SPIRIT WORLD
護衛する森山宮地伊月

 幾度と行われる新館の探索。
 だが探索を繰り返しても全く新館に辿り着けないので今の状況で何がいけないのか考えた時、行動人数が問題なのではないかと考えた。各学校と行くと少なくとも六人以上十人未満での行動になり、正邦と組む時はアレクさんが一緒に来てくれるので五人になる。なので、五人未満での行動あるいは極端に言えば大人数での行動が必要なのではないかと一つの案として考えた。

 そしてその考えを全体に伝え、まず少人数で行く案を出した時に誰が行くかで話し合いが始まった。そこであたしは余計な事を言ってしまったらしい。

「あたし一人で行ってみるのもありかなー、なんて」

 その瞬間それを聞いたみんなの目が吊り上がった。

「何言うとんねん!それがどんだけ危険かわかるやろ!?」

「それはこの状況が打開されない最悪の場合にのみ適用する事です。今の状況でそれを許可するはずありません」

「つか怪物怖がってる時点で一人で行けるわけねえだろうが、バァカ」

「絶対にそんな事駄目ですから!」

「もし一人になった瞬間怪物が一斉に襲ってきて殺されでもしたらどうすんだよ」

 翔ちゃん、赤君、マコマコ、リコぴん、峰さんの発言を口切りにみんなに説教されてしまった。あまりの剣幕にビビって軽はずみな発言を謝罪した。

「ご、ごめんなさい」

「チッ…馬鹿だろお前」

 灰君にも暴言を吐かれてチーンと落ち込む。さっちゃんに背中をポンポンと撫でられて慰められた。

「で、誰が行くかだが」

「まずは四人で行きたいから三人行ける人がいれば」

 ゆっきーとあたしが言うや否や大勢が挙手する。嬉しいがこれでは決められない。

「じゃああたしとじゃんけんで勝ち残った人で宜しく」

 あたしが手を掲げて有無言わさず「じゃーんけーん」と言い、慌ててみんな手を出しじゃんけんする。
 その結果。

「そらさんと探索!」

「オレらもいるから。轢くぞ」

「宜しくそらさん」

 森りん、清ちゃん、俊ちゃんの三人が選抜された。特に無茶をするような子達ではないし、冷静に状況判断出来るだろうから何の心配もない。
 そして各々武器を持ち、体育館を出た。










「外の景色変わんないねー」

「此処に来てどれくらい経ったんだろうな」

 先頭にあたしと清ちゃん、後ろに森りんと俊ちゃんで三階の廊下を並んで歩く。三階に怪物が多いのは変わらないので気が抜けない。
 一度入った教室にも入り天井や壁に変わった部分はないか、ヒントはないかを調べるが見付からず。

「こんなに探しても見付からないと腹立ってくるよね」

「そうだな。怪物が教えてくれるわけもないしな」

 1年D組でそうボヤくと俊ちゃんが苦笑して同意する。次の教室に移ろうと俊ちゃんが先にドアを開ける。

 教エテ欲シイナラ体チョウダーイ

 曇りガラス越しにでも何も映っていなかったのに、ドアを開けた先にいたのはにたりと笑う細長い男。口からだらしなく涎が垂れて目は普通よりかなり離れて虚ろ、落ち武者のような髪型で血だらけの着物を着た怪物は、俊ちゃんを押し退けて後ろにいたあたしに突っ込んできた。

 両肩を掴まれ勢いのままドアの反対側にある窓に叩き付けられた。

「ぅぐッ!!」

「そらさん!!」

 背中と頭を強く打つがガラスは割れない。衝撃に閉じた目を開けると目の前に気持ち悪い男の顔。
 恐怖に目を見開いているとベロリ、と左頬を舐め上げられた。き、気持ち悪い…!!

 女ァ 好キィ イイイィィイイ!!

 ポニョ、ソウスケ、スキー!みたいに言うんじゃないよ!!

「いっやだ!!離せぇぇえ!!」

 突然発狂したコイツに嫌だと身を捩る。
 瞬間、男の体が後ろに引かれダンッ!!と黒板へ叩き付けられた。そうしたのは清ちゃん。

「勝手に触ってんじゃねえよ!!」

「そらさん!」

 へたり込みそうなのを森りんに支えられる。清ちゃんは男の顔面を思い切り殴り付けると骨が砕けるような音が響いた。どんだけ。

「そらさん!弱点は!?」

「えと、お腹!」

 俊ちゃんは聞くと当時に走り、ナイフを出して清ちゃんが男を押さえ付けている間に腹部に深く突き刺す。絶叫して消えていく男に安心し、その場に座り込んだ。
 森りんも同じように座ると僅かに震えるあたしの肩を抱いた手に力を込めてぎゅっと抱き締めた。

