取り敢えず、思ったことを言わせてもらいます。あの時は逃げられてしまいましたが、今回は強力助っ人が二人居るのでもし逃げたくても逃がしません。

 君は、人がどれだけ心配したと思ってるんですか。水城くんも黄瀬くんも日に日に弱ってくし、そして終いには窓から転落だなんて……もうあんな恐ろしい思いはごめんです。絶対止めてください。
 大体何故嫌いだなんて言ったんですか。その結論に至ったんですか。
 本当に好きなら、周りなんて気にしなくていいじゃないですか。世間体なんて無視して、気持ちをぶつければいいじゃないですか。え? そう言うのは簡単だ? 現実はそうはいかない? 勿論簡単な事ではないと思います。気にするのが普通なのかもしれません。だけど、何故そうだと初めから決めつけるんですか。何もしてないくせに、君は自分から可能性を消してしまっていると何故気付かない。
 あと、僕に何が分かるんだって言いましたよね。そんな事言われたって、知ろうとしたらわざと遠ざかるくせに、理解できるわけないでしょう。そんなのは只の傲慢だ。
 君の思っている正しい道って何なんですか? 道理に適った人生を進むことですか? ……もし区別があったとしても、それを選ぶのは君じゃない。それは只の押し付けにしかならないんです。傷付かない道なんか無いです。傷を負う前から包帯を巻いて、自然と黄瀬くんを遠ざけていたこと、君は気付いてましたか? そして自分で自分を否定して、嘘を吐いて、我慢して、それで君は満足なんですか。本当の気持ちを押し潰して、あまつさえ黄瀬くんの気持ちも……。
 あれは、本当に水城くんの望んだ事だったんですか……?


「君は、勝手過ぎます」

 ほぼノンストップで捲し立てる様に喋り終えると、黒子は肩で息をした。……一先ずの嵐は去ったようだった。
 あれから無事に退院出来た俺は、特に支障もなく生活している。吉川とも和解はした。仲良くはなれそうにないけど。そして放課後。朝取り付けられた約束通り誰も居ない教室で待っていると、黒子と、あと何故か青峰さんと緑間さんが入ってきた。青峰さんは単に黒子について来ただけらしく、緑間さんはそんな青峰さんに無理矢理連れてこられたそうだ。
 黒子のマシンガン文句を聞いてる間、俺も青峰さんも緑間さんもぽっかりと口を開けてその様子を見ていた。青峰さんに至っては顎が落ちるんじゃないかってくらい。どうやらこんなに饒舌な黒子は初めて見たらしい。俺もだよ。
 結果、正直に言おう。俺のHPは限り無く零に近い。

「すみません、言い過ぎましたか」
『……正直かなり来た。でも、これくらい言ってもらった方がいっそ楽かも。あの時言いたかった事も込みなんだな』
「はい。だから今は意識が変化してる部分も無い訳では無いですが、さしあたって付けはこんな所です」

 スッキリしたような顔をする黒子。余程溜め込んでいたのだと窺える。同時に僕も大概傲慢ですね、無責任な事ばかり言ってますしと呟いた。
 俺が望んだ事に違いないけど、満足はしてない。きっと黒子もそれは分かっているのだろう。

 今の俺が出来る最善策なんじゃないか。
(違う、もっと他にあるはずだ)
 終わらせてしまえばどちらも苦しむ必要はなくなるんだ。
(苦しみの連鎖が続くだけだ)
 痛いのなんてはじめのうち。暫くしたら忘れ去って、もう戻れなくなる。
(忘れられる訳無いって自分で分かってるだろう)
 これでいいじゃないか。問題無いさ。
(ああ、)
 大丈夫、後悔なんてしない、絶対に。
(もう、後悔してしまいそうだ)

 俺は、涼太の気持ちを無視した。最終的には自分だけを考えて、最善策じゃないと知りながら、最悪の道を歩いていた。自分を正当化しては独り善がりで、馬鹿みたいに。
 本当なら、こんなのもう会わす顔無い。謝ったって、謝りきれない。それこそ一生懸けたって無理な気がする。だけどあいつは、許してくれた。と言うより、受け止めてくれたの方が近いか。
 右手で顔を覆い、大息を吐く。そして受け止めてくれたと言えば、と今朝の事を思い出した。

『俺さ、教室に入って直ぐクラスの皆に囲まれたんだ』
『嘘を吐いた事に何か言われるんじゃないかってちょっと怖かった。だけど皆、もう大丈夫なのか? とか、何か困った事があったら何でも言ってね、とか俺を心配してくれた』

 驚いたとかそんなレベルじゃない。
 高山と海野は何回か見舞いに来てくれていたけど、俺の姿を見るなり飛び付いてきた。後ろから涼太が支えてくれたから倒れずに済んだけど。
 二人は関わりが深い。俺の大切な友達だ。だけど他の皆はそうじゃない。青峰さんや緑間さんだってそう。俺なんか大して話したこともない、気にも留めない存在の筈だ。赤司さんなんて以ての外だし。それなのに……。



ALICE+