D+S FF-D New!夢物語


7. 決死の逢瀬

 なるべく小さな音で済むようにドアをノックした。そしてできる限りの小声で殿下に到着を知らせる。この時のノックは4回する事を2人で決めた。

「テランスにございます」
「開いている。入れ」

 すっかり夜も更けた。昼間は大勢の人が行き交う皇宮も、今はしんと静まり返っている。そっとドアを開けて、静かに閉めた。
 テーブルに置かれたランタンが、薄暗い部屋を柔らかな光で照らしていた。殿下がどこにいるかくらいは分かる程度の光量が、却って緊張する。

「テランス、ここへ」
「仰せのままに」

 殿下は薄いシャツと柔らかそうなズボンという、普段の軍服よりも格段に楽な格好だ。ご自身のベッドに座って、わたしに隣へ来るようにと手招きしている。
 わたしも似たような装いで来た。眠れる格好で来るようにとのお達しである。せめてヨレヨレで無いものを選び、足元はサンダル履きという部屋着に毛が生えた程度のものだ。何の色気もない。
 いつもなら体型も体格も、固い鎧で誤魔化せる。けれど今は文字通り丸腰である。
 ここまで来たら、もう白状するしかない。仮に嘘を咎められて手打ちになっても、殿下に殺されるなら本望である。

 殿下の隣に座るや否や、殿下にぎゅうと抱きしめられた。おずおずと殿下に手を伸ばすと、ますます力を込められて苦しくなってくる。

「ディオン様、恐れながら、く、苦しいです」
「すまぬ。つい、嬉しくて」

 殿下の手が緩むと、少ししゅんとした顔が目の前にあった。

「許せテランス。余は幸せなのだ」
「ありがたき幸せ。しかし、ディオン様、わたし──」

 まただ。白状しようとすると口付けられる。とはいえ、このままでは身体の芯まで蕩けそうだ。思わずうっとりして、白状しなければと思っている事すら忘れてしまいそうになる。

「ディオン様、」
「テランス」
「ですから」

 口付けは止まらない。わざと止めないのではないかと思うほどだ。執拗にも感じる口付けは首筋にも及び、気がついたら二人してベッドに倒れ込んでいた。

「ディオン様、お伝えしなければなら…っ」

 変な声が出た。殿下はお構いなしに口付けを続ける。頑ななまでに、聞いてくれる気はないようだ。わたしは決して拒んでいるわけではないのに、殿下はわたしが喋るのを拒んでいる。

「テランス、待て」
「何を、待つのですか」

 手首を殿下に掴まれて身動きが取れなくなった。いつのまにか息も上がっている。ここまですれば、性別などもう分かってしまうのではないだろうか。

「そなたは、余に何と申したいのだ」

 殿下はわたしの目をじっと見下ろした。殿下は決して怒っている風ではない。けれど、何かを恐れているように、表情は少し険しかった。

「恐れながら…わたくしは、ディオン様にお詫びをせねばなりませぬ」
「やめてくれ」
「これ以上、ディオン様に嘘をつけませぬ」

 涙が出てきた。まさかこんな関係になるなんて大誤算だった。トンズラできなかったばかりに、殿下にも周りの人達にも、ずっと嘘を嘘をついてきた。それでもここにいる事を選んだとはいえ、そろそろ決着をつけなければならない。

「皆まで言うな、テランス。そのような事、余はとうに知っている」
「はい…ええ? ディオン様? 」

 衆道と言ったのに?え?何故?は?、などとは言えないが、正にそんな顔をしていたのだと思う。殿下は大笑いを始めた。

「ど、とういうことでしょう…?」
 
 殿下はひいひい言いながら笑っている。わたしは涙などすっかり引っ込んでしまった。

「いや、すまぬ。だが、性別など隠せるのもか」

 殿下はわたしから手を離すと、ベッドの上に座り直した。わたしもゆっくりと起き上がる。

「とは言え、余も初めは分からなかった。本当に、そなたらはよく似ている」

 笑を無理やり納め、殿下はいつもの真面目なお顔に戻った。気がつけば、わたしはベッドの上に正座していた。

「気が付いたのはほんの最近だ。そなたに触れるうちにわかってしまった。鎧で固めていても、やはり男とは違う」
「申し訳ございませんでした」

 ベッドの上で、額をシーツに擦り付けて謝罪した。まともに殿下のお顔など見られやしない。

「テランス、いや…そなたはエリンであろう。こちらを向け」
「はい…」

 そろそろと顔を上げると、殿下はわたしの顔を両の手のひらで包み込んだ。殿下としっかりと目が合う。

「余は、女に興味などない。何故かは知らぬが、幼き頃からそうだった」
「はい。衆道と仰いましたね、あの時」

 また泣けてくる。殿下が必要なのはテランスで、わたしではないのだろう、と。

「もしも初めからそなたをエリンだと知っていれば、恋慕などしなかったであろう。しかし…そなたは男として余と再会し、余はそなたに恋心を募らせた。余を、そのまま受け止めてくれるのが嬉しかった」
「申し訳ございま──」
「最後まで聞け、エリン」

 殿下は両手でわたしの頬を摘んだ。それを伸ばして遊び始めるのだからたまったものではない。殿下は突然パッと頬から手を離すと、今度はわたしの手を取った。

「しかしそなたは触れば触るほど、男にしては華奢で柔らかく、小さい。これまでも線が細いとは思っていたが、なるほど女であるならば納得であった」

 殿下はわたしの手を掴んだまま、その手を殿下の頬へと移動した。

「さて、余は男にしか興味がない。しかし愛したそなたは女であった。とはいえ性別を指摘して、そなたが余から離れてしまうのも恐ろしい。故に聞きたく無かった。エリン、責任を取れ」

 わたしは殿下のお顔をまっすぐに見た。殿下から手を離し居住いを正して、神妙な気持ちで頭を下げる。

「何なりと。このエリン、たとえ手打ちに合っても、ディオン様の手にかけて頂けるなら本望にございます」
「…何?」

 今度は殿下がポカンとする番だった。端正なお顔が、わたしのせいでお口がだらしない。何だかよけいに申し訳なかった。

「何を言う。余は、そなたをこれまで通り側に置くと言ったのだ。仕事もこれまでと変わらぬ。女だからと手加減はせぬ故、覚悟しておけ」

 そう言って、殿下はわたしをゆっくりとシーツに沈めた。話は終いだと言う代わりに、これまでよりも深く口付けられる。あとはシーツと激情の波に飲まれるだけだ。

2023/07/15

 登場人物もストーリーも完成されすぎているのか、余計な人物を捩じ込む隙がない。セシルとローザなんかアッサリ引き裂いたのに!笑





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