「黄瀬くん……怪我人に何て事を」
『くっ、黒子!!?』
「ち、ちちちが、違うんスよ黒子っち!」
ベリィッと音が付きそうなくらいの勢いで俺と涼太は離れた。
ドッドッと心臓が悲鳴をあげる。驚いたとかそんなレベルじゃない。死にそう、言い過ぎじゃない、恥ずかしさと驚きで死にそう。つか、今俺、何を……。どんどん熱を帯びていく顔を布団に埋めた。涼太は来てよかったですとジト目で己を見る黒子に必死に弁解しようとしているが、まぁ多分無意味。
そろそろ看護師さんが五月蝿いですと青筋を立てて飛んで来そうになった頃、更に人が入ってきた。超笑顔で。
「お前達、病院でそんなに騒ぐものじゃない」
途端に二人揃って背筋をピンと伸ばすものだから、つい吹き出した。
入ってきたのは赤髪に赤と金のオッドアイを持った人。日常的に涼太や黒子と付き合ってるせいか、その髪や目に今更驚きはしない。
その人は少し口角を上げると、うん、大丈夫そうだね。大事に至らなくて何よりだ、と言った。
知らない人だ。取り敢えず会釈をする。
赤、きっとバスケ部の人だ。赤、二人から少なからず恐れの対象である。赤、あか、アカ……?
『あ……もしかして、アカシさん?』
人差し指を伸ばしてある名前を口に出した。涼太の練習風景を見に行った日に、青い人がアカシと言った時と変わらない二人の反応。間違いない、この人がその人だ。
「驚いたな。知っていたのか」
『いえ、前に青い人が言っていた名前を覚えていただけで……』
「青峰か。ああそうだ、青峰も緑間も君の事を気にしていたよ」
今度は俺が驚く番だった。大して関わり無いのに、まさか、と。でも単に怪我したとかじゃなくて人一人落ちたんだからまた訳が違うか。俺の自分勝手が巻き起こした事態なのに、ああもう申し訳無い事ばかりだ。後で絶対に謝ろう。胸元をくしゃりと掴む。
そしたらアカシさんは、そんなに思い詰めるな、と言って徐にポケットから何かを取り出した。……そ、それは。
「いつぞやの蛙じゃないスか……緑間っちは一体何を……?」
「君のラッキーアイテムらしい。渡してくれと頼まれたんだ」
アカシさんは続けて流石に青峰からのザリガニは無理だったと言った。ザリガニって、何考えてんだあの人は。苦笑いを浮かべて手のひらに視線を移した。
ポトリと俺の手に乗った蛙は、お世辞でも可愛いとは言い難い。ばっちり合う視線に言い様の無いものを感じた。只一つ言えるのはまるで緑間さんみたいだと言う事。
はて、だが俺は自身の誕生日を緑間さんに教えた事があっただろうか。蛙は答えない。別段困る事は無いし、気にしなくてもいいか。今はこの好意に素直に喜ぼう。キュ、と蛙を握り締めた。
その時今まで黙っていた黒子が、唐突に俺を呼んだ。
『何だ?』
「後日、君に言いたい事が山程あるので。ですから、」
逃げないで下さいね。
微笑をしているが、目は笑ってない。これっぽっちもだ。うん、多分怒ってるなこれは。
勿論もう逃げるつもりは無い。許してほしいとも思ってない。皆が優しくしてくれたからと言えど、変わらない物があるのだから。ゆっくり頷くと、黒子はフンスと鼻を鳴らして絶対ですよと念を押した。余程以前逃げたのが頭に来てるみたいだ。不満そうな顔が可愛らしいと思ったが心の中にしまっておいた。
その後黒子はアカシさんに何か話し掛けられ、二人の世界に入ってしまった。
「これは説教ラッシュになるんじゃないスか?」
『……当然だろ。てか、涼太は怒らないんだな』
溜め息と共に問いかける。涼太こそ怒ってもいいと思うのだが。
「怒らないってか、怒れないってか。俺だって気付けなかったし、何もしてやれなかったし」
「結構ムカついたと言えばそうだけど、どっちかって言うと自分に対しての方が大きいかな」
横目で窓の外を眺める涼太はそう答えると、ぼんやりと遠くを見詰めだした。何かを思い出してるような感じだ。そして軽く肩を竦める動作をすると、再びこちらを向く。
「ま、これから色々返してもらうんで」
入ってきた時のアカシさんの様な超笑顔で言う涼太に、嫌な予感がしたのはきっと気のせいじゃない。色々って何だよ。訊いてみても、んー?とはぐらかされるばかり。赤くなった顔を見られて散々からかわれたのは言うまでもない。それを見て呆れる赤と水色が居たのも、勿論。
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