数秒後、赤司くんが帰ってきた。

「彼の様子はどうだ」
「さっきまで意識はあったんですが、今は……」

 そうか、とだけ返した赤司くんは、手際よく処置を始めた。手伝いながら、流石だと思う反面、僕が何の知識もない事をまざまざと思い知らされた。もどかしかった。

 救急車が来た時には、真っ白だったタオルは真っ赤に染まっていた。
 そして水城くんは運ばれていった。
 てっきり黄瀬くんは付き添いで行くのかと思っていたのだが、運ばれる水城くんをぼうっとした目で眺めているだけだった。
 やがてポツポツと喋りだした。

「ごめん、響……俺と会わなかったら、こんな事にはならなかったかもしれない……」

 君は、何を言ってるんだ?
 思わず黄瀬くんを見詰める。
 赤司くんもチラと黄瀬くんを見た。

「一杯傷付けて、俺の存在が響を苦しめた」
「傷付けるだけしか……出来ない」

 初めて黄瀬くんに対してこの上無い怒りを覚えた。
 僕は、隣まで足を動かした。

「……それ、本気で言ってるんですか?」

 いつもより数段低い自分の声に自分でも驚く。
 顔をもたげて僕を見上げる彼の目は、絶望だけを映した。
 どうしてそんな事を言うんですか。君までマイナス思考になってどうするんですか。

「黄瀬くんといる時の水城くんは、とても楽しそうでした」

 いつも遠目から見ていた。他の誰よりも愛しそうに君を見る瞳を。
 ちょっとした事に喜んで、へこんで、大概の事を悪い方に傾けてしまって。それでも君にだけは、いつも楽しそうに笑っていた。

「っ、そんな彼まで否定するんですか?」

 君だけはそんな事しないでください。

「何もかも、君にしか出来ないんだ」

 そう、僕には絶対に出来ないんです。いくら出来たら、と思っていても、やはりそれは黄瀬くんだけのものなんだ。
 悔しいけど、変えようのない事実だから。だから君がそれを否定しないで。忘れないで。
 全部言い捨てると、黄瀬くんは強く拳を握った。黄色の双眼には光が宿る。
 あぁよかった。ホ、と息を吐いた。

「黒子がそんなに感情的になるなんて珍しいな」
「……彼等は、僕の大切な友人ですから」
「そうか」

 赤司くんは口許に笑みを浮かべた。
 けれどすぐ真面目な顔になり、後は彼の気持ち次第だな、と呟いた。全くその通りだと思う。水城くんがもういいと諦めるか、まだ生きたいと思うか。
 僕は……僕は生きてほしい。諦めないでほしい。だってまだ君に言いたい事が沢山あるんです。君の話も沢山聞いて、君ともっと仲良くなりたいんです。
 お願いします。水城くん、どうか死なないでください。


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