部屋に自分以外の何かを感じる。電波とかそう言うんじゃなくて、気配って言うんだろうか。とにかくもう一人人がいるような……。
 うっすらと目を開けると、ぼやけた視界には確かに誰かがいた。でも、母さん、ではないみたい。
 しかし、凄く見覚えがあるその姿。俺の知り合いで金髪って言ったら。

『なっ!! ……で』

 驚いて飛び起きるが、身体を包む怠さに強制的にベッドに戻される。
 見覚えありありの人物は、突然大きなモーションをしながら起きた俺に吃驚したらしく、ゼリーのような物を片手に持ったまま固まっている。傍らに袋から出たプラスチックの使いきりスプーンが置いてあるのが見え、これからそのゼリーを食べようとしていた事がよく分かった。
 否、それは別にいいんだが。それよりも気になる事は別にある。

『涼太、お前、何で』
「響っちのお見舞いッスよ!」

 キラッと効果音が付きそうなくらいの笑顔で言う。
 へぇ、病人の前で食べ物食べるのがお見舞いねぇ。
 じとりと涼太の手の中の物を見詰めると肩がびくりと跳ねた。そして訊きもしないのにこれは、その、腹減っちゃって等と言い出し、その様子は甚だおかしい。
 声を圧し殺して笑っていたら、涼太が不機嫌そうな顔をして近付いた。
 元気そうッスね。
 どこからそう見えるんだよ。
 布団を被り直しながら言い返す。
 ……ん?

『おいお前、学校は?』
「サボりました!」
『……頼むから俺のせいにはすんなよ』

 義務教育中なんだから、サボったら大変な事にならないか? そうでもない?
 ああ、忘れかけてたけどこいつはモデルだった。後で急遽仕事が入ったって言えば何とかなるの、かな。否、この際もうどうでもいいか。今更考えたってどう変わるってわけでもないし。
 只、来てくれた事を素直に喜ぼう。

 涼太の話によると、母さんは今涼太に看病を任せて買い物に行ってるそうだ。そして部屋に入るときにノックをしたけど返事が無かったから勝手に入らせてもらった、とか。……勝手に入ったのは仕方ないとして、何だかんだで信用されてるんだな、こいつ。

「あ、響っちゼリー食べる?」
『あー……涼太が、』

 食べさせてくれたら。
 言おうとした言葉を途中で引っ込める。何を喋ろうとしてんだこの口は!! 瞬時に顔が熱を帯びる。
 風邪のせいでストッパーが職務放棄しているようだ。頼む今だけは正常に働いてくれ。
 自分で自分の寿命を縮めてる気分だ。

「……うわ、可愛い」
『何か言ったか!?』
「何でも無いッス!!」

 その後涼太がゼリーを落として半べそかいたり俺が色んな意味でうんうん唸ったり、とにかく騒がしかった。母さんが様子を見に来てくれなかったら多分収拾がつかなかっただろうってくらい。


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