FF-D D+S New!夢物語


13 宿場にて

 翌朝、アリーは愛用の槍を手に外へ出ていた。稽古着までは持ってこなかったのだが、せめて素振りくらいはしないと身体が鈍ってしまう。アリーは今日も半日は馬車に揺られる予定だ。早起きして、朝食前に一汗かいて来たところだった。

「おはようございます、アリー様」

 宿に入ったところでマーサが声をかけて来た。アリーの後ろからついて来る兵士とも挨拶を交わすマーサは、すでに一仕事終えた風だ。りんごがたくさん入った籠を抱えて、何処かに運ぶ途中なのだろう。彼女の溌剌とした受け答えが朝の清々しい雰囲気と相まって、とても気持ちが良かった。

「おはよう、宿場の朝は早いのね」
「ええ、アリー様も。お疲れではありませんか?」

 マーサは心配そうにそう言うが、アリーは一晩ぐっすり眠ってスッキリしている。

「ええ、おかげさまで。良いお部屋を用意していただいてありがとう」
「ありがたきお言葉…」

 マーサはりんごの籠を傍へ置いて、手を胸にやって礼をする。頭を上げると、マーサ神妙な表情になった。

「アリー様は覚えておいでではないかもしれませんが…」

 マーサはそう言うと、アリーに跪いた。アリーは何事かと驚くが、マーサはそのまま話しを続けた。

「わたしはあの日、貴方様に助けていただいたのです。危うく荷馬車に乗せられそうになっていたところを、あなた様が来てくださった」
「まあ、そうだったの」
「ええ、おかげさまで今日もここで商売を続けられています」

 マーサはまるで拝むようにそう言うと、涙ぐんでいる。アリーはしゃがんでマーサの手を取った。

「あなたが無事でよかったわ、マーサ」

 アリーは嬉しかった。大勢失ったけれど、助けられた人もいる。そしてそれが今に繋がった。
 アリーにはドミナントのような強大な力はない。それでもこうして民のために働けたのなら、毎日の稽古のし甲斐もあるというものだ。

「アリー様が、ザンブレクの捕虜となられたと聞いた時はもう…」

 悔しそうにしているマーサを立たせると、アリーは微笑んだ。

「ありがとう、マーサ。全てが変わってしまったけれど、わたしもこうして生きているわ」
「アリー様は、今でもロザリアの英雄です」

 アリーは目をぱちくりさせて驚いた。アリーにすれば、英雄というのはディオンのためにある言葉だと思っている。けれど、その気持ちは嬉しい。アリーは微笑んで感謝を伝えた。
 マーサははりんごを抱え直すと、
「お食事の後、すぐに出発だそうですね。どうかお気をつけて。お帰りもお待ちしております」と言って頭を下げた。

「ええ、お願いします」

 アリーがそう返事をすると、マーサは仕事に戻って行った。
 アリーはその場で自分の護衛についていた兵士を朝食に向かわせた。自分も部屋へ戻ろうとしていると、一人のベアラーが通りかかった。彼もまた、何かがたくさん入っているであろう大きな箱を抱えて歩いている。そのベアラーがアリーの近くを通りかかった時、箱から小さな紙がぱらりと落ちた。アリーが拾い上げると、それは何かのメモ書きのようだった。

「あなた、落としたわよ」

 と言って、アリーはその紙をベアラーが運んでいる箱とはこの間に挟んでやった。
 通常、ベアラーは自由に話すことすら禁じられている。彼はアリーの行動に、どう対応したい良いか分からない。困惑した表情で目を泳がせながら、ただオロオロしている。

「申し訳ありません、アリー様」

 アリーまでどうしたら良いのか分からなくなっていると、マーサが慌てて戻ってきた。

「こう言う時はね、お礼を言って頭を下げるんだよ。ほら、こうするんだよ。やってみな」

 マーサが実演付きで教えると、ベアラーもしどろもどろしながら礼をする。

「そう、それでいいのさ」

 マーサがそう言うと、ベアラーもホッとしたような顔をした。彼はアリーとマーサに頭を下げて、また荷運びに戻ってゆく。

「カウンターの奥へ置いておくれ。助かるよ」

 ベアラーはマーサの方へ再度顔を向けると、無言で頷いて宿の奥の方へ入って行った。
 主人がベアラーを人と同じように・・・・・・・扱っている。かつてのロザリアでは割と見られた光景だが、ザンブレクで見かけない。そもそも皇宮では、アリーの目に触れる場所にベアラーがいないのだという事をアナベラから知らされたのはいつだったか。
 ザンブレクでのベアラーの扱いは家畜も同然だ。いつかアリーの傷を治したベアラーも、身体の一部が石化していた。それなのに魔法を強要され、用が済めば無用とばかりに誰かが引きずって何処かへ連れて行ったのを思い出す。

「これでも、ベアラーの扱いは昔より悪くなっているんですよ。今はまだ朝も早くて、人がいないから」

 マーサはそう言うとため息をついた。ベアラーに、たとえ奴隷としてでも声をかける事すらもう人前ではできないと嘆く。

「エルウィン様がいらっしゃった頃とは、変わってきています」
「そう…」

 エルウィンは民にも兵にもベアラーにも平等に接して来た。アリーは父が時間をかけて築いてきた物がだんだん崩れ始めているのを感じて悲しくなった。それがザンブレク領になり、アナベラが支配しているのだから、さらに酷くなるのは時間の問題である。
 しかしそれ以前に、ベアラーがクリスタル代わりに接収される事も増えているとマーサは言う。また、ベアラーを養うにしても金がかかる。何れにせよ、民の生活は以前よりも厳しくなっていた。

2023/08/13



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