INFINITY WORLDあたしと伊月俊
「俊ちゃーん」
「そらさん」
車を適当に停めて待ち合わせの所へ向かうと既に俊ちゃんの姿はそこにあって、駆け寄ると俊ちゃんは優しく微笑みながら軽く手を挙げる。
「ごめんね、お待たせ」
「オレもさっき来たとこだよ」
まるでカップルのような会話だと自分で思ってちょっと照れた。
俊ちゃんは引退してから日々受験勉強に勤しんでいると聞いていたので、家までチョコを届けに行こうと電話を掛けたら丁度息抜きに外出しているとの事で外で待ち合わせる事になったのだ。
今から向かうのは近くの神社。試験が二週間後に迫っているので、お守りも売ってるからあたしが合格祈願のお守りを買うと言うと、別に気にしなくていいのにと言いつつ嬉しそうに頷く彼。
二人で長い階段を登り上に着くと疎らだが人がいて、絵馬に願いを書いたりお参りしたり、それが受験に関係する事か恋愛成就かは知らないが神頼みしに来ていた。
あたし達も同じ目的だけども、俊ちゃんの力を信じていないわけではないが神のご加護があれば更に運を運んでくれるかもでしょ。
二人で並んでお祈りする。俊ちゃんの努力が実って無事受かりますように。
「何てお願いした?」
「あのねー…って言ったら叶わなくなるかもじゃん。秘密」
俊ちゃんの為に参拝に来たんだから俊ちゃんの事だってわかんないかね。ちょっと鈍感なところもいいけど。
ナチュラルに内容を聞こうとする俊ちゃんにツッコミながら早速お守りを買い、それを持ってまたお祈りしてから俊ちゃんに渡す。二度手間だったけどその方が効力二倍とかあるかも。しつこいって思われる可能性もなくはないが。
「ありがとう、そらさん」
「力入れ過ぎずに頑張ってね。俊ちゃんなら大丈夫だから」
「ああ」
用が済んで神社を後にし、車に向かって歩きながら試験が近いのに浮かれたようにバレンタイン渡してもいいのかと一瞬悩んだが、折角作ったし勉強するには糖分があればいいって言うから渡す事を決意し、俊ちゃんの服の裾を掴んで止める。
「…?そらさん、どうかしたか?」
「俊ちゃん。この忙しい時期に馬鹿かって思うかもしれないけど」
振り返って首を傾げる俊ちゃんに、鞄の中からラッピングされた小箱を出しておずおずと差し出す。
俊ちゃんは切れ長の目を少し見開く。
「これ、今日バレンタインだから」
「…オレに?」
コクンと頷き視線を彷徨わせていると俊ちゃんはそっと受け取って笑った。
「ありがとう。嬉しい」
優しく笑う俊ちゃんに安堵しながら言うべきか言わないべきか迷って、俊ちゃんもイケメンだし告白もされるらしいし先越されて取られちゃうとちょっと嫌だなと思って意を決して口を開く。
「俊ちゃん」
「何だ?」
「あたし、俊ちゃんを他の女の子に渡したくない」
冬合宿の時に言い逃げされた事を言い返すわけではないが同じ心境なので倣ってそう伝える。俊ちゃんは動きが止まってまた目を見張りながらあたしを凝視する。
「俊ちゃんと同じ気持ちかハッキリわかんないけど、あたしは俊ちゃんが好き。男の人として。だから、彼女にして欲しいです」
まるで少女漫画のような台詞がよく自分の口から出たもんだ。カァァァと顔から火が出るくらいに熱くなるのを感じながら、羞恥心に負けないように顔を背けず俊ちゃんを見つめた。
未だ彼は放心状態で聞いているのかいないのかわからない。
「…おーい」
暫く待ってみても全然動かないので一歩近付きブンブンと目の前で手を振ってみると、ハッとしたように動き出して目を瞬かせながらあたしを見つめた。かと思えばボンッと音を立てて赤面した。
「!?」
「えっあ、えっと、その、ほ、本当に?」
目に見えて狼狽する俊ちゃんを新鮮に思いながら何度も頷いて肯定する。俊ちゃんは片手で赤い顔を覆って俯いた。照れてくれてるのはわかるけど、やっぱタイミングミスったな。浮かれてる場合じゃないのにとか思ったかな。
「あの、ごめんね。困らせようと言ったんじゃなくて、あたしの自己満で言いたくて言っちゃって。答えが直ぐに出ないなら全然待「答えなんて決まってる!」
あたしがこの場の空気をどうにか変えようと必死に喋っていると、あたしの両肩を掴んで勢いよく言う。衝撃で一緒に掴んだ小箱が若干凹んだ。
「彼女にしたい!なって欲しい!答えなんてYes以外ない!!」
勢いよく言い切った俊ちゃんに次はあたしが放心状態になる番だった。そして少し落ち着いていた赤みが増す。
「…あたし、俊ちゃんの彼女になってもいいの?」
