INFINITY WORLD
あたしと日常

 目を開けるとそこは最近やっと見慣れてきた天井。暫くぐずぐずとベッドでだらけながら室内の冷えた空気に身を震わせた。
 数分してやっとベッドから起き上がり携帯をつけて見ると目覚ましが鳴る数分前。耳障りなそれが鳴る前にタイマーを切ってベッドから降りた。

 カーテンを開けると差し込む朝日。寒いので窓を開ける気になれないが、今日も晴れかと思いながらぐっと伸びをした。

 今日も一日が始まる。

「ふあ〜ぁ…ねむ…」

 おはようございます。お調子者のそらです。黒バスの世界に来てから日は経ち、今は四月。進級進学就職の季節ですね。

 盛大に欠伸をしながらリビングのテレビをつける。朝ちゃんと起きた時には毎回見ているニュースが流れていて、今は速報が流れている。ぼんやりそれを聞きながら洗面台に行き、洗顔や歯磨きを終えてさっぱりする。

「バイト…朝から…」

 この世界に来て早速雇ってもらった喫茶店。マンション入居や生活物品などの購入でお金が底尽きたらと心配して早急に雇ってもらったのだが、ちゃんと吟味して選ばなかったものの職場の人はみんないい人で今までの間ずっと続けられてきた。バイト代も普通だし。
 だが今後も一人暮らしを続けていくとなるとやはり何処かにアルバイトではなく正式に正社員とかで雇ってもらわないと余裕はあっという間になくなる。それが最近の悩み事。

 でも保育士の免許はこっちではないし、保育士として働くには大学、せめて短大には行きたいところ。だが、お金もないしまた通うとなると学生生活エンジョイ出来て楽しいだろうけど勉強が面倒臭い。
 そこで考えたのがミーキャン。前の世界であったアレと似てるよね。それで夏にある試験に合格すれば晴れて保育士資格が取れるそうなので、いいなと思っている。
 でも他の職種にも手を出してみたいな〜なんて考える時もあるので、絶賛悩み中なのです。

「朝はパン〜パンパパ〜ン」

 トーストを焼きながら椅子に座ってボーッと考える。車も欲しいなーって。
 実はあたくし、車の免許は取得したんです。えへ。

 二週間泊まり込みでハイスピードで取ってやったぜ。保育士資格もそうだけど、前の世界で免許持っててブインブイン走ってたし。
 そういやおばあちゃん家に置いてきた車どうなったかな…もしかしておばあちゃん乗ってたりして。「いい車だね〜」って新車見せに行った時めっちゃ見てたし。いや、愛用してくれてるなら車も喜ぶからいいんだけどね。

 話が逸れちゃった。なんの話だっけ。
 ああ、免許取ったって話だ。車は持ってないから免許の意味ないんだよね。ペーパードライバーになっちゃうよ。だから車も欲しいなーって思う。車持てたらみんなを色んな所に連れて行けるよね。
 あ、でも軽自動車じゃでかいみんな入らないわ。わざわざワゴン的なの買いたいと思わないし買うとするなら軽自動車がいいから…うん。でかい子らは知らね。さっちゃんとかリコぴんだけでいいわ。これ言ったら怒られるかな。
 でかい車も運転出来るんだけどね、でもみんな乗ると絶対重いじゃん。だったら公共機関使おうぜってなるわ。どうしても車乗せろってんなら自転車、寧ろキックボードを自分で漕がせる。

「ブフッ!」

 みんながキックボード走らせて道走ってるの想像して吹いた。珍光景過ぎでしょ、珍百景に載るわ。

 また話逸れた。…いや、逸れてないわ終わったわ。あ、パン焼けた。

 もしゃもしゃとマーガリンを塗った食パンを貪る。今日の夜ご飯どうしようかな、と朝ご飯を食べながら考える。
 そうだ、みんなの話をしよう。実はこの家に毎週一回は誰かしら遊びに来るんだよね、学校後であったり部活後であったり。そしてご飯を食べていく子も多い。食費は払ってくれている。出来た子達だ。

 このマンションの位置は都心で人通りの多い場所に建てられている。知っての通り、セキュリティは万全で格安なのに真ん中くらいの階という素晴らしさ。本当にありがとう赤君。
 で、誠凛秀徳桐皇正邦霧崎なんかは同じ都内で、各校の真ん中辺りに位置するらしく近くも遠くもないのだがみんなよく来てくれる。何でもまたあたしがいなくならないか心配らしい。毎日誰かしらから携帯に連絡入るんだけど、年下に過保護にされるってどうよ。

 来てくれるのは嬉しいしみんなでいる方が楽しいからいいんだけどね。ただご飯が必要な時は事前に連絡を忘れずにして欲しい。
 話戻すけど、今日の夜ご飯は誰からも来るって連絡はないからいらないんだろうなと予測、一人分のご飯を考えないとという結論に達した。

「今日は…あ、入学式じゃん」

 食パンを三枚程たんまり食べ終えて、食器を洗い終わった後自室へ向かおうとしたところでカレンダーが目に入った。そこにはさっちゃん達に自由勝手に書き込まれたみんなの予定。
 今日の所に新学期やら入学式やら書かれている。

