2 一緒に来いよ
マッシュ達はナルシェに向かっているとエルに教えた。まずはニケアに出て、更に海を越えた大陸にナルシェがある。
ニケアへは、海の中の蛇の道を通らねばならない。そのための道具がモブリズにあったはずなのだが、最近何者かによって盗まれたそうだ。
移動手段がなくなり、マッシュとカイエンが困り果ていた時にガウと出会った、ということだ。
ガウが言うには、彼のお宝が三日月山にあるらしい。
マッシュらがガウに与えたほしにくの礼にその宝をくれるとガウが言うので、彼らは着いて来た。しかし、ガウはお腹が空いており、先にエルの洞窟に行き腹ごしらえをしたかったようだ。それで三日月山ではなく、この洞窟に来てしまったらしい。
エルは大勢で食卓を囲めることが嬉しかった。突然の来客に驚きはしたものの、悪い人間でないと分かればそれで良い。
一行は昼食のあと、三日月山に来ていた。マッシュ達はガウのお宝を探しに、エルは食料の調達の為に同行した。
今は三日月山のリンゴが旬だ。エルはそのリンゴを採ろうとしている。
「なあ、エルは何であんな洞窟で暮らしているんだ? 」
マッシュは手で流れる汗を拭った。彼の金髪が濡れて額に張り付いている。
マッシュはこの山で、ガウのイタズラによって財布を落としてしまった。一旦ガウから離れ、エルの手伝いをしようとしている。
やや遅れて歩きながらガウと共に宝を探しているカイエンも、ゆっくりとエル達に追い付いて来ている。
「うん、まあね」
「危のうござるのう。おなごが、あのような場所で一人など……」
エルは採ったばかりのリンゴをマッシュと、ガウよりも一足早く追い付いたカイエンに手渡しながら言った。
「そうね。でも、帰るところなんてないもの。それよりこれ、食べてみて。おいしいの」
ガウがリンゴをねだる。エルはガウにも一つ渡した。
ガウの宝はまだ見つからない。
「マッシュ達はどうして旅をしているの? 」
「俺、リターナーに協力してるんだ。帝国と戦っている」
「ドマも帝国によって、皆殺しにされ申した」
沈痛な面持ちで、カイエンはそっと手元のリンゴに視線を遣った。
「これ以上、帝国の好きにはさせられないからな。徹底抗戦するつもりだ。でも俺、その仲間とはぐれちまってさ。仲間とナルシェで落ち合うんだ」
「……そう」
「なあ、エル。行くところがないんならお前も来いよ。一人で洞窟にいるなんて聞いて、放っておけないよ」
エルは手を止めて彼らに向き直った。
「あのね、わたし」
「ん? どうした? 」
「わたしは……あ……」
その時、カイエンの背後からモンスターが現れた。エルは慌てて腰に挿していたロッドに手を伸ばす。カイエンも直ぐに気配で気付き、刀でモンスターを薙ぎ払った。マッシュとガウも急いで駆け付け、襲いかかるモンスターに向かって行く。
事なきを得て、エルはほっと息をついた。
「ありがと。カイエンさ……ん?! 」
だが、後からさらにモンスターが増えてくる。次々に現れるモンスターたちの次の標的は、マッシュになったらしい。
モンスター達は一気に攻め込んで来る。マッシュも必死に応戦するが、不意打ちされたのでは防戦一方だ。
「うわああああ! くそっ。間に合わねえ! 」
「マッシュ殿! 助太刀いたしますぞ! 」
「がうがう! 」
ガウもカイエンに続く。しかし、モンスターの勢いは止まらない。エルは魔力を高め、集中し始めた。
「ブリザラ! 」
エルの魔力がはじけた。一瞬で辺りはモンスターを巻き込んで、一面氷漬になる。
「なななな、なんでござるか? いいい、今のは! 」
「エル! 助かったぜ、ありがとな! お前すっげえな! 今の魔法だろ?! 」
「なんと! これが魔法でござるか! 」
カイエンは魔法と聞いて、目をまん丸にして驚いている。その反応にエルはいたたまれない気持ちになったが、マッシュはますます興味を持ち始めた。
「なあ! エル! やっぱりお前も俺たちと来てくれよ! 凄い戦力になるぜ」
マッシュは好意的だ。カイエンも驚きこそすれ、決して否定的ではなかった。だが、エルは悲しそうに目を伏せた。
「……駄目よ」
「どうして。頼むよ」
マッシュは両の手を合わせて、エルに頼みこむ。エルはますます困惑した表情になった。
「……わたし、帝国の魔導師だったの。逃げて来たけど」
「……何? 」「なんだって? 」
カイエンとマッシュは唖然として、エルを見つめた。
エルの両親は既になく、彼女は幼い頃から帝国に育てられていた。
人工魔導師となるべく英才教育を受け、魔導の力を注入された。何年もの過酷な訓練を乗り越え、やがて魔導師と呼ばれるようになった。
しかし、エルとていつまでも子供ではない。帝国の在り方に、その手段に疑問を持ち始める。それが悩みになり、考えるうちに、自分は戦争の道具なのだと気づいてしまった。
エルは絶望した。生きるためとはいえ、ただ言われるままに訓練してきた自分を悔やみ、悩みを更に深めた。自らの存在に戸惑うエルだったが、その頃遂に戦地への派遣が決まった。
任務を拒否すれば、生きる道はない。たとえ脱走に成功しても、生活や命の保証などはもちろんない。だが、エルは戦争の道具にされてまで生きていようとは思わなかった。
エルは脱走した。魔導の力を使えば、兵士達も戦闘機すらも振り切って逃げ切ることができた。
「操りの輪をつけられそうになったり、殺されそうになったりで大変だった。けれど、罪もない人達を殺すなんてわたしは嫌だもの。必死だったからよく覚えてないけれど、とにかく夢中で逃げたわ。それで、気がついたら獣ヶ原にいたの」
ガウは気遣わし気な視線をエルに送り、シュンと下を向いてしまった。
「もし、帝国に見つかったらと思うと、恐ろしくて眠れない日もあるわ。寂しくて仕方ない日もあるわ。だから、ガウやあなた達が訪ねてくれて、わたし嬉しかったの」
マッシュはエルの言葉に静かに相槌を打つ。カイエンも神妙な顔付きで、じっと耳を傾けている。
「わたしだって、いつまでも逃げたり隠れたりしたくない。でも、わたしは帝国の人間だった。それでも一緒に行っていいの? 」
恐る恐る、といった表情で、エルは男たちを伺い見る。
今さら帝国になど戻りたくはない。けれど、反帝国側の人間にとって、やはり自分は帝国側の人間なのだと、エルは痛感していた。
「エルは帝国のやり方が嫌なんだろう? だから逃げて来た。だったら、俺たちと同じだ! 」
マッシュは彼の両手をぽんとエルの肩に置いた。エルは背の高いマッシュを見上げた。
「エル! リターナーに来てくれよ! ……カイエンは、複雑かも、しれねえけど」
マッシュはチラリとカイエンを見遣った。彼はじっと自分の足元を見つめて、深い考え顔をしている。
カイエンもエル理解しようとはしている。エルもまた帝国の被害者なのだとはわかっていながらも、彼は複雑な胸中にどう折り合いをつけたら良いか悩んでいた。
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