沈黙。ただひたすらに、重い沈黙が俺達を包む。
 空き教室を発見して中に入るも、一向に話を切り出す感じはない。

『……噂、聞いたの?』

 俺から振ってみると、表情を変えずに首を縦に動かした。

「直接聞こうと思って来たのですが、今二人の様子を見てよく理解しました」

 黒子も、怒ってる。自分の事じゃないのに。
 確かに、協力してもらっておいてこれじゃああれは無駄だったことになる。折角やったのに、それを無かった事にしちゃったも同然だし、黒子が怒るのも無理ないか。

「嫌いだなんて嘘ですよね?」
『嘘じゃない。俺は涼太が、否、黄瀬が大嫌いだよ』

 この前から吐き続けた言葉。撃ち出す度に口がヒリヒリ痛む。でももう今更塞げないし、塞ぐつもりもない。銃口を沢山の標的に向け、弾丸を撃ち出す。
 皆がその度に顔を歪めるけど、生憎貼れる絆創膏も巻ける包帯も持ち合わせていない。今俺に有るのは心を抉るナイフだけだ。
 誰も分かってくれなくたっていい。分かってくれとも言わない。だけど俺が出来るのはこれしかないから。

「……笑わなく、なりましたね」

 俯きがちに黒子を見遣る。

「黄瀬くんを見てる時、いつも楽しそうな顔をしていたのに、水城くんはとんと笑わなくなってしまいました」
『……無理矢理笑ってたから、疲れ、』
「いい加減にしてください!」

 ピクリと眉が動いた。黒子がこんなに声を荒げるなんて、思いもしなかった。
 いい加減にしろ……? それはこっちの台詞だ。
 沸々と怒りが込み上げる。

『お前等に何が分かるんだよ……』

 分からないくせに、いちいち干渉してくんなよ。
 続きの言葉を隠して、さっきの高山の様に睨み合う。
 嫌だ、ここにいたら、また思ってもないことを言ってしまう。涼太みたいに黒子まで傷付けてしまう。もう、手遅れか。
 一度こんな状態になったら、どんどん落ちていって戻れないってのは、思いもしないことを言ってまた更に孤立していくからなんだな。こちら側に立たないと、分からなかった。
 深呼吸して自分を落ち着かせる。
 これ以上はもう、要らない。

『……もういいよな、俺は教室に帰るぞ』
「待ってくださいまだ、」
『じゃあな黒子』

 もう、充分だ。
 立ち直れないくらい俺が悪いと責めてほしいと思う反面、責められたらきっと今みたいに怒りが湧いてくる。すこぶる面倒な奴だ。
 教室を出て少し歩く。もともと人通りが少ないここは、昼休憩になると誰も通りはしない。
 だけどそれでよかった。
 壁に左肩をつけて、自分を抱き締めるようにして蹲る。今すぐ吐いてしまいそうな程心がぐるぐると渦を巻いていた。


0818


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