15 生きてこそ
わたしがミンウさまを見つけたとき、ミンウさまはその強大な魔力を扉にぶつけんとしているところだった。
本当ならば、わたしも微力ながら力の足しにしてもらおうと考えていた。そうすれば、たとえミンウさまが完全に力を使い切ってしまっても、命だけでも助かるのではないかと思ったからだ。
けれど、残念ながら間に合わなかった。たどり着いた頃にはミンウさまは既に扉の封印を解き、自身は崩れ落ちようとしていた。
「ミンウさま! 」
わたしは飛びつくようにしてミンウさまに駆け寄り、抱きかかえた。何度も呼びかけるが、ミンウさまは既に意識が混濁し始めている。目は開いていたけれど、濁った瞳には何も見ていない。
わたしは慌てて自分の魔力をミンウさまに分けていく。魔力は柔らかい光を放ち、ミンウさまを覆った。しかし、ミンウさまはそのまま意識を失い、ずしりと体重がかかる。
「フリオニール。アルテマはお願いね。ミンウさまをフィンに連れて帰るわ。」
「あ、ああ……。けど、フィンまでどうやって帰るつもりなんだ? 」
「塔の外でシドが待っている。私達は飛行船で来たんだ。」
スコットさまがそう仰ると、フリオニールも納得したようだ。
「スコット王子。アルテマは必ず持ち帰ります。リリー、ミンウを頼む。」
わたしは頷き、魔力を込め始めた。
「みんな、フィンで会いましょう! 無事で! 」
わたしはテレポを唱えた。スコットさまにミンウさまを支えてもらいながら、3人で離脱した。
塔の外に出た。塔の回りは森が広がっており、飛行船は少し離れた所に停泊している。
ミンウさまを飛行船に運び、急いでアルテアに戻らなければならない。しかし、ミンウさまは先ほどよりもさらに顔色が悪くなってきた。辛うじて息はしているようだが、フィンまで持ちこたえることが出来るかどうか不安だった。
その時、背後でパキ、と音がした。地に落ちて乾いた細い枝が、踏まれて折れたような音だ。さらに、草を踏みしめるような音も聞こえ、だんだん近づいている。
スコットさまは、わたしにミンウさまを預け、わたし達を庇うように音のする方へ一歩前へ出た。剣の柄に手をかけ、いつでも抜ける体勢を取る。
わたしはミンウさまをの体重を支えきれずにその場に座り込んでしまい、ミンウさまを抱きしめて身構えた。
「あんたたち、フィンから来たね。」
木の影から、物音の主が現れた。白いローブを羽織り、胸元には赤いブローチがついている。痩せ型の女性だ。やや年配だろうと思うが、若い風にも見える。彼女は大きな木製の杖を持っていて、もう一方の空いた手で自身の足に付いた草を払った。
「おや、そこに転がっているのはミンウかい。すると、お前さんがリリーだね。」
女性はまっすぐにわたしをを見る。どこかで会っただろうかと考えてみるが、やはり面識はない。
「あ、あの……あなたは、どなた様でしょうか。ミンウさまをご存知のようですが……? 」
「ああ、そうだよ。わたしは、そのスットコドッコイの師匠さ。」
「ミンウさまの、お師匠さま……! 」
わたしは驚いて口をパクパクさせていた。まさか、こんなにもタイミング良く、そんな人に出会えるとは思いもしなかった。わたしはスコットさまと顔を見合わせる。
「わ、わたしはリリーです。ミンウさまの弟子です。あ、あの、お師匠さま。お願いです、ミンウさまが、アルテマの封印を解かれたのですが、こんな状態です。どうか、お力を──」
「駄目だ。」
「……え? 」
わたしは耳を疑った。ミンウさまのお師匠さまなのに、何故駄目なのだろう。信じられない思いで、お師匠さまを見上げる。
「助けてやらないよ。アルテマの封印を解くことは、ミシディアの掟に反するんだ。だから、ミシディアの者はたとえわたしでなくても、誰も助けないだろうね。わかったら、とっとと国へ帰りな。」
そう言うとお師匠さまはくるりと踵を返し、来た道を戻り始めた。スコットさまが慌てて追いかけようとすると、お師匠は向こうを向いたまま、そして大声で言った。
「やれやれ、久しぶりに遠出したから疲れちまったよ。エーテルとフェニックスの尾とポーションと万能薬を煎じて飲もうかね。あれは魔力の補給に抜群だ。早く飲まないとぶっ倒れちまうよ。」
わたしは、お師匠さまの背中に深く頭を下げた。その薬を作ってミンウさまに飲ませれば、きっと良くなる。そう思った。
幸い材料は揃っていた。飛行船に台所はなかったが、その動力源となる炉を借りた。
さっそく煎じ薬を作って、それをミンウさまに飲ませた。さらにわたしの魔力を分け続ける。わたしもその薬を飲みながら、なんとか無事にフィンに帰ることができた。
