FF-D D+S New!夢物語


15 出会いと別れ

「本当に、またお会いできるなんて夢のよう。捕虜になられたと聞いて、本当に心配しておりました」
「ありがとうございます。この通り、向こうでも良くしていただいていますよ」

 おいおいと泣くハンナのハンカチは既にずぶ濡れだ。こんなにも心配してくれる人がいて、アリーはとても幸せな気持ちである。

「アリー様は、今も槍を続けていらっしゃるのですね」

 ハンナの目はアリーの槍を向いている。お付きの兵士が持っている槍は多少年季は入ったものの、未だ現役だ。実戦に使ったのは鉄王国と戦った時のみで、今のところ素振りでしか出番がない。

「ええ。将軍のご教授のおかげで、わたしは今も生きています。そういえば、将軍は今日はお出掛けでしょうか。」

 アリーの問いに、ハンナは顔を曇らせた。

「いいえ。夫はあの日、帰って来ませんでした。恐らく、もう…」

 アリーはおもわず口をつぐんだ。ハンナの悲痛な表情が、さらに深くアリーの心を打ちのめす。

「そんな、将軍まで…なんて事…」

 茫然とするアリーに、ハンナは寂しそうに微笑んだ。暖かいうちにとアリーに茶を勧めると、ハンナは続ける。

「アリー様はロザリアの英雄です。夫もあの世で鼻高々でしょう。アリー様もクライヴ様も、とても熱心でいらっしゃると夫はあの頃よく申しておりました」

 カップを手に取ったものの、アリーは泣いて返事どころではない。ハンナはそっと新しいハンカチを差し出した。


 やがて馬車の修理も済み、兵士がアリーを呼びに来た。ハンナと共に家を出ると、既に馬車が用意されている。アリーは心ばかりだと言って、手持ちの金と、何食分かの保存食を、御礼として村に寄付することにした。
 ハンナとの別れを後ろ髪引かれる思いで済ませると、アリーはまた馬車に乗った。イーストプールから宿場まではそれほど遠くない。馬車さえ直ればあっという間だった。

 やがて宿場に着くと、アリーはマーサや他の宿の者に出迎えられた。しかしアリーはその中に、来る時には見かけなかった者が混じっている事に気が付いた。
 上下とも黒い皮の服に二本差しの姿は珍しく、とても目立つ。その男はマーサと一言二言言葉を交わすと、すぐに居なくなってしまった。
 その後アリーは部屋に案内され食事をし、床についた。しかし夜中にふと目が覚めてしまうと、それから寝られなくなってしまった。

 アリーは部屋のバルコニーへ出た。真っ黒い空に星々が浮かんで綺麗だ。寝たほうがいいのは分かっているが、目がすっかり冴えてしまっている。そのままぼうっと空を眺めていると、誰かがとんでもない剣幕で喧嘩しているのが風に乗って聞こえて来た。

「だから!そんなんじゃ──だって何度も言ってるだろう!それに──」
「なら──しろってんだ!保護する──」

 所々よく聞こえないが、片方の声はマーサだ。もう一方は男のようだが、アリーの知らない声である。夜中に何事かとアリーは声の出所を探した。
 良く見ると、アリーの隣の部屋の窓が明るい。バルコニーも窓もきちんと閉まっているが、よほど白熱しているのだろう。アリーが声に驚いているうちに、喧嘩はさらに激しくなる。しかしどちらも譲る気配はない。

「ベアラーを──したいんだよ!けど──」
「そんな事はわかってる!イーストプール──問題は──」

 アリーははっとした。マーサはイーストプールのベアラーについて誰かと話しているのではないか。イーストプールのベアラーといえば、村長がロザリス城で太公家に仕えていたベアラーの引き取り手について困り果てていると聞いたところだった。アリーとて無関係ではない。
 アリーはバルコニーから窓の中を見た。マーサと黒い服の男が何やら言い合っている。二人が何を言っているのかは良く聞こえないが、マーサならベアラー達を悪いようにはしないはずだとアリーは思った。
 だが、アリーが立ち聞きしているのに変わりはない。アリーはどうやって二人に声をかけようかと迷っていた。とはいえ、部屋の入り口は兵士が番をしているし、隣のバルコニーへ行くには軽業でもできないと難しい。かといって、堂々と隣の部屋へ行く言い訳も見つからなかった。
 アリーが困っていると、マーサと口論をしている男がアリーに気が付いた。アリーの方へ顔を向けたその男は、アリーが宿場に着いた時に見かけた黒い服の二本差しの男だった。彼はアリーと目が合うと、すぐにマーサを振り返る。マーサも目を丸くして驚いていた。
 すぐにバルコニーに出ようとする男を制して、マーサが代わりにやって来くる。マーサはとても焦ったような顔をしていた。

「マーサ、ごめんなさい。聞こえてしまったものだから」
「いいえ…それよりも、アリー様。この事はどうか内密に。お願いです」

 いつも堂々として気風の良いマーサが、見るからに焦り、困り果てている。よほどの事情があるのだろうと、アリーは予測をつけた。

「もちろん、分かってるわ。それに、イーストプールのベアラーの事ならわたしにも関係があるもの」
 
 アリーがそう言うと、男が突然マーサを抱えた。

「ちょっと、シド。何するん──」

 驚いたマーサの口を大きな手で塞ぐと、シドと呼ばれた男は自身の肩の上にマーサをうつ伏せに乗せた。

「マーサ、ちょっと黙ってろ。舌噛むぞ」

 シドはアリーのいるバルコニーまでの距離を測り始める。

「姫さん、ちょいと失礼しますよ」

 そう言うと、シドはマーサを抱えたまま、ひょいとバルコニーを飛び越えた。アリーの側へ音もなく着地すると、そっとマーサを下ろす。

「もうちょっと先に何か言ってくれても良かったじゃないか」

 と、マーサが小声で怒っていると、シドは事もなげに返事した。

「バルコニーで内緒話なんて出来るわけがなかろう。だったら、俺たちが来た方が早い」

 マーサが驚いて怒るのは最もだ。しかし、アリーにとっても助かった。

「そうね……わたしがここから出ると、きっと兵士の誰かが付いてくるもの」

 そう言うと、シドは「そうだろう?」と、得意げに笑った。それをマーサが睨みつけるが、シドは意にも介さない。

「どうぞ」

 アリーは二人を部屋に入れると、なるべく音が出ないようにバルコニーの扉を閉めた。


2023/08/17
シドってこんな人だっけ。とりあえず素敵なおじさんである。



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