「当たり前だろ!」
「じゅ、受験で忙しいだろうし集中したい時期なのにこんな事言って怒ってない?」
「怒らない!寧ろ嬉しいし大人なそらさんに近付けるように大学受験頑張らないとって思って励みになる!」
今まで俊ちゃんがこんなにも勢いよく訴えてきた事があるだろうか。いやない。これ反語。でも多分の話。
俊ちゃんはいつも周りから一歩引いて見守り、ダジャレはともかく常に冷静に辺りを見渡して的確な指示を出してそっと支える人ってイメージだ。伝わるかな。そんな彼が大っぴらに主張する場面は見た事ない。だから吃驚してる。
俊ちゃんはハッとしたように前のめりだった姿勢を戻して、あたしの肩から手を離すとゴホンと咳払いをする。
「ごめん、嬉し過ぎてちょっと興奮気味になった」
「う、ううん大丈夫」
俊ちゃんは一呼吸置くとまだ赤みの引かない顔をあたしに向けて真剣な眼差しで口を開いた。
「合宿の時にも言ったけどドッキリの時は勢いでああ言って自覚なんてあんまりなかった。落ち着いてからそらさんに対する気持ちが何なのかって考えて、前は言わなかったけどそれが好きだって意味って事を自覚した上で、困らせるような事言って逃げたけど」
あ、言い逃げって自覚あったんだ。空気を崩すと思いそれは口に出さないで耐えた。
「…オレもそらさんが好きだよ。赤司とか紫原に負けないくらい、好きだ。あいつらみたいに何でも出来たり特に得意っていうズバ抜けた才能もないけど」
鷲の目があるのに、ズバ抜けた才能もないって言う謙虚な言い方をする俊ちゃんを見つめた。
「そらさんに傍で笑っていて欲しい。守れるかわからないけど、そらさんを支えていきたい。だから、…これから宜しくお願いします」
そう言って真っ直ぐ見つめる俊ちゃんにあたしは頷き返し、その細身の体に飛び込んで抱き着く。
吃驚しながらもしっかり受け止めてくれた俊ちゃんは、恥ずかしそうに笑いながらも優しく抱き締めてくれた。
「図々しく頑張ってよかった」
「図々しくなんてないよ」
「ありがとう俊ちゃん」
「オレの方こそ好きになってくれてありがとう」
俊ちゃんは静かに唇をあたしの額に寄せると遠慮がちにその薄い唇を押し付けた。擽ったくて思わず笑うと俊ちゃんも嬉しそうに目を細めた。
【伊月side】
あの時言い逃げをしてしまったが、答えを出そうとしているそらさんの雰囲気を感じ取ってしまったから中途半端にアピールするだけで止めた。でも受験が終わって無事に志望大学に合格したら、ちゃんとそらさんに告白しようって決めたのが冬合宿の後。
そこから益々真剣に勉強に打ち込むようになって一ヶ月。それまでも部活と併用して学習に勤しんでいた事もあり、特に切羽詰まる事なく模擬テストなど着実に熟していた。
そんな今日は家族からバレンタインのチョコをもらい、母親からはずっと部屋に篭りっぱなしで勉強しているから少し外の空気を吸ってくるように言われお金も渡されて出たら、嬉しい事にそらさんから連絡があった。
成り行きで一緒にお参りをしてお守りまでもらい、もっとやる気が起きてきたと思っていたらチョコに加えてそらさんからの告白。
望んでいた事だが急な事に上手く頭が働かなくて、もしかしてオレ今日死ぬ?って思ってたらそらさんが空気を読んで逃げ腰になってしまっていて、此処で気持ちを伝えないとそらさんを待たせる事になるしもしかするとオレが答えを出さないその隙を突いて誰かに奪われるかもと一気に思考が巡り、気付けばまた勢いに任せて色々言ってしまった。
ダジャレで引かれる事はよくあるので既に慣れてきたが、勢いで引かれる事がそうないのでそらさんに嫌われたかと思ったが、それでもしっかりオレの話を聞いてくれたそらさんの受け止めようとする姿勢が嬉しかった。
受験後なんて言ってる暇ない。今気持ちを伝えないと、と溢れる気持ちを上手く言葉で伝えられないが思うままに伝えれば破顔して飛び込んできた。
受け止めるとストーカーを撃退する力があっても下品な事を言う口だとしても女性で、男より細く柔らかくいい香りがした。…ちょっと変態臭いな。
自分を卑下するような物言いを否定しながら、気持ちを伝えてくれた事とオレを選んでくれた事で胸がいっぱいになりそっと額へ唇を落とすと、少し照れ臭そうな顔をしながらも幸せそうに笑うそらさんのこの笑顔を一生守っていけたらいいなと思った。
Syun Iduki END.
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