INFINITY WORLD
あたしと紫原敦

【紫原side】

 秋田の冬は本当に寒い。雪がオレより上まで積もってるのを見てドン引きしたのが懐かしい。勿論今でもドン引き。

 いっぱいの防寒具に身を包んでいても寒さはなくならず、早くあったかい部屋に入りたいと思いながら部活後の疲れた体を動かして足早に歩く。あんまり急ぐと滑るけど。
 部活は室ちん達が引退したから前の面子での帰宅はなくなった。別に寂しくねーし。でもいつも静かだから暇だなって思う時は増えた。

「かまくらでーきたっ!!」

「「わーい!!」」

 不意に寮までの帰り道で聞き覚えのある声が聞こえて、え?と思いながらそっちを向くとオレも入れそうなくらい大きなかまくらの前に女と複数の子どもがいて万歳をしていた。その女を見てオレは目を見開いた。

「そらちん!?」

「あっ!あっちゃーん!おっつー」

「何で此処にいんの!?」

「んっとね、用事!」

 そう言って鼻を真っ赤にさせたそらちんは笑った。夢じゃないよね?
 周りの子どもは近所のガキ共で、冬になったらよくみんなでかまくらを作っている見知った奴らだ。

「みんな手伝ってくれてありがとー!気を付けて帰るんだよー」

「「はぁーい!」」

 そう言って子ども達と別れたそらちんはオレと向き合うとはにかんで笑いながらかまくらの中に促した。
 さっきまでは早く帰りたい気持ちが大きかったけど、そらちんに会えたなら別。あったかい部屋に招き入れたいけどかまくらのあったかさも知っているので言われるままに中に入った。寒いもんは寒いけど。

「何でかまくら作ったのー?」

「何かやってみたかった」

「手めっちゃ冷たいじゃん」

「ひえっひえだね」

 手袋をしていたようだけど雪で濡れちゃってるし、冷え切って赤くなっているそらちんの手を引いてオレの手袋を嵌める。そらちんは目を丸くさせた後嬉しそうに笑った。可愛い。

「ありがとあっちゃん」

「いーえー。で、用事って何〜?」

「ああ!あっちゃんに用事〜」

 そらちんは思い出したように鞄を置いていた方へ体を向けると可愛い袋に入った物を手渡してくる。

「?何これ」

「バレンタイン!」

「わー!その為にわざわざ持ってきてくれたのー?」

「うん!」

「嬉しー。あんがとねー」

 そう言えば今日の部活中に雪なのに持ってきてくれた子もいたなー。いっぱいお菓子くれて嬉しかったけど、そらちんにもらえる方が何百倍も嬉しい。
 へにゃりとだらしなく笑うとそらちんはよしよしと頭を撫でてくれた。あー、好きだなー。

 でもいい加減此処では寒いから寮に来てもらおうとかまくらから出て、二人で手を繋いで歩く。さり気なく手を繋いだら握り返してくれて嬉しかった。手袋はそらちんが着けたままだけど、握った手をオレのポケットに突っ込んでるからあったかい。
 久しぶりに退屈しないで帰れているとそらちんが口を開いた。

「あっちゃん」

「なーに?」

「あたしがチョコあげる為だけにわざわざこんな雪の中を来ると思う?」

 その言葉に足は止まって目を丸くさせてそらちんを見下ろすと、多分寒さ以外で顔を赤くさせたそらちんがオレを見上げていた。それってもしかして。

「あっちゃん、待たせてごめんね」

「え…」

「あたしあっちゃんが好き。あたしを好きになってくれてありがと。電話じゃ伝えきれない事とかあるかと思って会いに来ちゃった」

 ずっと望んでいた言葉だけど、この雪の中で寒さのあまりに幻覚でも見てるんじゃないかと思ってほっぺを抓った。寒さで感覚なくて痛いかわからない。

「何してんの?」

「…夢かと思って」

「あはは!夢じゃないよ!」

 まさかと言って笑ったそらちんはオレの手をぎゅっと握った。

「信じられないなら、あったかい所に行ってからもう一回言うよ」

 そらちんがそう言うから、オレは早く現実か確かめたくて少し足早に歩き出し寮に向かった。でも二人で早歩きしたから一緒に滑ってすっ転んで雪まみれになって笑った。










「はーい、ココア〜」

「ありがと〜」

 寮のオレの部屋に招き入れてあったかいミルクココアを入れてあげると嬉しそうに笑うそらちん。オレも隣に座って自分のココアを飲んだ。
 ちなみに男子寮は基本異性禁制。女子寮も然り。しかも外部から入ったとなれば大騒ぎだ。見付からないといいな〜。
 部屋は二人一部屋だけど、同室の奴は彼女の部屋にお泊りだとか言ってたから今日は帰ってこないはず。帰ってきても鍵掛けてるから部屋に入れてやんねーし。

「意外と片付いてるね」

「オレ別に汚くしないしー。峰ちんじゃあるまいし」

「峰さんは間違いなく部屋汚いよね」

 二人でそんな話をして笑う。今頃くしゃみしてたりして。

「…ねえそらちん」

「ん?」

「もう痛いみたいだから、もう一回言って?」

「夢かそうでないか確かめるのって痛いの基準?」

 ふに、と自分のほっぺを摘んで痛覚の確認をしてから夢のような発言をもう一度とお願いすると、そらちんは行動を見て笑ってから深呼吸をしてオレと向かい合った。

「う゛うんっ」

 正座しながら咳払いをしたそらちんにフッと笑っているとそらちんも笑ってから緊張したように顔を赤くして口を開いた。

「あたしね、あっちゃんの事、」

 そう言い掛けたのを聞いてその口をオレの口で塞いだ。そらちんとのキス三回目ー。

「ん!?ちょ、っ」

 吃驚して瞠目しながらも身を引いて制止の声を出そうもののオレは追い掛けるように身を寄せて再度空いた隙間を埋める。そらちんは顔を赤くして腕で体を支えていたが後ろにそのまま倒れ、床に押し倒すようにオレが覆い被さった。何かこの体勢エロい。

