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8. 雲行き(完)

 近くの川で汲んだ水で墓石を清め、道すがら摘んできた花を供えた。両親と兄、そしてご先祖様にそれぞれ祈りを捧げる。

「兄さん、ディオン様がお出下さったよ」

 さっと吹く風が頬を撫でた。供えた花が飛んで行きそうで、小石を拾って重しにした。

「エリンはよく働いてくれている。安心せよ、テランス」

 殿下もそう言って、わたしが置いた小石の下にもう一輪花を供えた。高台にある墓地は、下界の喧騒など知らぬ顔をするように穏やかな時間が流れている。

 殿下に兄の死を話すと、殿下はたいそう悲しんで下さった。せめて墓前に花でも供えたいと仰って、今日ここまで一緒にやって来たのだ。
 本当ならもう少し早く来たかったのだが、殿下は相変わらず戦続きで思うように時間が取れなかった。
 わたしも兄が亡くなって以来、ここに来るのは初めてだ。何年も来られなかった事を兄達に詫びた。

 兄が新兵となる時、殿下は新兵の名簿をご覧になっていた。そこに昔馴染みのテランスの名があったので、閲兵を楽しみにしていたという。希望に燃えていた兄の供養にと無理やり入隊式に出向いた事も、殿下はお許しくださった。
 普段はわたしはまだテランスとして生きている。けれど、二人だけの時だけ殿下はわたしをエリンと呼ぶようになった。もう、殿下に自分を偽らなくて良い。

 一通り墓の掃除も終えて一息ついた時、遠くの空に薄っすらと煙が登っているのが見えた。ロザリアの辺りだ。野焼きか、はたまた葬式か、遠すぎてそこまではわからない。ただ、その煙が立ち上ってゆく空がどんよりと暗い。黒く厚い雲が覆っていて、時折り稲光も見える。

「ディオン様、雲行きが芳しくありません」
「ああ…嵐になるやもしれぬな」

 ディオン様はロザリア方面を睨みつけるようにして、苦々しげに顔を歪めた。ロザリアの名が出ると、殿下は決まって機嫌が悪くなる。元太公妃を連想するからだ。

「父上は何をお考えか。余にはさっぱりわからぬ」

 ロザリアの太公妃が皇家に嫁してからというもの、ザンブレクは変わった。戦でバハムートの力を求められる事が格段に増え、追い立てるように前線へと送り出される。殿下がこうして戦場以外の場所に居るのも、ずいぶん久しぶりの事である。
 政も近年は圧政と言って良い。重税を敷き、特に属領では太公派への弾圧の動きもあるという。民ありきの殿下とは度々意見が食い違い、ますます父君との距離が広がってゆく。近頃の神皇は、賢人方の意見をも無視することすら増えているという。

「しかしなぜ父上も、かような奸婦かんぷなど娶る気になられたのか。祖国を裏切った売国奴が、あろう事か神皇后の地位を得るなど都合が良いにも程がある」

 殿下はフンと鼻を鳴らし、忌々しいと吐き捨てた。
 殿下はこの話になると憤りを隠せない。もっと言うなら、ロザリアからここまでの話題が一組である。今はわたしとふたりなのだから、そもそも憤りを隠す気もない。
 殿下は怒りの表情を保ちながら苦悶に変え、右腕を押さえ始めた。そのままギリギリと歯噛みする。

「痛みますか?ディオン様」

 思わず殿下の右手を取る。最近、殿下の右腕前腕の肘の近くに皮膚の変色が表れた。そこは灰色をして石の様に固くざらざらし、時折強く痛むそうだ。そこはもう通常の皮膚とは明らかに違う。いずれこの変質が全身に及び死に至るというこの症状が、遂に殿下にも表れたのだ。
 殿下の袖口から見える灰色の部分を、もう一方の手のひらで覆った。患部をさすっていれば、少しは痛みは和らぐだろうか。

「大丈夫だ、エリン。少々腹を立て過ぎた」
「ですが…バハムートの力を使うのは、最低限に留めてください。御身が幾らあっても足りません。聖竜騎士団は貴方様のご命令とあれば勇んで出撃しましょう。ぜひ、ご用命を」

 殿下は右手はわたしに預けたまま、左手でわたしの背を抱いた。ちゅ、と額に口付けると、わたしを抱く力を少し強める。つまり、これは「小言は要らぬ」と言う代わりだ。
 ちなみに、この話になった時に次に来るセリフは「バハムートはザンブレクの象徴だからそれは出来ない」という内容である。加えて殿下は聖竜騎士団の団長ではあるが、その全権は神皇にある。つまり殿下は逆らえない。聖竜騎士団を使うようにとわたしが幾らお願いしたところで、それが叶うことは無い。
 お互いに言いたい事も、その結果も分かっている。けれど殿下の身体が心配で、わたしも言わない訳にはいかない。故にこれをまた繰り返す事になる。

 遠くで雷の音が鳴り始めた。風も強くなりつつある。

「エリン、降り出す前に帰るぞ。そろそろ次の戦支度もせねばなるまい」
「はい、ディオン様。参りましょう」

 ロザリア辺りの空は暗い。現地ではもう嵐になっているかもしれない。わたしたちは空を一瞥してから歩き始めた。

 また戦が始まる。最近ではダルメキアと鉄王国との緊張が続き、開戦も近いと言う話だ。
 長らくドミナントがいなかった鉄王国だが、ついに召喚獣を手に入れたとの専らの噂である。なんでも皇国の暗殺部隊が出るとの話だから、あながち間違いではないのだろう。

 雨の匂いを伴って緩い風が吹いている。その風に乗って、暗雲が一層近づいてくる。
 一向に終わる気配のない戦乱は、ゆっくりと人を蝕んでゆく。民も神皇も、バハムートさえ出せば戦に勝てると思っている。
 それでも殿下は、殿下の愛する民とザンブレクらそして何よりお父上のためにご自身を捧げる。誰よりも美しく戦場を駆けるのだ。




2023/07/16

 これにて完結。ご愛読ありがとうございました!

 ディオンは本来ならお世継ぎを求められると思うけど、作中では全くそんな感じじゃなかった。オリヴィエがいるから使い捨てのつもりだろうか。などと思うとよけい怖いけど、そんな気がする。テラディオしてたのはバレてたんだろうか。敢えてほったらかされてたらそれも怖い。
 神皇は息子の早生を見越してるんだよな。唆したのはアナベラやろうけど、神皇だって一緒だわ。石化しかけて捨てられるベアラーはいたけど、石化待ちされてる人はいなかったぞ。

 テランスも殿下もお世継ぎとか結婚とかなるとちゃんと分かってるんだろうし、それが義務みたいなとこある筈だからちゃんとするだろうけど、皇子なのにそれすら求められてないのかと思うと改めて色々酷い扱いだ。テランスが居なかったら鬱にでもなってたのでは。いっそもっと早めにクーデターしてても支持者は大勢しそうだ。正直者が馬鹿を見るのなんか本当にやってられないけど、こういう局面はよくあるんだよな。
 ディオン様、ほんまもうちょっと早く謀反起こしとけば良かったね。国内最強なんだからどうにかなった。たぶん。毒親に気づくのは難しい。お薬娘と三人で幸せに暮らしていてほしい。




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