ドサリ。冷たく硬い感触が背中に触れる。
 なんでこんな状況になっているんだっけ。すべての神経をこの状況に集中させようとするが、カサカサと当たる髪の毛によって分散してしまう。くすぐったい。非常にくすぐったい。
 それよりも、神童キャプテンに押し倒されているのは夢なのか現実なのか、一体どっちなんだ。できれば現実であってくれああいやでもうわああ神童キャプテン助けて! ってこの状況で神童キャプテンに助けを求めるのはおかしいか。
 両腕を神童キャプテンの片手だけで拘束されて、しかも全く身動きできないくらいびくともしないとか、同じ男として俺はどうなんだろうか。ひ弱すぎるの? ……本当、どーなのよ。

「随分と余裕なんだな、苗字」

 空いている方の手で俺の顎を持ち上げる。視界一杯に広がる神童キャプテンは、妖しく笑っている。色っぽい。イケメンは何をしてもイケメンだ。鼻血でそう。
 いやしかし俺のいろいろなものが危ない。意味がないと知りながらも、抵抗せずにはいられない。
 イケメンだからってなにしても許されるわけではない。もう一度言おう、許されるわけでは、ない。

『神童キャプテン、放しましょう俺をそして落ち着きましょう! ね!?』
「俺はいたって冷静だが?」

 ですよねー放してくれないですよねー。
 更に強くなった拘束に、諦めて力を抜こうとしたら、神童キャプテンが何かを呟いた。  それを拾うことができず聞き返すと、何でもないとはぐらかされた。

『あの、神童キャプテン……近いっす』

 整った顔をずっと眺めていたいが、鼻血が出てその顔を汚してしまいそうで、少し視線をずらす。顔を背けた俺を見た神童キャプテンは、空いた隙間にすかさず近付く。
 しまった、ここは我慢して正面向いとくべきだった、かもしれない……。
 どうしよう、この状況は美味しいのかもしれないけれど、霧野先輩とか来てぶち壊してくれないかな。

『俺もしかして貞操危機? ん、童貞?』
「俺は異性じゃないからどちらもちがうかもしれないが、敢えて言うならば貞操危機かもしれないな」
『神童キャプテンのキャラもちょっと危機ですね』

 僅かに壊れかけた雰囲気を頑張って壊しにかかるが、やはり神童キャプテンがそれを許さなかった。
 ああ……本当に危機だ。

「好きだ、名前」
『っ、しんど、キャプテン』
「拓人って呼んでくれないか」

 耳元で艶かしく、低く呟かれる。うわ、反則だろ……かっこよすぎる。一気にのまれていく自分がいた。
 だがいくら神童キャプテンの要望でも相手は尊敬すべき先輩。敬意を払わぬわけにはいかない。

『た、くと、さん……』

 聞こえるか聞こえないかくらいにぽそりと呟いたら、クスリと笑う声がした。
 そして再び顎を持ち上げられ、正面を向く。
 もう諦めた俺は、迫る拓人さんを受け止めることにした。




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