒を連れて、私と共に戦うそんな日が、必ず」

「それは同情か」


デュランダルは答えてくれた。しかしやはり拗ねているのか、いつもより声色がかたい。


──いいや、【予言】だ」


スカアハはいつものように自信にあふれた笑みを浮かべると、奥へと行ってしまった。




──良かったの?シノ、教団に興味ありそうだったけど」


どこまでも続く長い廊下。前を歩く2人(+サル)を後ろからぼんやりと眺めながら歩くシノ。その横に立つ少年はおずおずとシノの表情を伺いながら話しかけた。
先程、グリゴリ兵から教団に入るか聞かれた件についての話だろう。シノは「ああ、その話か」と反応を示した。


「いいんです。悩んだ結果だもの、後悔なんてしません」

「で、でも…」

──それに。あなた達について行った方がいい…そう思ったから」

「えっ…?」

シノの言葉に、ルカは目を丸くし、立ち止まる。そんなルカに向かって微笑みかけるシノ。全て本心だった。
ルカとイリアとスパーダ。彼らと一緒にいれば上手くいく。何故かそう思うのだ。これは女神スカアハの感だろうか─?否。これは…


──これは、そう…『予言・・』です」


シノは口元に人差し指を当て、悪戯っぽく笑ってみせた。


「シノ!ルカ!行くわよー!」

「早く来ねェと置いてくぞー!」


先に進んでいたイリアとスパーダがこちらに向かって叫ぶ。シノはその声に返事をして、ルカへと向き直り、そして。


「さ、行きましょうか」

「う、うん…!」


シノとルカは声の主の元へ駆けて行った。