「森りん、」

「すみません、怖かったですよね。オレ達がついていながら…」

 頭を預けている森りんの胸板からドキドキと鼓動が伝わった。あたしもそうだけど緊張してるのかなと思うと少し笑えて、同時にちょっと落ち着いた。思わず笑うと彼は一瞬目を見張ったが少し頬を赤くし抱き締める力が強くなった。

「いや、あたしが避けなかったのが悪い。大丈夫だよ、ごめんね」

 少ししてそっと体を離すと森りんは苦い顔をしたまま。その彼の頭を叩いたのは清ちゃん。

「テメェも何勝手な事してんだ。ああ?」

「男のジェラシーは醜いぞ」

「うるせー撲殺すんぞ!!」

 青筋を浮かべた清ちゃんはボロクソ言いながらあたしの腕を引いて立たせる。そして歩き出した。

「おい!」

「ちょ、何処に行くんですか!」

 慌てて森りんと俊ちゃんが追い掛けてくるが清ちゃんは無言であたしを引っ張っていく。行き着いたそこはトイレで男子トイレのドアを開ける。

「え!?ちょ、清ちゃんあたし一応女だけど!」

「わかってるっつーの!けど此処は高尾がトイレに来て何もなくて水も出たっつってたろうが」

「あ、そういえば」

 今までの探索中、どうしてもトイレが我慢出来なかったタカ君が用を足しにきて何事もなく水も出たトイレだ。
 あたしは体育館にもトイレがあると聞いてそこしか利用していないし、女子トイレは花子さん的なのが怖くて入れないと言っていたのを覚えていたようで、男子トイレではあるが水を使う為に連れてきたとの事。

 清ちゃんは二人に外で見張るように言うとドアを開けっ放しであたしを連れて中に入り、蛇口まで来るとポケットからハンカチ(準備がいい)を出して水に濡らし、あたしの腕から手を離したかと思えばガシッと顎を掴んだ。

「ふっ!?」

「じっとしてろ」

 そして濡れたハンカチで舐められた左頬を拭う。顎を掴む力は強いが頬を拭う手付きは優しい。そして近い。

「う…」

 取れたか?と呟きながら入念に拭われるが様子を窺っている事から近い顔が更に段々と近くなる。
 美形が近いわけで、当然あたしは照れる。視線が彷徨い顔が赤くなってしまったのは不可抗力だ。

「よし。これでいいだろ」

 そう言った清ちゃんと目が合った。ち、近いいいい!

「あ、ありがと清ちゃん」

「…おう」

 しどろもどろになりつつ礼を言うと清ちゃんはそう返事するが離れない。何だろ、何か顔に付いてる?
 すると僅かにだが頬を染めて、更に顔が近付く。…え。

「はいストップ」

「!」

「ぐっ」

 そう言って割り入るのは俊ちゃん。あたしの口を軽く押さえ、もう片方の手で清ちゃんの額をグイと退け反らせるように押さえた。

「近過ぎですよ、宮地さん」

 ニッコリ笑う俊ちゃんの笑みに何故か寒気がした。そして離されるがあたしの唇に残る俊ちゃんの手の熱を感じ、状況を理解して更に赤面したのは言うまでもない。
 というか、清ちゃん今何しようとしたんだろ…き、キス?いやいや思い違いも甚だしい!ヤメロ自分!!

「終わったなら行こう、そらさん」

「あ、うん」

 肩を緩く抱かれながら歩き出した俊ちゃんにトギマギしつつついて行くとドアの前で待っていた森りんが俊ちゃんの反対側に立って手を握ってくる。

「次また襲われると大変ですから、オレと手を繋いでいましょう」

 キリッとした顔で言われるがそれを俊ちゃんが横から口出す。

「オレが隣にいるので心配ないですよ。その手を離して下さい森山さん」

「二人とも離せ。そらさんが歩き辛いだろうが」

「さっき強引に引っ張っていた人に言われたくありません」

 清ちゃんも来て三人がバチバチと睨み合い頭上で言い合う。これは所謂ハーレムというやつですね、ありがとうございますご馳走様です。
 でもこんな美味しい話があってもいいのか、もしかして何か怪物の仕業?と思い辺りを見渡すが特に何もない。
 取りあえずトイレから離れて移動するように促すと、三人が引っ付いてくるので動き難いったらありゃしない。1年教室まで戻りながらあたしは遠慮がちに言う。

「歩きにくいんですが…」

「だってよ。お前ら離れろ」

「いや、オレは手繋いでいるから」

「そらさん怖くない?大丈夫?」

「いや聞けよ」

 離れない三人に思わず溜め息が溢れた。まるで母親を取り合う兄弟のような…なんて思いつつ先程の怪物の話に移す。

「三人にはどう見えてた?」

「普通の着物着たオッサンだな」

「顔が変質者みたいだったよ」

 変質者みたいって…でも何となく伝わった。あたしが視えたのは変態が化け物の姿になった感じかね。

「そらさんにはどう…?」

「涎垂れてて目が異様に離れた、やたら細長い落武者の怪物かな」

 言いにくそうに聞いてきた森りんにそう返すと三人が顔を歪めた。すると急に俊ちゃんが振り向く。

「どうした?」

「っ、走れ!」

 振り向こうとする前に抱かれたままの肩を押され走らされる。四人で走っていると後ろから女の叫ぶ声が聞こえた。

 私モハーレム二混ゼテェェェェ!!

