時は昼。
放送が流れたり、皆が自由に会話しながら昼食をとったり、まぁ簡単に言えば学校で一番五月蝿くなる時間だ。
そんな昼食時に何をするわけでもなく一人ぽつんと椅子に座っているのは、紛れもなく自分。何だか食欲が無い。何を見ても美味しそうに見えない。
くしゅんと一つくしゃみをする。あー、やっぱ風邪かなぁこれ。項垂れて溜め息を吐いた。
昨日の今日で、朝から一度も涼太の顔を見ることが出来ないでいた。見たら見たでどうせモヤモヤするだけだろうが。
でも、暫くしたら大丈夫になるだろ。慣れてきたら平気なもんさ。
二度目の溜め息を吐いたとき、俺の頭上に二人の影がかかった。
「よっ、響。昼一緒に食おうぜ!」
「あれ、お前弁当は?」
『あるけど食べる気起きない』
食わねぇと午後から死ぬぞ。
海野が笑いながら椅子に座る。
これくらいじゃ死にはしないけど。心の中で言い返した。
でも本当に食べる気がしないんだ。お腹は空いてるはずなのにな。
早速弁当を広げて食べ始める海野とは逆に、高山が広げもせずただ座っている事に気付く。急に気分でも悪くなったのだろうか。首を傾げて顔色を窺う。
そこにあったのは、いつになく真面目な顔だった。真面目な顔の口が動く。
「……俺等にも黄瀬みたいに、友達ごっこ、とか言わないよな」
目を見開いた。何をいきなり言うのか。
その声には感情が入ってなくて、少しばかりゾッとした。
「っ、おい高山!?」
『……言うわけないだろ』
どんな目的でその問いをしたのか。今の高山からその答えを出すのはあまりにも難しい。相手の心を読むのは苦手ではないけど、全く読み取れない。
怒ってる、のか?つい構えてしまう。
焦る海野を無視し、高山があーよかったと笑った。
どういう意味だ、それ。何がよかったんだ。まるで何かを見下したような言い方が、嘲るような笑い方が癪に障る。
確か高山は涼太を嫌ってはなかった筈だ。それは嘘だったのか?
涼太を、馬鹿にしてんのか。
膝の上できつく拳を握る。
「……響、本当に何も思わないわけ?」
怖い顔を作り俺と睨み合うように視線を合わせる。その声は確かに怒りを含んでいた。
『何がだよ』
「今、お前は俺に何も思わなかったのか?」
……もしかして、俺が本当に涼太を嫌いかどうか、確かめたのか?
いや、決して信用してない訳じゃないけど、いくらこの二人でも言えない。誰にも言うなって言っても、きっと涼太には話してしまう。そしてもしも、もしも涼太が発生源を潰しに行ったら……やばいどころじゃない。あいつ、バスケを続けられなくなる。
そんなの駄目だ。やっと見つけた、やりたいことなのに。
何も言うもんかと自制心を保つ。
そろそろ海野の居心地が悪くなってしまったであろう時、クラスメイトに名前を呼ばれた。
ふ、と視線を逸らすと、溢れていた緊迫感のようなものが霧散し、海野が息を吐いた。
「えーと、黒子からご指名だぞ」
黒子……。
『わかった、ありがとう』
言いたい事は大体予想がついている。
重い腰を浮かせて教室から出ると、しかめっ面をした黒子と顔を合わせた。ほら、予想通りだ。
敢えて何?と用件を問う。すると間髪入れずに、ちょっと話したい事がと返ってきた。
話したい事、ね。
『いいよ。でもここじゃあれだし、場所変えよう』
「はい、わかりました」
適当に歩けば空き教室くらい有るだろ。そう思って歩きだした。
「響さ、黄瀬のこと嫌いな筈ない。だってあいつ、あんなにも怒った目してた」
「高山、お前……」
「早く元に戻ってくれって願う事しかできないなんて、もどかしいな」
友人を心配する声は、教室のざわめきに掻き消されて、二人以外に届かなかった。
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