1 もう取り戻せない
やや照明の落とされた静かな部屋に、キーボードを叩く音が響いている。部屋の中にいくつか設置されているモニターから漏れる光と、壁際の間接照明によって雰囲気はたっぷりだ。ここがバーならさぞ酒も進むだろうが、勤務時間中に、しかも直属の上司と二人きりではそうもいかない。
静寂に割って入るように、電話の呼び出し音が鳴り出した。彼女は呼び出し音を聞くたびに、「3コール以内に受話器を取るように」と、今隣に座る上司からかつて教えられた事を思い出す。言いつけ通り、今回は二回目の途中で受話器を取った。
「はい、こちらソルジャー司令室イヴで……アンジール? 今ウータイよね……え? ……は?! 」
イヴの上司・ラザードは、はっとして振り返った。彼には電話の内容は聞こえないものの、イヴの受け答えは穏やかでない。
イヴは青い目を見開き、見事な金髪を振り乱しながら分厚いファイルをめくり始めた。
「イヴ? 何があった? 」
ラザードは怪訝な顔をして、操作していたパソコンから目を離した。イヴへ視線を移すと彼女もラザードの方へ向いて、今聞いたばかりのニュースを伝える。
「統括、ジェネシスが行方不明だとの報告です。アンジールから、つい今し方わかったそうで」
「何だって? ジェネシスが? 」
ラザードは信じられない、といった表情でまだ電話しているイヴを見る。
ソルジャークラス1st・ジェネシス=ラプソードス。彼は、誰もが憧れるソルジャーの中でも、トップクラスの実力と美貌を誇る特別な戦士だった。
ちなみに、イヴに急ぎの報告をしてきたアンジールもジェネシスと同じ立場である。また、彼らは同郷の、それも親友同士でもあった。そんな彼らソルジャーは、イヴの属する会社・神羅カンパニーの花形である。
ソルジャーの主な仕事は戦闘だ。特に今はウータイとの戦争中で、尚更危険が付き纏う。いくら強くても、誰かが死んだり居なくなったりということはソルジャーや兵士達にはままある事だ。しかし、この件に関しては事情が異なっていた。
「ジェネシスと一緒に、大量の武器と大勢の2ndと3rdのソルジャーが失踪したようです。これは行方不明というよりも……」
イヴは暗い表情で俯いた。つい先日、戦地に送り出すまでは仲間だったはずの人達が、そうでなくなってしまった。この事実がイヴの胸をぐさりと突き刺している。
「脱走、か……」
ラザードと、電話口のアンジールの声が重なった。
統括室に重い空気が流れる。だが、イヴは俯いていた顔を上げると表情を引き締め、ラザードに問いかける。
「統括。タークスに調査要請を出しましょうか? 」
そうしてくれと答えると、ラザードはパソコンの操作を再開した。
これから忙しくなる。アンジールはそろそろ帰還の見込みであったが、むしろジェネシスの失踪でさらに早まった。組織全体で人手が足りなくなる。
「ありがとうアンジール。こちらでも捜査するから、あなたも無事の帰還を。心配だとは思うけど……ええ、じゃあ」
電話を切ると、イヴはすぐに別の回線にダイヤルを回す。さっそくタークスに依頼をするのだ。
総務部調査科・通称タークス。ソルジャーが陽なら、彼らは陰の存在だ。さながら忍者や黒子などのような、裏方の仕事を全般的に担う部署である。
タークスは諜報から暗殺まで、何でもこなすエリート社員の集まりだ。だがその実態は一般社員には知らされていない特殊な部門でもある。
「お疲れ様です。こちらソルジャー司令室……あ、ツォン? イヴよ。大至急で調査を頼みたいのだけれど……そうよ、ウェルド主任に……」
ジェネシスの件を知らせると、タークスもすぐに動き始める事となった。
イヴが電話を終えた時、統括室の自動ドアが開いた。扉が開くのを待ちきれずに、ドアが開き切る前にその大柄な身体を滑り込ませるようにして男が入って来た。彼は、いつにも増して不機嫌そうな顔をしている。
「セフィロス、ジェネシスが──」
イヴが喋ろうとした事は、セフィロスも既に知っていた。彼はイヴの話を最後まで聞かずにため息をついて、壁を背に預ける。そのまま天井を仰ぎ見ると、放心したように動かなくなった。
また自動ドアが開いた。けれど、セフィロスがその巨体で道を塞いでいる。
「ちょっと英雄さん。ここ、通して」
真っ黒のスーツに身を包んだ栗毛の女が、セフィロスの長い銀髪を一束摘んで軽く引っ張っている。深い緑色の瞳が見上げているのに気付くと、セフィロス目を閉じて息を吐き出した。
「悪かったな」
セフィロスはしぶしぶその場を動くと、今度は部屋の脇のソファにどっかりと座り直した。顔を覆うようにして動かなくなったセフィロスの黒いコートと、銀色の髪とが混ざり合う。もともときれいな
形をした男だが、何をしても絵になる。彼女は思わずセフィロスに目を奪われた。
「オリビア、こちらへ」
ラザードがセフィロスの陰に隠れてしまっていたオリビアをようやく見つけると、彼女を手招きした。オリビアはセフィロスから視線をラザードに戻し、足早に進む。
「さすがタークス。早くて助かる」
「いいえ。ではさっそくですが……」
オリビアはジェネシスの足取りについて調べ始めている。ジェネシスやその他失踪したソルジャー達のウータイへの出立、そこまでの移動手段、最近の戦績からその任務直前の様子まで、とにかく事細かに調べ上げるのだ。ある程度の資料はデータですでに受け取っていたが、これから行われる現地での調査の打ち合わせも必要だった。
常ならこういう場面で部外者は即刻追い出すラザードだが、このセフィロスだけはまた特別だった。これは全社員どころか、全世界でも共通と言っていいくらいだ。
セフィロスは神羅の最終兵器である。世界中で英雄と謳われる最強のソルジャーだ。言わずもがな、彼も1stである。
セフィロスの戦績、人望、容姿、能力、全てにおいて正に非の打ち所がない。また、彼を慕う者は多く、実際に指揮官としての才も申し分なかった。
セフィロスの特別扱いに意義を唱える者など皆無だ。とはいえ、仮に彼が暴れたとしても、最強故に誰も止められる者もいないのが実情である。会社側としては、その辺りも考慮しての事でもあった。
オリビアは肩までの長さに切り揃えられた栗毛の隙間から、チラリとセフィロスを覗き見た。彼はまだ同じ姿勢のまま動かない。
ジェネシスと大勢のソルジャー達の失踪はまたたく間に知れ渡る事となる。神羅ビルの、そして立場の上から下まで、てんやわんやの大騒ぎとなった。
2020/05/15
ついに手を出してしまった……!
英雄救済が目的の夢です。
わたしの作風ってたぶんのんびりぼんやりしてるから、7の世界観とは合わないんだろうなと思って避けて来ました。
でもやっぱりやりたいからやってしまおうと思い立ったわけです。
じゃすみんワールド全開でお送りします。笑
FF-D D+S New!夢物語
- 1 -
start * next
しおりを挟む
MODORU