ミンウさまはなかなか目覚めなかった。来る日も来る日も、わたしは看病を続けた。
その間、世間は大きく動いた。フリオニール達が奮闘し、遂に皇帝を倒したのだ。世界の英雄としてフィンに帰って来た彼らは、フィンを挙げて盛大に迎えられた。
フリオニール達を軍部の要職に招くという話も出ていたそうだが、本人達はそれらを全て断った。以前のようにフィン領内で住むところを探すと言い、直ぐに城下を去って行った。
それからさらに二週間ほど経った。
わたしは仕事を終えると直ぐに、あてがわれている部屋へ戻る。荷物を下ろして手洗いを済ませると、真っ直ぐにミンウさまの元へ向かった。
ミンウさまの汗を拭き、シーツを替える。一通りのお世話を終えると、わたしの疲れもピークに達したらしい。ベッドの脇に置いてある椅子に腰掛けた途端、急に眠気に襲われた。そして、そのままうたた寝をしてしまった。
ふと、ミンウさまに呼ばれたような気がして目が覚めた。けれど、部屋はしんとしている。夢だったのだろうか。そう思った矢先、ミンウさまが少し動いたように見えた。既にあたりは真っ暗だった。わたしは目を凝らして、ミンウさまの様子を伺う。
「済まない。起こしてしまったかな、リリー。」
わたしは、今聞こえた声が空耳でないことを祈った。そして、もう一度ミンウさまを見る。すると、ミンウさまは起きあがろうと必死でもがいていた。
「ミンウさま! お目覚めに……でも、まだ寝ていてください。」
わたしはそう言ったけれど、ミンウさまは寝すぎで疲れたと仰った。少々弱々しいが、座ってしまえば何とか体重を支えることはできるようだ。
「ありがとう、リリー。お前が私を助けてくれたのだろう。お陰で、まだ生きられるようだ。」
ミンウさまは微笑み、手をわたしの頭にポンと置いた。わたしは安堵して、涙が溢れて止まらなかった。ミンウさまはもう大丈夫だ。
わたしはミンウさまを抱きしめて泣いた。きっと夜中であろう事もすっかり忘れて、わたしはわあわあと声をあげて泣いた。ミンウさまもわたしの背中に腕を回し、抱きしめ返してくださる。以前に比べると幾分弱々しいが、それでもしっかりとしていて優しかった。背中を撫でてもらうと、心がほっと温まる。
「ミンウさま、ミンウさま……。良、かった……うう。」
「ふふっ。リリー、酷い顔だぞ。」
ミンウさまが笑う。わたしにはそれがとても嬉しい。
「ミ、ミンウさまのせいです。」
「そうか。そうだな………。すまない。苦労をかけた。」
ミンウさまはしゅんとして俯いた。目線は下を向き、青菜に塩、といった萎れ方だ。ミンウさまでもこんなお顔をなさるのだ。きっと、こんな姿を誰も知らない。それを知ったかと思うと、わたしはますます嬉しかった。
調子づいたわたしは少し大胆に出る。後悔はしたくないと思った。
「あの、ミンウさま。もう一度……口づけ、してください。それで、いいです。」
ミンウさまははっとしたように顔を上げ、目を見開いて驚いた。
「お前、覚えているのか。あの夜の事を。」
ミンウさまはミシディアの塔へ発たれる時、ついて行こうと食い下がるわたしを眠らせた。その時わたしは唇に暖かい何かを感じていた。考える間もなく眠ってしまったのでハッタリに近かったが、何故か確信はあった。やはり、ミンウさまはわたしに口付けていたのだ。
「はい。ギリギリでしたけれど。本当に、一瞬だけ。だから、今度はちゃんとしてください。ミンウさまだけが覚えているなんて、狡いです。」
「完敗だな。全く、我ながら優秀な弟子を育てたものだ。」
ミンウさまは参ったと言い、にっこり笑った。
ミンウさまは、手のひらをわたしの耳の上に沿わせる。ゆっくりと唇が近づき、わたしは目をつぶってその時を待った。
やがて唇が触れ合った時、わたしはほんの少し目を開けてみる。ミンウさまは首や耳まで真っ赤に染まっていた。ウブなんだなあ、などと思っていると、それはすぐにばれてしまう。
「こら、こういうときは、目をつぶっておくものだよ。」
そう言いいながらも、ミンウさまは何度も何度もキスをしてくれた。まるで割れ物を扱うように、大事そうにわたしに触れる。わたしはこれ以上ないくらいの幸福感に浸った。
「リリー、愛している。もう、離さないぞ。」
「はい。離れろと言われたって、離れてあげません。」
お前はいつからこんなに生意気になったのだと言い、ミンウさまはまた笑った。青い瞳が星のようにきらりと輝いた。
世界は平和になった。ミンウさまも意識が戻った。これからは、ずっとミンウさまと一緒だ。
完
20140905
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