FF-D D+S New!夢物語

12 英雄に憧れた


「惜しみない祝福とともに、君は女神に愛された。世界を癒す英雄として」

 ジェネシスは詩を諳んじている。まるで自分の言葉で話すかのように、スラスラと何も読まなくとも極自然に言葉が出てくる。

「『LOVELESS』か。相変わらずだな」

 セフィロスはまっすぐにジェネシスを見た。ジェネシスはレイピアをゆっくりと下ろすと、今度はオリビアに目をやった。オリビアはセフィロスのやや後ろで拳銃を構えていたが、ジェネシスの冷やかな目線と目が合うと俄に首を締められた記憶が湧き上がる。

「またお前か。死にぞこないめ」

 ジェネシスはさも興味が無さそうにオリビアを一瞥すると、視線をセフィロスに戻した。そのままゆっくりとセフィロスの側まで歩いてゆく。
 だが、オリビアは冷や汗をかいていた。今回は殺されるような事はなさそうだが、射抜くような目で睨みつけられると背筋が震える。セフィロスは「謝らせてやる」などと言っていたけれど、とてもそんな雰囲気ではない。むしろ下手に言い返すと命に関わりそうな気がして、オリビアは何も言わずに拳銃をそっと下ろした。
 だが、目だけはずっとジェネシスの動向を追っている。そのジェネシスは、セフィロスの目の前までやってきた。

 セフィロスは黙ってジェネシスと睨み合いを続けていた。彼なりに、かつての親友から逃げずに向き合おうとしているのだが、ジェネシスの考えが分からないままではそれも難しい。緊張の糸がピンと張って、今にも切れてしまいそうな危うさがあった。

 ジェネシスはセフィロスの目の前を通り過ぎると、セフィロスと少し離れた位置で立ち止まった。丁度セフィロスとは背中合わせになるような場所で、互いに顔は見えない。
 オリビアの存在は無視されたようなものだった。そしてオリビア自身も、二人の邪魔をしないようにこの張り詰めた緊張感に息を詰めている。それに、万一彼らが本気で戦い始めるような場合は、まずは退路を確保をしないとオリビアの生命が危ない。

「3人の友は戦場へ。ひとりは捕虜となり、
ひとりは飛び去り、残ったひとりは英雄となった」
「よくある話だ」

 不意に再開したジェネシスの朗読に、セフィロスは割って入るように口を挟んだ。せっかく顔を合わせたのだから、詩よりも自分たちの言葉で話がしたかった。

「……俺たちが演じるとすれば、英雄の役は俺か? おまえか? 」

 ジェネシスは互いに背を向けたまま、セフィロスに問いかける。セフィロスはハッとしたように振り向くと、ジェネシスの背中に返事をした。

「おまえがやればいい」

 ジェネシスは羨望と嘲りの混じったような卑屈な表情をしながら振り返り、自身の赤い前髪をかき上げた。

「ああ。あんたの名声は本当なら俺のものだった」
「くだらん」

 吐き捨てるように言うと、セフィロスはうんざりした顔になった。
 セフィロスにとって、英雄扱いは彼の本意では無い。もっと穏やかに静かに暮らしたいのに、世間がそれを許さない。セフィロスは「英雄」などというものが心底下らないと思っているが、ジェネシスはいつもそこにこだわっていた。

「今となっては、な。俺がもっとも手に入れたいのは『女神の贈り物』だ」

 ジェネシスはゆったりとした動きで、剣を持たない方の手を持ち上げた。天を仰ぐジェネシスは恍惚とした表情で「女神の贈り物」に思いを馳せている。
 ジェネシスの背に生えた翼が広がった。黒い羽がいくつか抜けて辺りに舞い上がる。
 セフィロスは雪のように降る黒い羽の中で、ジェネシスの様子を見ていた。

「何だ、それは」

 詩の世界の延長のような曖昧な話に、セフィロスは眉を顰めた。現実味が全く感じられず、「贈り物」が何を指すのかは見当もつかない。
 セフィロスはもともとジェネシスをロマンティシズムの強い男だとは思っていた。だが暫く顔を合わせない内に、さらに拍車がかかったように感じた。
 ジェネシスは何も答える事はなかった。ニヤリと不敵な笑いを浮かべると、現れた時がそうであったように忽然と姿を消した。

 オリビアはどっと疲れが押し寄せたような気分だった。へたり込む事はしなかったものの、精神的にくたくたになっている。

「オリビア」

 セフィロスはオリビアを振り返った。疲れた顔で拳銃をホルダーにしまいながら、オリビアはセフィロスの方へ向く。

「ザックスを追うぞ」

 オリビアが無言で頷くと、セフィロスはザックスが出て行った扉へ歩き始めた。
 そうだ。まだ終わっていないのだ。オリビアはドアを睨む。緊張感が一気に戻ってくると、オリビアはすっと背筋を伸ばした。
 オリビアはセフィロスの背を追って走る。一時は常人よりも背の高いセフィロスが小さく見えるほど落ち込んでいた。けれど今はそれを忘れれそうなほど堂々として、覇気が戻った。その背に追いつくと、セフィロスはまた別の扉を開けた。
 二人は通路をどんどん進む。やがて突き当りの広い部屋にたどり着いたが、ザックスどころかホランダーすら居なかった。

「逃げられたか」
「ザックスも居ないわ」

 セフィロスは薄暗い部屋を見回す。がらんとして、なにもない部屋だ。

「あれは……」

 セフィロスはまた歩き始めた。部屋の奥、床の代わりに嵌め込まれていたはずの金属製の格子状の床板が大きくズレている。下はプレートの下まで繋がっていて、谷のように深い。また、床にはそのズレた部分的まで何かで引っ掻いたような跡が付いていて、派手に抉れていた。

「アンジール、か」

 セフィロスは目を閉じて深いため息をついた。寂しそうな影がまたセフィロスを覆い始める。
 孤高の英雄は、実は人一倍寂しがりだった──オリビアはそう思いながらセフィロスに走って追いつくと、セフィロスの隣に並んだ。

「ザックスは、恐らくプレートの下へ落ちたな」
「何でわかるの? 」

 オリビアは不思議そうにズレた格子を眺めた。

「この床の跡はアンジールの技だ。さしずめあの格子の上にザックスがいて、技の衝撃で格子が外れて落ちた。そんなところだろう」
「ザックス、生きてるかしら……」

 オリビアは一瞬心配になったが、セフィロスは何でもない風な言い方をする。いくらソルジャーでもこの高さから落ちれば怪我の一つでもしそうだ。
 オリビアは淡々と推理するセフィロスを見上げた。

「ソルジャーならそれくらいで死ぬことはない。帰るぞ」

 セフィロスはそう言うと、さっさと踵を返した。

2020/06/07


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