『キャーキャー言われて良い気になってんじゃないですよ。このナルシスト』
「聞こえてんぞ。ったく、素直なお前は何処に行ったんだか」
素直な私?
復唱すると南沢さんは口角を上げた。
「俺が運んでた時、“南沢さんごめんなさい”って言ってた」
……全く記憶にない。何時の間に謝ってたんだ。てか南沢さんだと一応認識していたのか。この痛む頭でよく分かったな。逆に言えば、多分南沢さんしか気付かなかった。
無意識だったんだろうな。だろうじゃなくて、きっとそうだったんだ。恥ずかしい。
あれ? 運ばれたってことは、つまり負んぶにしろ何にしろ、南沢さんが私を抱えたってこと。こんな自分の荷物より重い女抱えて歩かせるなんて、流石に申し訳無い。し、しかも重いのバレたってことか。
何それうわ最悪。間違いない、謝罪の原因はそれだ。女子が真っ先に考えそうなこと。私も例外なく当てはまっていると言うわけだ。
「何黙ってんだよ」
『否、今理由が分かったんで。重かったでしょう、本当ごめんなさい』
「……お前ってそんなこと気にするのか」
『私だって女子です!』
少しかちんと来て、言いながらそっぽを向いた。
好きな人に体重知られたくないって、誰だって思います。聞こえない程度に呟く。
まさかわざわざ、しかも南沢さんが運んでくれたのにははしたなくも喜んだのは事実。でもそれとこれとは話が別だ。
ふと、目の前を一年生が笑いながら走っていった。(私は途中退場したが)あれだけ歩いたのに元気だな。その姿を追って右から左へ首を回す。
見送ると、そのまま御隣さんと目が合った。ドキッと心臓が跳ねる。打って変わって優しい眼差しに、そんなの狡いっていつも思う。
私が視線を外すより前に、南沢さんが喋りだした。
「謝罪より聞きたい言葉あるんだけど」
『……ありがとう、ございました』
ん、と軽く笑い、私の頭をポンポン撫でた。やっぱり狡い。
何だか全てが気恥ずかしく思えた。直視するのが辛くなって、今度こそ視線を逸らす。こんな空気が流れたの、もしかしたら初めてかもしれない。
この何となく恥ずかしい空気を心地よく感じ始めた頃、南沢さんは立ち上がって、椅子にもたれ掛かっていたらしい私の荷物を持ち上げた。どうやら休憩が終わったようで、生徒が続々と歩き出している。
「先生には言ってあるけど、どうだ。行けそうか」
『あ、はい。大分楽になりました』
「辛くなったら言えよ、優しい先輩が負ぶってやる」
強調された最後の言葉に、自然と笑いが溢れた。負んぶは正直もう遠慮したいけど。
何も返さず立ち上がる。返事は元から期待していなかったようで、荷物と共に背中を向けた。
「好きなやつ一人運べない程、俺は弱くないから」
振り返り様に聞こえた台詞に、ボトリと、手に持っていたタオルが地面に落ちた。
260425
←
top