INFINITY WORLDあたしと赤司征十郎
【赤司side】
休日の部活後。今の時期は日が暮れるのが早く、まだ17時前だというのにすっかり暗くなってしまっていた。今日はここ数日ハードな練習が続いていたので早めに帰るよう監督からの指示で居残り練習をする者はいない。
オレは主将の為今日の振り返りや今後の練習の事などを監督と相談し、他の部員達より帰りが遅くなる事はいつもの事だった。今日も帰りが遅くなり部室の鍵を閉めたところでいつもの荷物の他に手元にある袋を見下ろす。
今日は休日だというのに、ご丁寧にバレンタインデーの為と言ってチョコを渡しに来てくれる子が複数いた。休憩の合間に告白もされたが、気持ちは嬉しいが当然断った。オレには既に意中の人がいると。
と言っても、その人は東京にいるしバレンタインデーの今日も会えないのだが、と自分もバレンタインデーに感化されている事に気付き苦笑を零す。
鍵を事務員に渡し人がいない校庭を歩き正門へと向かう。
「あ!あーかーくーん!」
「…!?え、…そらさん?」
正門の外灯の下でブンブンと大きく手を振る影。その人に特定の人にしか呼ばれないあだ名を呼ばれ目を見開く。辺りは暗いが少し近付けば外灯に照らされた見慣れた人が目に入り、その人は先程考えていたそらさんだった。
少し駆け足で近寄ると鼻が寒さで赤く染まっているが気にせずニコニコと笑う。
「やっはろー」
「こんばんは、そらさん…どうして此処に?」
「見て見てマイカー!赤君にもお披露目!」
ジャーンと効果音を付けながら指し示す方を見ればそらさんが好きそうなデザインの車。LINKで新車を購入した旨を聞いていたが、これがその新車のようだ。そらさんは相変わらず嬉しそうに笑っており、自然と頬が緩む。
「わざわざその為に?」
「え?あっいや…えっと、違うよ。車はついで!」
車をお披露目する為ではないと言うそらさんは視線を彷徨わせた後、少しだけマフラーに顔を埋めて否定する。寒さで赤らむ頬に、更に赤みが増した。
今日はバレンタインデー。その事が頭を掠め、目の前のそらさんの反応を見ると変に期待してしまう。少しだけ胸の鼓動が速くなるのを感じていれば、そらさんは顔を上げてオレの腕を引く。
「乗って!送ってく!」
そう言われるままにお言葉に甘えて助手席へ乗り込んだ。暖房が効いていて暖かい。
そらさんはシートベルトを締めながらオレの手に持つ袋を一瞥する。
「…もしかして、それチョコ?」
「え?あ、はい。今日もらいました」
「ふーん。そっか、よかったね」
少しだけ唇を尖らせたが直ぐに笑ってよかったと言う彼女を見て、ヤキモチのように見えてしまいまた少し期待が高まった。一つひとつの反応がオレを翻弄しているようで、それでも不快には思わなかった。
「こっちだったよね」
「はい。そこを右です」
「はーい」
運転するそらさんを見るのは初めてで新鮮だったが、案外無茶な運転ではなく安定した運転で乗り心地はよかった。こんな事を言えば怒られるかもしれないな。もしくは拗ねる。
「…何笑ってんの?」
「いえ、何でも」
自然と笑ってしまっていたようで信号が赤の為停まったそらさんはオレを見て眉を寄せた。それ以上深く追求はしてこないが、表情を見るからにオレの考えは察しているのかもしれない。
「今日はバレンタインでしょ。だからこの車で配達したの、みんなの所に。言っても東京の子達だけね」
「そうなんですか」
「あっちゃんとかきー君とかは郵送。LINKで欲しいって催促されたからね」
「それでも紫原は喜んでくれると思います」
「お菓子好きだもんねー」
直接欲しかったーと言って拗ねるだろうが。
「何故わざわざ京都まで?それも大変だったのでは?」
「こっちには用事があったからね」
「用事ですか。結構時間掛かりますよね」
「片道6時間だね」
淡々とした様子で用事と言われオレへの用事ではないのだろうかと思い少し残念な気持ちが占める。
京都に来るまでの時間を聞いてオレは目を見張った。
「…お疲れじゃないですか。普通時間が掛かる場合は誰かと交代で運転するものではないんですか?」
「まあね。でもあたし運転好きだし、小刻みに休憩して来たから大丈夫。明日休みだし」
そらさんは心配するオレを安心させるようにはにかんで笑う。オレも苦笑を返しながらも、明日が休みなら一度家でしっかり休憩を取ってもらおうかと考えた。用事があると言ったが休息は必要だから。
話をしている内に自宅へと着き、庭の駐車場へ車を停めてもらい中へ入るよう促すと申し訳なさそうにしながらも応じてくれた。
「あらあら!そらさん、お久しぶりです」
