4 反乱軍
それは一瞬の事だった。
燃え盛る炎。襲いかかる敵兵たち。逃げ惑う民衆。あちこちに溢れる怒号や悲鳴。
パラメキア帝国の襲撃により、美しかったフィンは一夜にして無残な姿に変わった。
フィンが、落ちた。
◇
「ミンウ殿。こちらも頼みます。」
「ええ、只今。」
フィンから撤退し、我々はアルテアに非難していた。あの夜襲から5日経つ。死者・行方不明者は既に全国民の1/3近くにのぼり、日に日に増える一方だ。
私はほぼ不眠不休で人々の治療に当たっている。次々と運び込まれる負傷者の手当に追われていると、頭上から声をかけられた。
「ミンウ殿。」
顔を上げると、白騎士団長が立っていた。彼は私に向けて、その場で首を小さく横に振った。それまで休まず動かしていた手を止めて、私も頭を下げた。
「そうですか……。」
「我々もリリーが気がかりです。捜索を続けます。」
「……痛み入ります。」
白騎士団は行方不明者の捜索や
斥候のため、この辺りを探索している。つい先ほどもその内の一隊が帰還したところで、この急拵えの診療所も俄かに慌ただしくなってきた。
日が経つにつれ生存者は減る傾向にあり、行方不明者の生存は絶望的とも思われる。そんななか、リリーも未だ見つからずにいた。
白騎士団が帰還する度、私を気遣いこうして結果を知らせてくれるのだが、その内容はいつも芳しいものではない。
リリーよ。お前はどこへ行ってしまったのだ。無事でいてくれる事を願うより外ないこの状況が、ひどくもどかしかった。
「フリオニール、マリア、ガイ。斥候隊によると、フィンは今、魔物がうろつく危険な街と化している。くれぐれも気をつけなさい。」
「ああ、気を付けるよ。では行ってきます、ミンウ。」
フィンへと向かう、3人の若者の背を見送った。彼らもまた、この戦の被害者だ。
アルテアに落ちる途中、倒れていた彼らをヒルダ様が発見され、保護した。彼らは瀕死の重傷を負いながらも回復し、ヒルダさま率いる反乱軍に志願したのだ。
だが、ヒルダ様は彼らの申し出をお断りになった。彼らの力では命を無駄にするだけだろうとお考えだったからだ。代わりに我々の合言葉をお教えたが、それでも彼らの熱意は変わらない。ならば、まずはフィンに行かせてみることにしたのだった。
聞けばマリアの兄も行方不明だそうだ。そして、彼らにはもう帰る場所がないと言う。
フリオニールを見送った後、今度はヒルダ様とお会いする事になっている。私を呼びに来た兵士と共に広間へと向かうとわたしはヒルダ様の座る椅子の前に跪き、お言葉を待つ。
「ミンウ。急に呼び立ててすみません。」
「滅相もありません。いかがなさいましたか。ヒルダ様。」
ヒルダ様は立ち上がり、私の近くまで来られた。
「少し休んではどうかしら。あなた、ずっと寝ていないでしょう。」
「患者が私を待っています。眠ってなどいられません。」
それだけではない。リリーのことを思うと、どうしても寝付けなかった。
「リリー、見つからないわね。」
「……ご心配をおかけしております。」
「折角リリーが帰って来ても、あなたが倒れていたのではリリーが悲しみます。少しでいいから横におなりなさい。これは命令です。」
陛下は先の戦で腰に大けがを負われ、床に臥しておられる。今やヒルダ様は陛下の代理として、全軍の指揮を執っている。
また、ヒルダ様のご婚約者であるカシュオーン王子のスコット様も討死なさったと聞く。気丈に振る舞われてはいるが、ヒルダ様の心労は計り知れない。故に、私だけ休んでいるわけにもいかない。
固辞する私を見兼ねて、ヒルダ様は近くにいた兵達に何やら命じた。すると兵士達は私の肩を担いで、どこからか持ち出した寝袋に私を押し込んでしまった。ヒルダ様は押し込まれる私を眺めながら、私が眠ったら私の私室に運ぶと高らかに宣言した。
全く抵抗出来なかった。同時に疲れが急に押し寄せてくる。仕方なく目を瞑ると、リリーの姿が映った。
あの日──ファンが攻め込まれた日──リリーは夕方まで私の家にいた。彼女は私が貸していた本を返しに来ており、そのまま共に夕食を楽しんでいたのだ。
何故、彼女を帰してしまったのだろうか。何故、2年前に彼女を独り立ちさせてしまったのだろうか。せめてあの晩、我が家に泊めておけば連れて逃げることができたかもしれない。もしも昼間だったならば共に城にいたのだから、やはり連れ出せていただろう。
そもそも、手放すべきではなかったのかもしれない。今更どうにもならぬ事はわかっているが、考えずにはいられなかった。如何にリリーが大切なのだと、かけがえのない存在なのだと、まざまざと思い知ることとなった。
もう一度、リリーを抱きしめることは叶わないのだろうか。さぞ心細い思いをしていることだろう。
凍えてはいないか。飢えてはいないか。どうか無事でいてくれ。そしてまた笑って見せてくれ。不甲斐ない師を許してくれ……こうして後悔の念に苛まれるのだ。
私は薄目を開けて周りの様子を窺った。ヒルダ様がこちらを見張っていらっしゃる。私が寝たことを確認するまではこの場に留まるおつもりなのだろう。
恐らく眠れはしないだろうが、観念した私は再び目を閉じた。
20140717
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