 視線を後ろに向ければ追い掛けて来ているのは長い首を床に引きずりながらよたよたと、でも素早く走る女の姿。引きずられている顔は傷だらけの状態で、血走った目でこちらを見ながら必死の形相で叫んでいる。
 イケメン揃いだから羨ましいのね。

「女!?」

「首折れてるのによく走れんな」

 森りんと清ちゃんの発言でどのように見えているかはわかった。確かによく走れるなと思う。あたしが見えてるのは首長だけど。
 そして靄は足に視えた。ハーレムに入れてって事は三人が狙いか?そう思ったあたしは覚悟を決めた。あたしも守られてばっかは嫌だし。

 実はずっと服の中に仕込んでた愛用のフライパンを取り出すと、森りんの手を解いて肩を抱く俊ちゃんの手を離させ踵を返す。

「「「は!?」」」

 走り続ける三人は直ぐに止まるがあたしは既に女に突っ込んでいる。女はあたしに気付くと両手を伸ばした。

 私ト入レ換ワレェェェェ!!

「だが断ァァァる!!!」

 走りながら身を少し低くしてフライパンを振りかぶり、すれ違いざまに思い切りスイングしフライパンは見事女の脛に当たる。ゴーン!と景気のいい音が響くと女は足を抱えて崩れ落ち痛いと嘆いた。弁慶の泣き所ですからね。
 弱点ではあったが叩いただけなので消えはせず、あたしの一瞬の気の緩みを見抜いて女が飛び付いてきた。

「うわあっ!?」

「そらさん!!」

 俊ちゃんが逸早くあたしに飛び込んできて抱き締め、女を避けると床を二人で転がる。
 その合間にナイフで森りんが足を切り怪物を消滅させた。あたしが足を狙ったのを見ていて弱点を察したようだ。

「いてて…」

「っ…そらさん大丈夫ですか?」

「大丈夫、…う」

 衝撃に閉じていた目を開けると目の前に俊ちゃんの綺麗な顔があって息を飲む。てかこれ床ドン?ひいいいい!!
 俊ちゃんも状況を理解し顔を赤くするが狼狽えるあたしを見て意味深長な笑みを浮かべた。何その笑み。

「いつまでそうしてんだ!」

「痛い!」

 だが俊ちゃんは清ちゃんによって引き剥がされてあたしは森りんに起こされる。

「ムッツリスケベが」

「宮地さんには負けます」

「そらさん男はみんな狼だから気を付けて下さいね!オレは大丈夫ですけど!」

 あたしを置いてけぼりな三人の発言を聞きながら美味しい状況なんだけど本当に心臓がもたないからやめて欲しいと思った。

「お前達には任せられない。オレがそらさんの隣を歩く!」

「お前は真っ先に抱き締めてただろーが!轢くぞ!」

「行こうかそらさん」

「「抜け駆けするな!!」」

「もういいから帰ろうよ…」

 嬉しい状況ではあるけど流石にこのやり取りで時間を潰すわけにはいかず。時間もいい感じに経ってるし、四人で行動しても変わらないみたいだから戻ろうと言って三人を丸め込み、体育館へ戻る事になったがその間も言い合いをしていた。しかも三人とも近い。
 でもこんなやり取りを見るとやっぱり高校生なんだな、と思い微笑ましく人知れずあたしはちょっと笑った。

 だが体育館に着いてからの報告の時も三人がお互いに余計な事を言って墓穴を掘り、みんなに抱き締められたとか床ドンされたとか余計な情報が流れて居心地悪くなった。あたし何もしてなんだけど。いい思いした罰なの?

 てかみんな質問攻めはもういいからちょっと一人の時間くれませんか、振り返りと反省がしたいです。
 ちなみにこの後の探索でも実験したけど探索人数は関係ないようです。











みー様、お待たせしました!
リクエスト頂いて直ぐにシチュは浮かんだんですが本編が中途半端だったので、本編がいい所に行くまでお待ち頂く事になってしまいすみませんでした。
そして守られながらぐいぐい攻め、如何でしょうか。少し押しが弱いかな…気に入って頂けると幸いです。
素敵なリクエストありがとうございました!

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