母さんは涙を拭うと、家族や学校に連絡してくると言って出ていった。これはお父さんにも叱られるな。
心配をかけてしまったと気付いてから、何処と無く気不味い。ずび、と鼻を啜った。
『……ごめん』
無言。
『ごめんな』
またも無言。
そこからは何も喋らずに、只真っ白いシーツを見詰めた。汚れ一つ無い綺麗な白。
その沈黙を破ったのは涼太だった。
伏し目がちに話し出す。
「それは、何に対してのごめんなの?」
涼太の右手が、やんわり俺の頬に添えられた。
「俺に言った事?」
うん。
「心配かけた事?」
うん。
「……俺を、好きになった事?」
顔を上げた。
どうして涼太がその事を知ってるんだ。まさか黒子が? 否、あいつはそんな人じゃない。
やばいと分かっていても、頭が真っ白になってしまって弁解のしようがない。ぐるぐると思考が回りに回って良い言葉が掬い出せない。
気持ち悪いって言われたらどうしよう。それは勘違いだなんて否定されたらどうしよう。どうしてもプラスに考えれない。きっと今の俺は真っ青だろう。
しかし涼太の表情は余りにも穏やかで、俺は目を見開いた。
「……何であんな無茶したんスか。俺の事嫌いとか言っときながら」
苦い表情をした涼太の口から吐かれた「嫌い」が、ずしりと俺に伸し掛かった。
それだけでこんなにも苦しいのに。多分涼太は、もっともっと苦しかった。いきなりあんな事言われて、訳も分からずに。もし俺が涼太だったら、きっと堪えられない。
嗚呼、なんて事をしたんだ。
俺は目を瞑ってその手に少し擦り寄った。
『……あいつら、涼太の事悪く言って、有りもしない出鱈目言って……それが許せなかった』
今でもまだ許せない。吉川も、俺も。
「響っちから突っかかったってのは本当なんスね」
僅かに頷くと、涼太は大きな溜め息を吐いた。
どうしよう。幻滅されたら。
それを考えたら身体が震えた。目をきつく瞑る。
嫌われたってよかったんだろ? だからどんな手を使ってでも涼太を守りたいと思って、あんな嘘吐いた。違うのか?
だったらどうして今、こんなに怖がってるんだ。
「ねぇ響」
軽く抱き締められる。突然呼び捨てにされ、心臓がドキッと跳ねた。
「頼むから、あんな事はもう止めて。響が窓から落ちて、手も、届かなくて……俺も心臓止まるかと思ったんスよ」
抱き締める力が強くなった。
「本当に手が届かない所に行っちゃうんじゃないかって……今まで沢山の物を手にして、沢山の物を失ってきた。けど、響だけは失いたくない」
『っ』
「今更言ったって遅すぎかもしんねぇスけど、俺は」
涼太が離れて正面から向かい合う。真面目な瞳の中に、不安が揺らいでいるのが見えた。
その姿は余りにも綺麗で、息を飲んだ。
「俺は、響の事が好きです」
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