「使用人さん、こんばんは!お久しぶりですー」
以前来た時に会った使用人と挨拶するそらさん。二人共嬉しそうにしており微笑ましく見守っていると使用人がオレの前に来て帰る事を告げた。確か今日は私用で早めに上がると言っていたな。
そこで使用人は帰りこの家に二人になった。オレは着替えの為自室へ行き、身支度を整えリビングへ向かうとそらさんが使用人が作っていった夕食の盛り付けをしてくれていた。
その光景を見て、以前に来た時の事を思い出し遠い記憶でもないが懐かしく感じる。
「すみません、ありがとうございます」
「ううん、こっちこそ上げてくれてありがとね。何か手伝う事あるかなーって思ってたらいい匂いしたから勝手にやっちゃった。ごめんね」
「いえ。一緒に食べませんか?」
「あー、あたしはいいよ」
「一人では食べ切れませんから」
押し気味にそう言うとそれならと照れ臭そうに笑って頷いたそらさん。匂いに釣られたなら空腹のはずだし、量があってよかった。
二人で夕食を食べながら実渕達三年の状況を話したり最近の話をしたり会話をし、夕食を終えると片付けはそらさんがしてくれた。オレは食器を拭く役を担った。
「すみません、疲れているのに」
「いいんだよー。疲れてるのは赤君もだし」
「ありがとうございます。…時間は大丈夫ですか?」
時間を見ると結構時間が経っている事に気付いて、用事があると言っていたのを思い出し時間は大丈夫か声を掛ける。するとそらさんは顔を上げて時間を確認した後、少し動きがぎこちなくなり視線を彷徨わせてから荷物を置いている方へ向かう。
その行動を見守っているとそらさんは小箱を持ってオレの前に立ちずいっと差し出した。
「用事はその、赤君に用事。ば、バレンタインデー…受け取ってくれる?」
「…勿論。ありがとうございます」
多少しどろもどろしながらもオレを見つめて差し出すそれを受け取り、お礼を伝えるがそらさんは少し落ち着きなく視線を宙に向けた後、ぐっと唇を噛み締めてから顔を上げた。
「他のみんなにあげたのと、違うやつだから」
「え?」
「それは、その…本命だから」
そう言うと耳まで真っ赤にして俯いてしまった。本命という言葉に、今日そらさんに会ってから様子を見ていて何となく察していた事だが、それでも面と向かって言われた言葉が嬉しく恥ずかしくて、擽ったかった。
「本命…というのは?」
精一杯なのは見てわかるが、直接そらさんの口から聞きたくて少し意地悪をしてしまう。そらさんは顔を上げて少し恨めしそうな顔をした。恐らくオレの緩んだ表情を見て意図を察したからだろう。
ぐぬぬ、と言い淀んだ後そらさんは拳を握り締め唇を噛み締めてからハッキリと言った。
「赤君が、赤司征十郎君が好きです!!」
部屋に響くくらいの大声で言われ、流石にオレも目を見張る。そんな大声を出されるとは思わなかった。
「っ、あ、赤君はいつでもイケメンで何でも出来てあたしなんかがって自分でも思うけど…あたしにしか見せない寂しさとか弱さとかそんなの見てたらもっと頼って欲しいって思うし、あたしも赤君の優しさに甘えたいって思うし。だ、から、赤君がまだあたしの事を好きでいてくれるなら、その、つつつつつ付き合って下さいませんか!!」
その場のテンションで可愛いだの天使だの言っている事はよく聞くが、こういった告白はそらさんの性格上恥ずかしくて自分からは出来ないはず。それでも頑張って自分の気持ちを伝えようとして、オレの気持ちに応えてくれようとしているそらさんが凄く可愛く、そして単純に愛おしいと感じた。
オレはチョコを片手にそらさんとの距離を詰めると、オレより低く細い体を優しく抱き寄せた。肩口に顔を埋め、そらさんの温かさと香りを間近で感じ鼓動が速くなる。
「…ありがとうございます。嬉しいです。…凄く」
「う、ん」
「好きです。そらさん。誰よりもあなたが好きです」
ガラにもなく緊張で声が些か震え思うように声が出ず掠れてしまった。それでもそらさんは腕の中で何度も頷き、そっと背中に手を回してきた。
「これからは、恋人として宜しくお願いします」
「は、はいぃぃぃ」
震える声で返事をしたそらさんに小さく笑うと少し体を離す。そらさんは泣いていて顔を見られたくないのか、俯いてしまった。右手に持つ箱を近くのカウンターへ置き、そっと流れる涙を拭った後頬に手を添えて上げさせる。
ぎゅ、と目を閉じて泣くのを我慢するそらさんの瞼に一つキスを落とす。
「まだ一年、オレは京都にいます」
「うん」
「でも来年は都内の大学を受けます。一年中々会えませんが、待っていてくれますか?」
「あ、当たり前ッス…」
粗く涙を拭おうとする手を止めて代わりに拭ってやる。