 キセキの世代達一年は二年に、二年は三年に、三年は進学か就職に。今日がその日。
 元三年の進路だけど、みんな都内なんだって。

 実は頭いいスーさんと翔ちゃんは東大的な大学。ゆっきーは勉強苦手な部分もあったらしくて苦闘してたけど、何とか志望校に受かりコボちゃんと一緒の大学。福君と岩ちゃんはその大学よりぶっちゃけ賢い大学。ツボちゃんと村ちゃんが一緒の大学。岡さんとちーちゃんが一緒の大学だが、岡さんはそれを知らない。清ちゃんとスガが頭いい同じ大学。そして唯一郊外の大学に行った森りん。

 知り合いで誰も就職がいないってどゆこと。仕事での苦労話とか出来ないじゃん。あ、でもみんながバイトすれば…いや、バスケあるしな。
 バスケ続けるって聞いたからバイトは難しいんだろうね。絶対しないわけはないだろうけど。あ、みんながバスケしてる所観たいな。何だかんだ毎日慌ただしくて観た事ないわ。

 そこまでコロコロ思考が変わりながら悶々と一人で考え、壁に掛けてある時計を見て時間が経っている事に気付き自室に着替えに行く。一人だと色々妄想とか回想とか捗りますな。

 まあ、みんなの感じはそんな感じ。今度お祝いに何か作ってあげようかな。クッキーとか。
 安心して下さい、わかってるだろうけど人並みに出来ます。ダークマターみたいな物生み出したりしませんので。逆にリコぴんとさっちゃんの料理の下手さは神がかってるよね。

「…ん?」

 ベッドに置きっぱなしだった携帯、この世界にも出来たらしいスマホを手に取る。SNSアプリのLINKに通知。似てるけどL◯NEじゃないよ。開いてみるとさっちゃんからだった。

[おはよーです!今日のバイト17時上がりでしたよね?今日は部活も早く終わるのでみんなで遊びませんか?バイト先に迎えに行きますね!]

 あれ、あたし手帳にしか予定書いてないんだけど…相変わらずさっちゃんの情報網には驚かされるばかりだ。ハッキングとか犯罪には手を出さないでね、さっちゃん。
 そして疑問文なのに拒否権はない感じに見える文面なんですが…恐るべし。拒否しないんだけどね。

 最後に付いている可愛い兎のスタンプに癒されつつ、了解の返事とコマネチからの敬礼をするスタンプを送っておいた。
 そこから自分達のスタンプ自慢に発展したのは言うまでもない。LINKあるある。










「こんにちはー!」

「…いらっしゃいませー」

 バイト中に来るなと何度言えばわかるんだこいつら。わらわら入ってくる見慣れたメンバーに口元が引き攣った。
 現在バイト中。まだ16時で、上がりまで残り一時間。確かに迎えに来るとは言っていたが、わざわざあたしが働く様子を見に来る必要はないと思う。迎えなら17時過ぎに着くように来てくれればいいんだけど。まあ、外は寒いので出てけなんて言わないけど。

 働き始めてから結構みんな来る。お茶して帰ったり今日みたいに迎えに来たりするだけなんだけど、働くあたしを見ているのは視線を感じるので理解している。恥ずかしいから見ないで欲しい。でもニヤニヤしてる奴とか超ムカつく。特に峰さんとか霧崎の連中とか。

 今日来たのはさっちゃん、峰さん、テッちゃん、かがみん、真ちゃん、タカ君の六人。その六人を適当に座らせ注文を聞いてカウンターに引き返す。

「常連さん来たね〜」

「あはは…毎度お騒がせしてすみません」

「いいじゃないか、賑やかで」

 雇ってもらっている此処はレトロシックな雰囲気の喫茶店。今話しているのは店長のダンディなおじ様風の斎藤さん。通称マスター。大人な雰囲気漂う彼だが、意外とお茶目な性格である。
 若い学生より大人の方が利用者に多いが、彼らもいつの間にか常連と化している。峰さんとかこの雰囲気に似合わないけどメニュー全品美味しいからと言って気に入っている様子。

 たまに煩くなるのに若い子が増えて店内が明るくなったとか、自分も若くなった気がするとかで嫌な顔一つしない斎藤さんは大人だと思う。
 そして周りのお客さんも同じように受け入れているから、あたしとしては少し複雑だ。こいつら馴染んでやがる、と。周りから固めてくタイプか。

「そらちゃんは人気者だね」

「は、はぁ…」

「そらちゃんが大好きだから来るんだろうよ」

「みんなからかってるだけですよ。でもあの子ら、此処が気に入ってるって前に話してましたから此処が好きで来てるんだと思います。あたし休みの時にも来る子いますよね?」

「ああ、そうだね。…嬉しいねぇ」

 ドリンクを作りながら目尻を下げるマスター。あたしも自然と頬が緩みながらドリンク作りを手伝う。

「お待たせしました」

「おう。今日も顔引き攣ってるぜ」

「お下げしますね」

「ちょ、冗談だって!」

 各々にドリンクを差し出しテーブルへと置くと峰さんから揶揄が飛んでくる。それを軽くあしらいながら、ふと視線に気付き横を見ると真ちゃんがあたしを見つめていた。

「…真ちゃん、何?」

「お汁粉はメニューに入ったか?」

「入ってねえ寧ろ入れねえって何度言えばわかるのだよ」

「そらちゃんお口が悪いよ」

「すみません」

 毎回来る度にお汁粉をメニューに加えろと催促してくるので、そろそろこのやり取りに飽きてきたわ。苦笑しながらマスターに背後で注意されお口をミッフィーにする。

 翌日、メニューに冬季春季限定でお汁粉が追加されているのを見てずっこけ同時に申し訳なくなったのは別の話。

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