結果は一目瞭然。先程の苦戦は嘘のように、一瞬で勝負はついた。スパーダは双剣を鞘に収め、振り返る。そしてぽかんとするルカに近付き、デコピン一発。


「なっさけねえ顔だな。お前本当にアスラかあ?」

「じゃあ 君はやっぱり…」

「そ。オレの前世は聖剣デュランダル

天上界において『その刃 斬れぬ者は帯剣者のみ』──そう謳われた無比の名剣さ」


──ああ、やはり君だったのか。

シノの中に眠るスカアハの歓喜の声で胸がいっぱいになる。会いたかった、とても。


──久しぶりだな、スカアハ」


気づけばスパーダはシノの前に立っていた。シノは頷き、目を細める。


「はい。お久しぶりです、デュランダル」

「元気そうだな」

「あなたも」


短い言葉のやりとりだが、お互いから相手を想う気持ちが込められていた。


「シノってばスカアハだったの!?んで、あんたがあの剣だった人?あんた達、全然似てないわねえ…」

「そういうお前は何だったんだよ?」

「あたし?あたしの前世はイナンナなの」

「お前も似てねーじゃねェか」

「…うん、上位に入るくらいの変わりっぷりじゃないかな」

「うっさいわよ!シノだって、あの無愛想が穏やかになっちゃったし、スパーダに至っては人間になっちゃったし!あんた達も負けず劣らずの変わりっぷりじゃない!」


和気藹々とした雰囲気が広がり、シノ達はほっと息を吐く。先程と状況は変わらないのに、それでも心持ちは変わっていった。

──しかし、彼女がイナンナとは。シノは一歩引いて イリア達のやりとりを聞きながら、そんな事を考える。
彼女に限った話ではないのだが、スカアハはイナンナを知らない。知っている情報は アスラと恋人関係のお淑やかな女性──というくらいか。そう考えると、本当に似てないな…と心の中で苦笑する。彼女イナンナは強かな女性でもあったみたいだから。
アスラを一途に慕うサクヤとは相性が悪く、それは現世にも引き継がれているらしい。チトセとイリア。仲が悪かった理由はこれのせいか。


──ゴホンッ 無駄話はそこまで」


威厳の感じられない声が辺りに響き渡る。スパーダとイリアは感動の再会の邪魔をされた事に苛立ち、盛大に舌打ちをしてみせた。


「なかなかの腕前だな。これなら十分に期待できる。ただの献体になぞ、回すのは惜しい」


にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべるオズバルドに、シノの眉根を顰める。先ほどよりも、更に。


「そんな事で褒められたって嬉しかァないね」

「んで?あたし達は合格なわけ?」


スパーダとイリアは、不機嫌そうな声色で問いかけると、オズバルドはああ、と頷く。そして。


──満点だ。褒美として シノ・ココノエを除く3名は 地獄の激戦区『西の戦場』へ 招待しよう」


戦場送り。嫌な予感は見事に的中したようだ。私達を、何だと思って。怒鳴りたい気持ちを必死に抑え込み、シノは口を開く。聞きたい事は、ほかにあるのだ。


「あ、の…どうして私だけが外されて…」

「貴様の“力”は利用できる。戦場で死なれると困るからな」


──言霊。言葉に力を込めて、発した言葉通りの事象を起こす力の事だ。相手を殺す事も出来る、危険な力。それをオズバルドが利用しようとすれば…、どうなるかは誰でも分かるだろう。
にやにやと卑しい笑みを浮かべるオズバルドに、シノは下唇を噛み締めた。
その時、風が吹いた。普通の穏やかな風ではない。鋭く、人を傷つけてしまいそうな。そんな風が。風の出所は──スパーダ・ベルフォルマだった。


──なァ、オズバルドさんよォ」


地を這うような低い声。彼は風のように瞬時にオズバルドの元へ近付いたと思えば、首元に刀を当てた。いつでも殺れる、そう言いたげに。

イリアはオズバルドからシノを守るように、前に立ち塞がり 武器を構える。戦いを嫌うルカでさえ、躊躇いながらも武器を構えていた。シノを、守るために。


「もう一度言ってみやがれ。アイツの力がなんだってェ?」


オズバルドはというと、首元の刀を見て顔を青くさせ、息を呑む。魚のように口をぱくぱくと開閉させるものの、それは音として成り立っていない。


「そこまで」


黒づくめの男は、音もなくスパーダの近くに現れ、そしてスパーダの腕を掴んでいた。その男の登場に、スパーダの表情は強張る。無理もない。動く気配すら感じられなかったのだから。
しかしシノだけは目を見開き、男を見遣る。あの動き、覚えがあった。あの動きは、まるで。


──まるで、影のような。


「上司が喋れないようなので私が。

シノ・ココノエを含む4名は 地獄の激戦区『西の戦場』へ迎え。以上」


男は静かに告げると、スパーダを一瞥する。そして「これでいいですか」と微かに笑みを浮かべた。スパーダから殺意が消えたのを確認すると、オズバルドは恐怖の色を浮かべ、その場にへたり込む。だがしかしそれは、徐々に怒りへと変換され、男に牙を剥いた。


「貴様!何を勝手な事を──!」

「それはこちらの台詞です オズバルド様

シノ・ココノエの件は、あのお方の指示にはありません。勝手な行動はしないでいただきたい」

「あのお方…?まさか貴様…!!」


こちらには分からない 内部のやり取りが目の前で繰り広げられていた。部下の男が冷たい眼差しを向けているのに対し、オズバルドは恐怖の眼差しを男に向けて 後ずさっている。


「おい、シノ。今のうちに行こうぜ」


音もなくシノの傍までやってきたスパーダはシノに耳打ちする。ルカとイリアも既に逃げる体勢にあり、シノと視線が交わると こくりと頷いてみせた。
音を立てずに部屋の出口へと向かうシノ達であったが、ふとシノは男に視線を向ける。確かめたい事があったからだ。

ただ目が合う事はない…そう思っていたのだが、向こうもこちらを見ていたのか何故か視線が合ってしまった。


──…」

「えっ…?」


男は 何かを口パクで告げ、微笑んだ。それは、シノの勘違いでなければ──


「お気をつけて…?」


「シノ、早く来なさい!」


出口からひょこりと顔を出したイリアに手を引かれ、シノは部屋を出ていった。