消させるものか
【黒子side】
「心と口に出た言葉が逆…」
赤面しまるで漫画のように目をハートにしているクローンを見ながら、先程微かに聞こえた覚さんの言葉を聞いて心の声と口から出た言葉が真逆だったのではと、顎に手を添えながら呟く。いつの間にか隣にいた紫原君が「黒ちん何言ってんの?」と不思議そうにする為、覚さんの言ったクローンの本音を伝えれば、あ〜と納得していた。
「っていうかあの子の弱点よく聞いてたね〜」
「はい。人との接点を身近な人以外で今まであまり持った事がないので…と話していました」
「成る程ねー」
春添さん本人曰く、特に異性とは関わりが少なく免疫がないので身体的接触など照れてしまって苦手だと自覚しているとの事。クローンが完全にコピーをしようとしているならば、欠点をなくそうと排除している可能性もあるが、まだ未完成ならばそういう点もコピーされている可能性もあるとの見解だったが、見事に当たったようだ。本人に伝えれば複雑そうな顔をしそうだが。
赤司君はその間にも気を緩める事なく、完全に油断している(虜になっているとも言う)クローンの腕を捻り上げ、俯せに床へと押し倒した。流れるような動きは護身術の一環だろうかと、彼が裕福な家庭で生まれ育っている=習い事は全てしているはずという僕の偏見によりそう思った。
「ぐっ、しまった…!卑怯な…!!」
儂にはメロメロにならなかったのに…
「なるわけないでしょう!ゴツいあなたに!」
逞しい腕が素敵って…
「それも嘘に決まってるでしょう!?そんなのもわからないんですか!?」
赤司君にイチコロだった様子を見てか、相手がクローンであれショックだったようで大天狗が悄然とした声を漏らしているのが小さく聞こえた。辛辣にもクローンはそれも偽りであると開き直ったように言い放ち、益々大天狗が悄然とした。
「大丈夫です。本物の春添さんは筋肉質な方も好みだと言っていました」
「「え???」」
なんと…!それは誠か?
「はい」
「「(いやそれは明らかな嘘だろ…)」」
この世界に来ていつそんな話題が出たよ、と岡村さんと春日さんが僕に疑いの目を向けてくる。まあ嘘なんですけど、嘘も方便と言うじゃないですか。
春添さんが聞いたら吃驚するでしょうけど、合わせてもらえるよう頼めば万事解決。と思われます。怒られそうですけど。
今は大天狗さんの気分を持ち上げないと、戦闘に支障を来すかもしれません。覚さんはわかっているがバラすつもりもないようで鼻で笑って口を閉ざしている。
赤司君はやり取りを一瞥しながらも、腕の力を緩める事なく這い蹲っているクローンを見下ろす。
「春添と頭突きをした時、君は何を見た?」
その問いに対して、クローンが言葉を詰まらせるように口を結んだ。
「春添は閉じ込められている人がいる光景を見た。さっきの大天狗への話から察するに、君は春添の過去を見たんじゃないのか?見てどう思った。彼女の今までの思いを見て丸ごと過去を背負えるか?オレも詳しくは聞いていないが、生半可な奴が背負える内容ではなかったはずだよ」
春添さんの時折見せる悲しげな寂しげな表情が過去を物語っている。妖に対しての恐怖心、視える自分に対しての疑心の目。僕や赤司君も視えるとは言え、春添さん程の霊能力者ではない。僅かな違いで、人生は大きく違っている。
「君がゲームマスターに作られた存在とは言え、春添になりたい強い思いは理解した。だが彼女の今まで背負ってきたものを、全て背負えるのか」
赤司君の冷たい目を見ていたクローンは、ギリッと歯を食いしばりながら見下ろす赤い目を睥睨した。
「…何を偉そうに!あたしは既に本物のあたしを超えた!見たでしょう?あたしにボッコボコにされてボロ雑巾みたいになった、敗北した春添碧の姿を!アイツの過去が背負えるかって?当たり前じゃない!!あたしはアイツより強い!!それは証明された!!」
声を荒げながら噛み付く勢いでそう言ったクローンの目は瞳孔が開き血走っている。クローンは頭に血が上っているが、対する赤司君は冷静を保ったままで静かに見下ろしていた。
お主に本物の春添碧のような覚悟はあるか。
「…はあ?」
すると、今まで黙っていた覚さんが静かに言葉を発した。クローンは怪訝な顔をしながら覚さんの方に視線を向ける。
随分と力の強さに執着しているようだが、儂らが言っておるのは心の強さ。春添碧の全てを知った気でいるようだが、ならば本人の覚悟がどんなものか理解しているはずであろう。そしてその覚悟を自分のモノにし、同じ覚悟でこれから春添碧として生きていけるか。
「何言ってるの?あたしは本物を超えた!本物以上の春添碧になったら、今までみたいな惨めな生活を送るわけないでしょう!この力を駆使して、今まで見下してきた人間や妖を屈する人間になるんだよ!」
それが春添碧がやりたい事だと思うのか。それはお主の身勝手な思考。本物を超えたいなら本物になりきらねばならん。そもそもそうする気もなく、覚悟が理解出来ないようなら、お主に彼女を超える事は出来んよ。全てを引き継げない奴は、一度本物に勝ったくらいで所詮ただの偽りのまま。力が強くとも、心が弱ければ敵う事もあるまい。
「…偉そうに。あたしが完全体になるから焦ってるんでしょう?だからありもしない事をそうやって言えるんですよ」
焦る?誰が、何故?
覚さんの淡々とした雰囲気や話し方を聞いていて、寧ろ焦っているのは誰が見てもクローンの方だ。だが彼女も負けを認めまいとしているのか威勢を崩さずに、しかし苛立ったように声を張り上げた。
「馬鹿ですか!?あなた達全員が!!あたしがアイツになって、アイツが消えるからですよ!!!」
「…誰が消えるって?」
それまで静かに聞いていた赤司君が、低い声で静かにそう尋ねた。クローンは自分をうつ伏せに押さえ付けたままの赤司君を後ろに見上げる。
「ひ、っ」
クローンの声が引き攣った。赤司君は今クローンを見下ろしている為、髪が顔に掛かり僕達からはよく表情が見えない。しかし、赤司君の雰囲気でわかる。
赤司君は怒っている。
「消させるものか」
赤司君は左手でクローンの手を拘束し、振り払えない力で押さえ付けながら右手で武器であるハンドガンを持ち、後頭部にそっと銃口を充てがう。
「オレ達が守るよ。それに、春添は簡単には消えないさ」
僕達にも見えるくらいに少しだけ顔を上げた赤司君は、先程の怒りの雰囲気を一掃し、優しくそれでいて頼もしく笑っていた。
それでもクローンは冷や汗を滝のように流し、怯えた表情で赤司君をじっと見上げている。
「誰よりも繊細だけど、誰よりも強いからね」
「ま、待って、」
クローンは先程とは一転してまるでなけなしの力を振り絞るように声を漏らすが、赤司君は躊躇いなく引き金を引く。廊下に銃声が響き渡り、銃弾はクローンの頭部を貫通し砂煙となって消えていった。
床にはクローンを貫通した銃弾がめり込み、銃痕となって残っているだけだった。
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