「大学に入って四年を経て何処かに就職して、落ち着いたらになってしまいますが…」
そう言葉を区切ると続きを促すかのように視線が上げられオレの目と合う。
「その時は、結婚してくれますか?プロポーズはまたその時にきちんとします。一生そらさんと一緒にいたいんです。駄目ですか?」
そらさんはそれを聞いた瞬間にボロボロと涙を溢して泣いた。
「う、まだまだ先の話じゃんかー」
「はい。すみません、気持ちが急いて」
「ふぐぅ…っ、あたしなんかを娶ってくれるなら喜んでっ」
そう言って顔を隠すように抱き着いたそらさんの頭を撫でて抱き締めた。この瞬間から随分と泣き虫になってしまったようだ。
それでも、オレの前にだけで見せる姿なら、これからもオレだけが見られる姿だと思うと充足感を感じた。
「そらさん」
「はいぃぃ…」
「愛しています」
「ううっ…キザ過ぎる」
「すみません。心に正直なもので」
「…でもあたしも」
体を離し額へ口付けながら溢れる想いを素直に伝えると、林檎のように真っ赤になって照れていた。可愛らしい姿に思わず笑っていると、そらさんは涙で濡れた顔を上げて自然と笑った。
「愛してます」
目も鼻も赤くさせている腕の中にいる彼女に、やっと手に入れた嬉しさと胸が締め付けられるような苦しく甘い感情が溢れ、抑えきれず僅かに強引になってしまったが今までに何度か合意を得ず重ねてきた柔らかい唇を奪うように己のそれを重ねた。
嬉し涙の甘い涙の味がして、何度も何度も角度を変え啄むキスを送り、柔らかな唇を堪能する。今まで耐えてきたタガが少し外れ掛かっているのか貪るように夢中になっていたが、背に回されたそらさんの手に力が入るのを感じ動きを止めて唇を離し間近にいる彼女を見つめると、息を耐えていたのか少し息が上がったそらさんが顔を真っ赤にしたまま涙目で震えていた。
「そらさん…すみません」
「赤君…」
「はい」
「こ、腰抜けた…」
少しの間が空いて、ん?と疑問符を浮かべると、どうやらオレの勢いに負けて本当に腰が抜けた様子。抱き締めている力を弱めれば直ぐにストンと腰を落として座り込んでしまうだろう。オレにしがみつくように力が入っている。
目を瞬かせているとそらさんは恥ずかしそうに俯いた。
「ご、ゴメンナサイ。あの、その、赤君のチュー…ヤバい」
そう言われ小さく吹き出してしまうと、そらさんは少しのムッとした顔をした。俯いているが雰囲気で伝わる。
「まだディープキスはしてな「わーわーわー!!」
わざと煽るように言えば大声で掻き消されてしまった。これで腰が抜けるようでは先が思いやられるな。
そらさんを横抱きにして抱き上げれば吃驚する彼女を無視してリビングのソファーへ連れて行き座らせる。その隣に座ると時計を確認してから微笑んだ。
「明日が休みなら、今晩はそらさんを堪能してもいいという事ですね」
「え」
「大丈夫です、段階は踏みます。今日は…」
目を丸くさせるそらさんの後頭部に手を回し引き寄せ、鼻先が触れ合う程まで近付けば左手の人差し指を唇に添えて口を開く。
「此処だけでも、沢山キスさせて下さい」
返事を聞く前に再度唇を塞いでやり、戸惑う彼女の唇の隙間を割って深く深く口付けた。
【そらside】
自分の想いを伝えると赤君は嬉しそうに笑って受け止めてくれた。あたしの見間違いでなければ、赤君の顔が若干赤くなっていたから照れていたのかもしれない。
変わらずこんなどうしようもないあたしの事を好きでいてくれる事が嬉しくて安心して、今まで待たせてしまった事を申し訳なく思いながら迫るキスを受け入れた。
が、その甘いとろけるようなキス(自分で言っていて恥ずかしい)の所為で腰が抜けてしまった。赤君、恐るべし。本人笑ってるけど冗談抜きで赤君のキスはヤバい。今までとは比にならない。想いが通じあったから、充足感からそんな風に感じてしまったのかはわからないが、とにかくヤバい。
その後の深いキスもヤバい。この人キスでイカせる実力あるんじゃね?ってくらい。下ネタでごめんなさい。当然嫌な気持ちはなくあたしも普通に応えてしまったのだけれども。
キスでどれだけ我慢してくれてたのがわかり、普段しっかりしている赤君と言えど思春期の男の子なんだなと思いました。
告白されて告白して、気持ちが通じ合った時に今まで感じた事のないくらい喜びを感じて、決断してよかったなと心から思った。
お待たせしました赤君。これからも末長く宜しくお願いします。
Seijuro Akashi END.
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