時は昼。
 放送が流れたり、皆が自由に会話しながら昼食をとったり、まぁ簡単に言えば学校で一番五月蝿くなる時間だ。
 そんな昼食時に廊下を走っているのは、紛れもなく自分。午前の授業が終わると同時に委員会の召集をかけられたのである。
 涼太に先に食堂に行っててくれと言うと、隣空けて待ってると返事が返ってきて、それを思い出すだけで口許が緩む。
 って、付き合いたてのカップルかよ! あーもう、というか俺達は男だ! 全く恥ずかしいな……。
 滑り込むように食堂に入り、涼太を探す。あんな金髪野郎、この帝光には涼太以外いなかった筈だ。
 確か、バスケ部にはカラフルな頭の人達がいるらしいけど。
 そんな事より、今は探すことに……あ、いた。

『涼、』

 つい、足を止めた。
 止めたというより、止まってしまった。
 視線の先には確かに涼太がいる。でもその周りには数人の男女がいたのだ。左右の席は埋まり、後ろにも人がいる。机の上には何も無いから、ただ座っているだけみたいだ。
 いくら彼がいるにしても、ほぼ見ず知らずの人の塊に入れるほどの勇気はない。
 そして何より、楽しそうな笑顔。
 ……そりゃそうだよな。涼太は人気者なんだ。友達が涼太だけの俺とは違う。人気者の一人占めは、よくないよな。
 すれ違う人の中に立ち尽くす。
 どうしたんだって訊きながら近付けばいいじゃないか。隣空けとくって言ったくせにって、笑いながら言えばいいじゃないか。
 踏み出せない足に苛立ちを覚え始めた頃、涼太が俺に気付いた。

「響っちおかえりー!」

 大きく手を振る涼太に逃げ道を無くした俺はゆっくり近付いた。
 傍に行くと、人が避けて涼太までの道が出来る。どうにも通りにくい。
 だがしかし黄色が笑顔で手招きするものだから仕方ない。何だか逆らえないんだよなぁ……。
 真横まで来た俺に満足そうに笑う。すると、

「ねぇねぇ水城君! 次の日曜に映画観に行かない?」
『え、映画?』
「そうそう!」

 あっという間に女子に囲まれた俺は、もはや逃げる術を断たれてしまった。
 どうしよう、女子とこんなに接近した事ないから照れる。
 後ろからは、やっぱ水城は集られるな、ほんっと羨ましいわ、等と男子生徒が談笑しているがそれどころじゃない。助けろ。

『あっ、わ、悪い。用事あるし止めとく』

 苦笑いしながら答えると、えー、残念、と落胆した様子。
 本当は用事なんか無いんだけど。あまり乗り気にもなれないし、緊張で何をしでかすかも分からない現状ではまだ無理かな。
 また今度機会があれば、そう返すと、絶対だよ! と言われる。
 その声で気が付いたけど、クラスの女子で一番人気と言われる娘だった。そう考えたら、めちゃくちゃ緊張してきた。
 ぐるぐると頭ん中が混乱していく。
 あと、何て、言えば。
 訳が分からなくなった頃、後ろに手が引かれた。突然の事だったので、バランスを崩した俺は、その勢いで何かの上に乗った。
 このよく知った香りは。

「響っちが行かないなら俺も止めとくッス」
『りょ、りょりょりょ、うあああ!!?』
「ちょ、うるさっ!!」

 何で俺涼太の膝に座ってんだ!?
 カッと頬に熱が集まる。
 否、これは突然涼太が引っ張ったせいだ。俺は何も悪くない。何も、悪くないぞ。



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