(side 黄瀬)
 今日も今日とて俺の隣には誰もいない。明日こそ、と夢見ては何も変わらない現状に肩を落とした。
 そして、未だに答えは出せていない。俺は一体何を見落としてるんだろうか。
 バスケ部の皆と同じテーブルでご飯を食べる。決して美味しくないわけじゃないけど、何かが足りない。その何かは言わなくても分かってる。
 頬杖をついて皿に盛られたパスタをくるくるとフォークで巻く。あからさまにつまらなさそうな俺の隣に黒子っちが座った。

「黄瀬くんは知ってましたか?」

 黒子っちはトレイにのせたご飯に手を付けずに、唐突に話し出した。

「何を?」
「噂の事を」

 何の噂の事だろうか。
 俺の記憶の中には沢山ありすぎて、特定できない。
 んー、と唸ると、黒子っちは続きを口に出す。元から知ってる事には期待してなかったようだ。

「黄瀬くんと水城くんが付き合っている、という噂です」

 カシャンとフォークを落とした。
 その金属がぶつかる高い音にカラフルな頭が全てこちらを向いた。でもそんなの気に出来ないほどに俺は動揺していた。
 俺と響っちが? そんな馬鹿な。はぁ? と声をあげたくなる。

「……今初めて知ったッスわ……俺、基本自分に関する噂とか無視しちゃうんで……」

 そんな噂が出来ていただなんて。
 きっと俺の耳にも届いてはいたんだろう。まぁさっき言ったように、俺は自分の噂は全て切り捨てシャットアウトしている。いちいち構ってなんてられないからだ。
 だけど響っちは違う。"友達"との接し方もたじたじで、常に周囲からの反応を気にしていた。
 ここで一つ、俺の中に仮定が浮かんだ。

「もしかして、だから響っちは」
「十中八九そうでしょうね、彼は思い込みが激しい心配性なので」

 頷いてやっと手を動かし出す黒子っち。人間観察が得意な隣人がほぼ断定するように言うなら違いない。
 今度は俺が食べる手を止めて、思考に耽った。

 がむしゃらに部活に打ち込んでも、言い寄ってくる女の子と遊んでも、全然満たされない。あの日からぽっかり空いた穴が埋まる事はない。
 その穴は、あの日俺を拒絶した、俺の大切な人がいた場所。傍にいるだけで不思議なくらい満たされていた。
 無くして気付いたもの。
 もう響っちしか、俺を満たせない。どんな形であれ、俺の隣にいてほしいと心から切望する。
 ああ、やっと見付けた。傷付いていく君を助け出す道を。
 これで限り無く不器用な君の殻を壊す事が出来るだろうか。壁の中から連れ出せるだろうか。
 俺は爪の痕が付くほどに手のひらを握り締めた。

 その瞬間、忙しなく走ってくる誰かの姿が目に入った。確か……そう、高山だ。
 あんなに慌てて何か有ったのか? てか海野はどうした。
 そう何の気無しに目で追っていると、いつの間にか高山は目の前に立っていた。
 すなわち目的は、俺?
 息を整える時間さえ勿体無いと言うように、すぐ話しだす。

「黄瀬、早く来て、くれ……っ、響が……!!」

 全て聞くや否や、俺と黒子っちは勢いよく立ち上がって走りだした。
 何だよそれ。何でそんな事になってんだよ。
 高山の言葉が頭の中でエンドレス再生される。
 響が二階の廊下でやばい奴と喧嘩してる。

 一体何したって言うんだ。
 冷や汗をかき、人を躱し、とにかく走る。急げ、急げ。嫌な予感がするんだ。
 数分もしないうちに二階まで戻ってきた。(いつの間にか黒子っちを置いてきてしまった。)そこで、そう言えば詳しい場所までは聞いてなかったと思い出して小さく舌打ちをする。
 片っ端から探すかとまた走ると、それは思いの外すぐに見付かった。人だかりが出来ていて、ざわざわと騒がしい。
 その中で俺に気付いた海野が真っ青な顔で俺に手を振った。間違いない、あそこだ。
 近付いてそのままの勢いで人を掻き分ける。先に行く度に聞こえてくる罵声が大きくなった。



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