少女Aの独白

 わたしの世界は、わたしと両親だけで作られていた。少しだけ裕福な家庭で生まれ、強い愛によって育てられた極度なあがり症な子供──それがわたしだった。
 今日も今日とて鏡の前に立ち、にこりと笑おうと口角を上げてみる。が、鏡に映る自分の笑顔は今日もぎこちないものであった。

「……駄目、か」

 どうしても自然に表情が作れない。嬉しいとき、悲しいとき、いつも上手く表現出来ない。そのせいで外でコミュニケーションがとれず、いつもひとりぼっち。一人はもう慣れたとはいえ、やはり寂しいのでこうして練習したりするのだが、一向に上手くならない。

 母なら、母ならもっと自然に笑っていた。向日葵のように周りを暖かく照らしてくれるような──そんな暖かな笑みを湛えるというのに。
 そんな母に比べて、わたしはどうだろう。母のように暖かな笑みを浮かべられない、表情はいつも一緒。悲しくても、怒ってても。嬉しい時だって表情は変わらない。毎日毎日、鏡の前で笑顔の練習をしても、その笑みはぎこちないもので。いつしか鏡の前に立つ事さえも怖くなった。
 “気持ち悪い”、“変な子”──そう思われたくなくて、人と関わる事から逃げた結果、人前で喋られなくなってしまった。そんなどうしようもないわたしに母はいつものように微笑みを浮かべ、優しく抱き締めてくれる。母は絶対にわたしを否定しない、息ができる絶対的な場所。ここがわたしの居場所だった。

──こうしてお姫様と王子様はいつまでも幸せに暮しました、めでたしめでたし」

 亜麻色の艶やかな髪を耳にかけ、母は瞳を閉じたまま絵本が閉じられ、物語が終わる。涼音は名残惜しそうにしながらも、ぱちぱちと手を叩く。それでも母は反応などせず、瞳を閉じたまま動かない。きっと今は物語の余韻に浸っているのだろう。母が読んでくれた絵本は、母のお気に入りのものだったから。

 絵本の中のお姫様は、自分に嫌がらせをしてくる王子様の事が大嫌いだった。でも、困っている自分を助けてくれるのはいつもその王子様。お姫様はいつの間にかそんな王子様の事が嫌いから好きになってしまった。でもお姫様は王子様は自分の事が嫌いなんだと思っていた。いじわるするのは自分が嫌いだから、と。お姫様はその事にすごくすごく悲しんで…王子様好みの自分に生まれ変わる事を決意する。着る物、好み、仕草…変えられるもの全てを王子様好みに変えていって。こうして生まれ変わったお姫様は王子様と無事結ばれて、いつまでも幸せに暮しました…というお話だ。

「お母さん、お姫様は王子様と結ばれて幸せなの?」
「ええ、幸せよ。だって好きな人とずぅーっと一緒なんだもの。これ以上ない程幸せ」

 絵本を抱え、顔を綻ばせる母は心の底から幸せだと感じているようで、涼音はほっと胸を撫で下ろす。母の笑みを見ていると本当にお姫様が幸せになったのだと思えるのだ。

「ねえ、わたしもお姫様みたいに王子様と一緒になれる?」
「なれるわよ。だって涼音はお母さんの娘なんだから」

 母が慈愛の眼差しをこちらに向けて、優しく髪を梳いてくれる。わたしはその時間が一番好きだ。

──いい?だから私からのアドバイス。」


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