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2 宮廷魔導師



「リリー。そろそろ出るぞ。準備はいいか。」

「はい、ミンウさま。」


 今日は城へ出仕する日だ。リリーを伴い登城するようになってから、もう4年になるだろうか。今ではすっかり慣れたようだが、初めてリリーを城へ連れていった日のことは今でもよく覚えている。

 あの日、あの子は気の毒なほど緊張していた。着慣れぬ魔導師のローブの長い裾を踏み、派手に転んだ。なにせ小柄だったので、城の少し急な階段を下りるのも恐る恐る、といった具合だった。
 極め付けは、城内で迷子になった挙句、フィンの王女・ヒルダ様に連れられて私の執務室に戻って来たことだろう。その時はさすがに眩暈がした。リリーに不安な思いをさせた上に、私の不行き届きでヒルダ様にまでお手を煩わせてしまったのだから。
 リリーの城での仕事は2つ。一つは私の助手、そしてもう一つはヒルダ様の遊び相手だった。


「リリー! おはよう! 今日は何をして遊びましょうか。」


 城の門をくぐるなり、ヒルダさまが全力疾走でリリーの元へとお越しになった。急に飛びつかれて目を白黒させているリリーを、後ろからそっと支えてやる。


「お、おはようございます。」

「おはようございます。ヒルダ様。」

「おはよう、ミンウ。ねえ、後でリリーと遊んでもいいでしょう?」


 リリーとくっついたまま、ヒルダ様が顔をこちらに向けて仰った。


「ええ、勿論です。リリーも楽しみにしていますよ。」

「ありがとう!ではミンウ、リリー、また後でね! 」


 私がそう返事をすると、また走って城に戻られた。ヒルダ様は今日もすこぶるお元気のようだ。後ろから侍従長が必死で追いかけている。
 先の迷子事件から、ヒルダ様はリリーを大層気にお気に召された。以降、リリーはヒルダ様のお相手をするようになる。
 ヒルダさまの方がいくつか年長だが、年も近く子供の少ないこの城で、リリーは格好の遊び相手だった。本来ならば何かお咎めがあったやもしれぬ事だったが、このことからも大目に見て下さっているようだ。
 大人しいリリーは活発なヒルダ様にやや振り回される傾向にあるものの、本人もまんざらではないらしい。2人連れ立って仲良く遊んでいる。そのせいか、ヒルダ様は前にも増して頻繁に私の執務室にお出でになるようになった。


「ありがとうございます。ミンウさま。支えて下さって。」

「ああ、構わない。急だったから驚いたろう。」

「少し……。でも、大丈夫です。ミンウさま、今日はどの資料を探しましょうか。」


 私の助手、と言ってもその仕事は実に幅広い。けが人の治療、流行病の治療法の研究、魔法の研究、薬剤の研究、道具の整備……するべきことは幾らでもあり、今日もリリーはパタパタとよく動いている。
 特に急ぐべきは病の研究だ。人から人へと感染する不治の病には未だ治療方がなく、毎年大勢亡くなっている。リリーの父もまた、この病で死んだ。酷い咳と血痰が特徴で、そのうちに体が衰え死に至る。稀に治る者もいるようだが、多くの場合は死を待つしかない恐ろしい病だ。
 怪我ならば白魔法で治すことができる。しかし、病には効果がない。国中の、時には国外からも資料を集め、リリーと共に研究を重ねている。
 怪我人の治療も大事な仕事の一つだ。平和な昨今、酷い怪我で運ばれて来る者はそう多くはない。しかし、年若いリリーには、時に過酷なこともあろう。よく注意してはいるものの、リリーの心が傷ついてはいないか、など心配は尽きなかった。


「昨日、スコット王子がいらっしゃったのよ。とってもお優しくて、賢くて……それでね……。」


 午後、リリーをヒルダさまの元へ行かせてから数分。直ぐに2人して執務室に戻って来た。私の机とは反対側の壁際に毛氈もうせんを敷き、そこに座り込んでおしゃべりが始まった。ヒルダ様曰く、この部屋は侍従たちの目がないので居心地がいいという。これは、ヒルダ様なりのリリーへの心遣いだろう。
 時折、ちらちらと視線を感じる。どうやら内緒話のつもりらしいが、残念ながら筒抜けだ。それが何とも微笑ましく、彼女達に気取られないように小さく微笑んだ。


「立派なお方なんですね。」

「ええ。とっても。わたし、きっとこの方のもとへお嫁に行くわ! 」


 ヒルダ様は瞳をキラキラと輝かせて、興奮気味に話す。リリーも心底嬉しそうに相槌をうつ。


「わあ、素敵ですね! わたし、今からわくわくします。」

「ねえリリー。あなたはどうなの? そういう方、いないの? あなたの話も聞きたいわ。」

「そんな、わたしは……。」


 リリーがそわそわしながらこちらの様子を伺っている。ふふ、真っ赤な顔をして。
 私がいると話しにくいこともあるのだろう。ヒルダ様もリリーもまだ子供だと思っていたが、やはり女の子だった。当たり前といえばそうなのだが、ついそう思ってしまう。
 思えばリリーもそろそろ年頃と呼ばれる年齢に近づきつつある。近頃、多少は異性を気にするようになったように見える。そこにはどうやら私も含まれているようで、何ともこそばゆい。
 リリーもいつか、誰かのもとへ嫁にやることになるのだろうか。本人が望むなら、そのようにしてやらねばなるまい。そこまでが私の父代わりとしての最期の、そして最大の責任であろう。
 ちくり。胸が痛んだような気がした。それは果たして寂しさだけだろうか。いいや、きっと気のせいだ。それとも、父親ならば皆そう感じるものなのだろうか。
 正体の分からぬものと葛藤しながら、私は書類にペンを走らせた。

 ふと気が付くと、いつの間にか静かになっていた。見れば2人寄り添ったまま、部屋の隅で眠りこけている。あまりに気持ちよさそうで、起こすのも忍びない。私は2人をそっと抱き上げて、ソファに寝かせることにした。
 リリーもそうだが、ヒルダ様も大きくなられた。抱き上げるのもソファに寝かせるのも、2人一緒ではそろそろ限界だ。
 むにゃむにゃと何か言いながら、2人してよだれを垂らしている。やはりまだ子供だったことに安堵しつつ、私は2人に羽織っていたローブをそっとかけた。

20140711

ミンウさまはロリコンではありません
父の役割を全うしたい
だからこそ、これから葛藤して頂こうかと
だって夢だもん

主人公ちゃんはミンウさまを憧れと尊敬の眼差しで見ています
ヒルダさまの恋バナにどきどきしつつ、ぼんやりミンウさまを思い浮かべてさらにどきどきするといい!

そんな気分で書いてます




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