騒ぎが収まって、昼御飯も無事に食べ終わった頃には大分楽になっていた。明日はまだ無理だろうが明後日には学校に行くことが出来るだろう。
リビングで一緒に寛いでいると、不意に涼太が呟いた。
「あのさ、俺ね」
だけど歯切れが悪く、とても言いにくそうにしている。静かに続きを促してみるが、続きを言わない。
暫く視線を彷徨わせていたと思ったら、決心したように口にだした。
「バスケ部入ろうかと思うんスよ」
唖然。
涼太には悪いが、そんな事を言うためにあんなに迷っていたのかと言いかけた。
「この前すげぇ人見てさ、その人とバスケしたいって思ったんだ」
ソファーの俺の隣に座る涼太は生き生きと話していて、さっきまでの彼とは大違い。でもその表情の中には何かに対する不安も混じっているような気がする。
やっと見付けた、やりたい事。
だったら俺に止める理由なんか有りはしないさ。権利だって無いだろう。
『涼太がしたいなら、したらいい。応援するよ』
笑う俺を何か言いたそうな顔で見ているが、気付かないふり。
折角のお前の才能を活かせる機会じゃないか。躊躇う必要なんか無い。戸惑う必要なんか無い。今を逃しちゃ駄目だろ。
涼太が何も言えないように捲し立てる。
多分涼太が言いたい事は、俺と一緒にいれる時間が減るって事だと思う。朝も帰りも休日も、何もない俺とは真逆になるんだ。
寂しいとか、行かないでとか、じわじわと溢れ出てくる感情を隠す。ったく、何で今言うかな。ストッパー、頑張ってくれよ。
俺の事は気にせずに、どうか。
そう思って目を閉じた。
「ありがとう、響っち。俺、絶対頑張るッス」
『うん』
涼太とは反対側にある手のひらをぎゅっと握りしめた。
「ところで、何でこんな時期に風邪引いたんスか? 昨日までめちゃくちゃ元気そうだったのに」
素早く涼太が話を切り替える。
俺にもよく分からない。涼太の言う通り、昨日はすこぶる元気だったから翌日風邪で休みそうって感じは全く無かった。
俺自身も予想だにしなかった事態だ。
記憶を引っ張りだして、思い当たる節を探す。
『あっそうそう、昨日緑頭の人の落とし物拾った』
「緑ぃ?」
『すぐ渡そうかと思ったんだけど、その後紫の人からホースの水ぶっかけられてて……』
怒った緑君を止めようとして青色が出てきて、水色が増えて、あっという間にその場はカラフルに。赤い人が来た瞬間静かになったけど。
流石に返すに返せなくて、今制服のポケットの中にある。蛙のキーホルダー、だったかな。
話を聞いていた涼太の頭上には、大きくはてなが浮かんでいる。
まぁ確かにこれが風邪を引いた原因とは思えない。今の話からだと、その緑の人の方が風邪を引いてそうだ。
「緑頭なら、今日学校で見たッスよ。凄く元気そうだったけど」
……もしかしなくても、その緑君に行くはずだった災難の続きが俺に来た?
まさか、な……はは……。
そッスよ、んなわけ無いって。
どうやらどちらも考えていたことは同じだったみたいで、顔を見合わせてお互い苦笑いをした。
『(もう関わるのはよそう)』
「(……次会ったら文句言っとこう……多分そのせいだ)」
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