「んっ…ま、って!待って待って!ちょっと!もう一回言ってって言ったのあっちゃん!」

 唇を舐めたり歯列をなぞったりして弄んでいると、ググッと体を押し返してくるそらちんに仕方なく素直に従い体を離す。そらちんは少し怒ったように催促したのは自分なのに何してるんだと注意する。

「だって全部言わなくてもわかっちゃったからー」

「そりゃそうでしょうね!一回言いましたから!!」

 相変わらずいいツッコミだね〜って拍手すると割と本気で青筋浮かべてたからやめた。
 そらちんは溜め息を吐いてから覆い被さったままのオレを見上げて苦笑する。

「もうこのままでいいから聞いて」

「うん」

「あっちゃんが好きだよ。前もそうだけどこうやって強引なところはちょっと直して欲しいっていうか、まずしてもいいか聞いて欲しいけど。甘えん坊なところもお菓子大好きなところも素直じゃないところも、全部好き。これからはあたしにだけ甘えてくれたり、あたしもたまには甘えたりしたい。あっちゃんの傍で笑っていたいです」

 最初は相手にされてなかったけど、少し意識をし出して、本気で告白してからもどんどん意識してくれて、やっと願いが叶った。もうこれでそらちんはオレの彼女なんだ。嬉しくて少しだけ、うるっとした事にそらちんは気付いてるかな。

「そらちん」

「はいな」

「オレも好き。大好き。甘い香りするそらちん大好き」

「甘い香りしないけどね」

「するもん」

「こら。何処の匂い嗅いでんだ」

 オレの下で笑うそらちんを抱きすくめて想いをぶつけると、やっぱり前みたいに香りに関しては否定された。だから胸元に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅ぐと頭を叩かれた。痛くないけど。

「そらちんの性格も顔も体も料理も笑顔も全部全部大好き」

「…ありがとう。もう充分だよお腹いっぱいだよ言わなくていいよ、恥ずかしいから」

「言い足りなーい」

 胸元に埋めていた顔を上げてまた顔を近付けると、そらちんの目の奥に顔を赤くした自分の顔が見える。なんか情けないなー。
 そらちんはオレの愛の囁きを聞いて恥ずかしがっている。可愛い。

「…やっと手に入ったねー」

「…うん。お待たせしました」

「本当だよ〜オレすっごい待ったしすっごい我慢したよ〜」

 チュとリップ音を鳴らしておでこにキスを落とす。瞼、鼻、ほっぺと順にキスを落としていくとそらちんは擽ったそうに小さく笑った。
 唇にキスをする手前で重要な事を思い出し、あ、と口を開くとそらちんは首を傾げた。

「今日この後どうするつもりなの?」

「どっかに泊まっていこうと思ってるけど」

 殆ど無計画で来たらしい。行動力あるけど考えなさ過ぎで心配なんだけど。

「じゃあ此処にいればいいよ。そらちんが嫌ならキス以上の事は今は我慢する。けど一晩中傍にいてね」

 そう言うとそらちんはポワッと頬を染めてからぎこちなく頷いた。下ネタ平気でよく言うくせにこういう時は乙女だな〜と思いながら柔らかい唇にそっと唇を重ねた。










【そらside】

 雪が心配で車では流石に来る勇気がなかったので公共交通機関で秋田に突撃訪問した。陽泉のバスケ部の知り合いは既にあっちゃん以外いないので、体育館で練習する様子を確認した後近所の子ども達がかまくらを作っていたのであたしも一緒に手伝って時間を潰した。そして完成時に丁度あっちゃんが来た。しかも子ども達にかまくらもらった。

 そこで告白すると相変わらず天使な行動をするあっちゃんに癒された。あんな狼だったあっちゃんがこんなにも天使。そして妖精。
 でも心底嬉しそうに笑ってくれたので、あたしも嬉しくなった。

 本当は女子禁制らしいけどこっそり招き入れられた部屋。申し訳なく思いつつこのスリルは今までに味わった事のないもので変にドキドキした。見付かったらあっちゃんに迷惑掛かるから絶対バレないようにしないと。

 再度告白すると言い切る前に口を塞がれた。さっきまで天使とか思ってたのにいつの間にか狼に変貌ですかそうですか。変身するタイミング教えてくれませんか。
 ただ意地悪したかっただけみたいだけど、心臓に悪いので考えてやって欲しいと思いました。作文。

 いっぱいの大好きを伝えてくれるあっちゃんがあっちゃんらしいなんて思いながら、その言葉を聞くだけで酷く安心し、これからもいっぱいの愛をくれそうだと確信めいた事を思った。だってあっちゃんの顔、今まで見た事ない優しい顔で見てるとそう思えるんだもん。ちょっと涙目だったし。

 歳なんか気にしないで一番に好きになってくれてありがとう。あっちゃん。










Atsushi Murasakibara END.

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