捌 夢を見ていた(完)
コスタ・デル・ソルでバカンスを楽しんだ後、わたしたちはミッドガルに戻って来た。
初めてのコスタ・デル・ソル、略してコスタは如何にも南の国だった。ツォンの似合わないアロハシャツも、あそこでなら本領を発揮する。けれど強面が着ると、やっぱり堅気には見えなくなるから不思議だ。
コスタ行きは、ツォンの車でツォンがドライブしながら片道1日ずつかけた大旅行だった。
道中でモンスターを相手にするツォンも、彼が銃を使う所も初めて見た。手慣れた様子で危なげなくモンスターを退治したツォン曰く、普段の仕事の何倍も楽らしい。わたしはもちろんモンスターが怖かったのだが、これが楽ならタークスとは本当に激務なのだろう。
そんなツォンの短い休暇も、残念ながら今日で終わる。何をしようかと協議した結果、無難に八番街でディナーになった。
手を繋いでぶらぶら歩く。それだけなのに何だか楽しいのは、きっと幸せなんだろう。ツォンもこの休暇中、終始楽しそうにしていた。
「あっという間やったな。一週間」
「だからこそ、ありがたみがあるのさ」
ツォンは澄ました顔でそう言った。明日からまた彼の半年連勤が始まる。
何だかんだで、わたしはツォンの黒いスーツ姿が好きだ。スーツを見られるのは悪くないけれど、もう少し休めれば尚良い。
「ほんま企業戦士やな──」
と、軽口を叩きかけた時、急にお腹が痛み始めた。思わず歯を食いしばるほどで、尋常な痛さではない。歩くどころか座り込んでしまったわたしを、ツォンは焦った声で呼んでいる。
「ルイ! きゅ、救急車を呼ぶ! いや運んだ方が早……大丈夫か? 」
もうとにかく痛すぎた。その後どうやって病院へ行ったかなんて、とても把握できなかった。
◇
パチ、と目を開けると、白い壁と白い天井が目に入った。点滴の袋がぶら下がり、薄いピンク色のカーテンに囲まれている。
「夢、か……」
激しい腹痛はもうない。
妙にリアルな夢だった。ツォンも魔法もマテリアもまだ名残惜しい。特にネックレスはすごく気に入っていた。
まだぼんやりする頭では、どこまでが夢だったかが曖昧だ。けれど、腹痛は本物だったらしい。腹の右側下のほうが何だか痛い。
いつからここにいたのかと考えていたら、突然薄いカーテンが開いた。
「ルイ! あんた大丈夫かいな! 倒れたて聞いて飛んで来たわ! 」
「……お母さん! 」
母は開けたカーテンを閉めて、わたしの目の前に立った。ゼイゼイと肩で息をして、急いで来てくれたであろう事がよく分かる。
「会社の人に感謝しいや。盲腸破裂て、もうちょっとでアンタ死ぬとこやったらしいて聞いて倒れそうになったわ」
「え。そんなに危なかったん」
ほんまやで、と母は大げさにため息をついて、ベッド脇のパイプ椅子に腰掛けた。わたしもベッドからゆっくりと起き上がってみる。
「いてててて……」
「無理しなや……て、あれ。アンタそんなネックレス持っとったん。キレイやな、それ」
言われて下を向くと、黄緑色の丸い石が淡く光っている。ツォンにもらったマテリアがここにある。夢だったはずだ。わたしは俄に混乱し始めた。
その時、名前を呼ばれて再びカーテンが開いた。すぐにひっつめられた黒髪を揺らす医師が現れる。
「回診です。どうですか? ルイさん」
その医者は黒いスーツ姿ではないし、額のビンドゥも付いてない。けれど、澄ました顔はさっき見たばかりだ。実は白衣の裏に拳銃なんて隠してはいないだろうか。
わたしは思わず「ツォン」と呼びそうになって、慌てて口を噤んだ。そのくらい、そっくりだった。
ツォンのそっくりさんは、母の背後で立てた人差し指をそっと自身の口元へ寄せた。彼は内緒話をするかの様に微笑んでいる。
まだ夢の続きだろうか。或いは、今度はわたしがツォンの夢の中にいるのかもしれない。
完
最後までお読み下さってありがとうございます。
おふざけがすぎるシリーズでしたが、お付き合い頂いてありがとうございました。
2020/05/14
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