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夏酒



 盃に口を付けると、爽やかな芳香が鼻を通り抜けた。よく冷えてスッキリした味わいで飲みやすい。マリアはそれをしっかり堪能してからゆっくりと飲み込んだ。

「エスティニアンたら、いつもこんなの飲んでたんだ。すごく美味しい」

 小さなテーブルの角を挟んで隣り合わせに座る相棒にそう言うと、マリアはまた一口酒を含む。マリアの簪を揺らしながら抜けてゆく風は潮の匂いがした。
 マリアは異国の雰囲気を感じるのが好きだ。そのために冒険をしていると言っても過言ではない。
 過去に何度も訪れたリムサ・ロミンサも海の街だ。しかし風も匂いも色彩も、この街とは何もかもが違う。初めて訪れた際に買ったこの簪も、意匠の違いに随分心を踊らせて衝動買いした。それ以来一番のお気に入りである。
 対して、エスティニアンはもうすっかりこの空気に馴染んだ様子である。髪を一つに結い、服装すらクガネ風に誂えた姿はなかなか洒落ていて、すっかり様になっていた。彼は山育ちであった筈だが、そんな事は関係ないらしい。

「これも食ってみろ、相棒」

 そう言って、エスティニアンはスルメが山ほど積まれた器をマリアに差し出した。

「スルメも酒も、クガネ産に限る」

 勧められるままに、マリアはスルメも口に入れた。干されていてやや硬いが、噛めないことはない。むしろ噛めば噛むほど香ばしくて、これまでマリアが味わった事のない芳醇さが口の中に広がってゆく。うっとりと味を堪能するマリアの表情をツマミに、エスティニアンは自身の盃を傾けた。
 落ち着いた雰囲気の店内からは、クガネの街が一望できる。陽が落ちてからもこの街は相変わらず色鮮やかで美しい。むしろ、街灯が灯ってからの方がその本領を発揮する。その景色を拝みながら上手い酒が飲める店に2人はいた。

「良い店だろう。マリアと来てみたくてな」

 エスティニアンはそう言うと、満足そうに酒を煽る。この味を知ってしまったら、もう安酒は飲めそうにない。
 その昔、親友と飲んだバーチシロップの味しかしない酒も悪くは無かったが、今もあれを同じように飲めるだろうか。エスティニアンは今も皇都で奮闘しているであろう友を思い浮かべた。

「生まれる場所、間違えたかしらね」
「そうかもな」 
「もうシロガネに家を買っちゃおうかな」

 ああおいしい、と言って、マリアは刺身を頬張った。海の幸に舌鼓を打ちながら、マリアは家を買う事を半ば本気で考え始める。
 エスティニアンだって、もう蒼の竜騎士は辞めてしまったのだ。冒険者でなかったとしても、形だけでもそう名乗っておけばその居住区で家を買う資格はあるのではないか。
 もう一枚、とマリアは刺身を摘み上げた。決して箸を使う文化圏の人間ではないが、箸使いはお手のものである。

「上手いもんだな」

 ほう、とエスティニアンは箸を操るマリアの手元を眺める。マリアは危なげなく少量のわさびを取り、それを刺身に乗せてから醤油をつけて、ぱくりと食べた。

「うふふ。伊達に冒険してきてないもん」
「関係あるのか?」
「さあ」

 エスティニアンはスルメを口へ放り込んだ。彼もこの香りがすっかり癖になってしまった。最早虜である。

「イシュガルドにも少し送ってやるか」
「うん。アイメリク、きっと喜ぶよ」

 スルメも酒も、外装が破損さえしなければ日持ちするはずだ。すぐ顔に出る素直な友人は、きっと満面の笑みで受け取ってくれるだろう。

「ついでに、着物も一着入れておいても良いかもね。今、エスティニアンが着てるようなの」

 マリアは手にしていた盃を置いて、エスティニアンの衣服を指差した。彼は白藍の格子柄に、紺の帯を締めた着流し姿だ。そこに下駄を履いている。着物は木綿のカジュアルな品で、暑い時期には丁度良い。

「なかなか出て来られない人でしょう?気分だけでも、クガネに」
「なるほどな」

 アイメリクなら、やはり青い着物が良いだろう。濃紺というよりは、瑠璃色のような鮮やかな青が似合いそうだ。帯は何色が良いだろうか。イシュガルドは寒いから、羽織もあれば良いかもしれない。

「ああ、もういっそのこと、全部持って直接行っちゃおうよ。で、そのまま酒盛りしよう。バーチシロップの味しかしないお酒も気になるしさ」

 マリアがそう言うと、エスティニアンは少し面白くなさそうな顔をした。楽しい計画のはずなのに何故、とマリアは小首を傾げる。

「おい、もうその辺で良いだろう」
「へ?なんで?」
「明日だ、明日」

 エスティニアンはぐいっと酒を飲み干すと、マリアの手を握った。

「他の男の話はそのくらいにしてくれ」

 その手をマリアのノースリーブの腕から頬へ滑らせると、エスティニアンはマリアを見つめる。彼の指は、先の方まで熱かった。

「そう妬かせてくれるなよ、マリア」

 いつのまにか触れそうなほど顔が近くにあった。何となく恥ずかしくて、マリアは思わず下を向く。

「それ言い出したの、エスティニアンだったよね…?」

 マリアはチラ、とやや上の方にあるエスティニアンの目を見上げた。怒っている訳ではないが、不服そうではある。
 その時、暖かい唇がマリアの額に押し付けられた。ほんの一瞬だったはずなのに、いつまでも温もりが残っている気がする。

「選ぶなら、まずはマリアの着物だろう。それに…」

 マリアは顔を上げた。着物は着方が分からないが、興味はある。あの美しい柄に心惹かれない訳がなかった。

「実は、家ならもう買ってある。今夜は泊まっていけよ」

 そう言いながら、エスティニアンはスルメを一本摘んだ。そして、彼はそれをマリアの口に放りこむ。異論は聞きたくない、と言わんばかりである。

2024/11/24
もう寒いけどタイトルは夏酒。季節感どころか年中行事も無視し続けるのは立ち上げ時からの当サイトの仕様でござる。
エスティニアンは無職!それならとりあえず登録だけしてでもおけば冒険者として名乗れるのでは?なんて思ったりして。一時しのぎだとしても彼なら十分いけるはず。なんなら竜のことを論文にして提出したら賢人になれるかも?そんな柄じゃないと本人は言いそうだけどた、ぶん坊ちゃんは喜んで手伝ってくれると思う。




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